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科学的介護よりも先に「論理的介護」
数年前より「科学的介護」なるものが推進されている。科学的介護とは、科学的に自立支援等の効果が裏付けられた介護サービスのことを指す。
具体的には、要介護対象である高齢者の自立支援や重度化防止を目的に、ご本人の状態を数字等のデータをもって客観的に評価することで、「エビデンス(根拠)のある介護」を提供する試みである。
これにより、介護の質の向上や介助の適切性と標準化、生産性の向上につなげるといった効果も期待されている。
それは個々の介護事業所の枠を超えてLIFEと呼ばれる科学的介護情報システムにデータベースとして集約し、分析・フィードバックをサイクルすることでより高い効果的な介護につなげる展望もある。
しかし、その明確な効果は今のところ耳にすることはない。むしろ、参加する事業所の不足、セキュリティの問題、導入コストや運用の手間といった課題が解消されていない様子が伺える。
このあたりは想定されていたが、1番の問題なのはせっかく集めたデータをどのように効果的に活用するのかが未だ曖昧なことである。
このような現状になっているのは、介護業界において「科学的介護」以前に「論理的介護」が養われていないからだと思う。
介護が優先すべきは、科学(サイエンス)よりも論理(ロジカル)だ。
ここで言う論理とは、論理的思考(ロジカルシンキング)と置き換えていい。つまり、目の前の事象や目的に沿って集められた情報を整理・分類化し、推論や仮説を立てて、アクションに活かすためのプロセスである。
論理の組み立てができない、論理的思考ができないと、いくらエビデンスを集めたところで「たくさん情報が集まった・・・で、どうする?」となってしまう。
それは料理できない人が無目的に食材を買って途方に暮れるようなものだ。
だからこそ、科学(サイエンス)以前に論理(ロジカル)を優先したほうが良いのだ。
ちなみに、論理というと数字や数式といったイメージを持つ方もいると思うが、論理には事象や情報を言語化にするスキルが求められる。それは科学も同様である。
このあたりの啓蒙や教育も不足したままデータだけ集めても、そのうち空中分解してしまいかねない。LIFEを活かすならば、今からでも介護育成において論理(ロジカル)に力を注いだほうが良いと思う。
論理(ロジカル)の育成だけではない。情報リテラシーといった分野も必要である。それは現役の介護従事者だけでなく、これから社会に出る学生たちも必要だし、何なら小中学校から養われるべきテーマとも言える。
「論理とはどのように養えばいいのか?」という疑問もあると思う。それは別に小難しい哲学書を読むとかいう話ではない。これはあくまで参考としてお伝えしたいこととして、それこそ中学校レベルの数学を学ぶことをお勧めする。
これは個人の感想に過ぎないが、大人になって改めて数学を学んでみると意外に面白いことに気付く。そして意外に問題も解ける楽しさもあるし、分からなくても納得できる面白さもある。
なぜ分からないことが納得できるのかと言えば、それこそ社会人になって色々な経験をしてきたことから、物事を広い視点で見ることができるからだと思う。これは学生時代には味わえなかった感覚である。
そして数学を勉強していると、色々な角度から問題解決しようとする意識が養われていく。「AならばBとなる」「BということはCにもつながる」といった考えができるようになる。
介護で言えば「この方は前頭側頭型認知症であり、常同行動が傾向としてある」「常同行動ということから、この方は立ったり座ったりを繰り返すのか」といった結びつきができるになる。
今まで問題行動としか捉えられなかった1つ1つの事象がつながる。それはもちろん仮説の域であるが、これからのケアを考えるうえでの方針になる。
話が脱線したが、このようなちょっとした学習によって論理(ロジカルシンキング)は養われる。これは基礎教育であるが、科学(サイエンス)を活かすための一助になることは確かだ。
このような個人の取り組みおよび実体験も踏まえて、「科学的介護」よりも「論理的介護」が先決であるということをお勧めしたい。
そして論理を養うということは、ぜひ楽しんで取り組んでほしいとも思う。社会人になってからこそ構築された脳回路だって十分に活かせるはずだ。分からなくてもテストがあるわけじゃないので気負う必要はない。
そうして日常の介護に向き合ったとき、そして科学的介護に向き合ったとき、介護における課題および目的が明確になっていくと思う。そこからどのようなデータを集め、どのように分析し、どのようにフィードバックするのかが定まる。
とまぁ、偉そうなことを言っているが、未だ高校数学を学び直しているレベルの私である。あくまで個人の見解として面白がっていただければ幸いだ。
ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。