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新規サービス利用の高齢者に「いい顔」をしたい気持ちはわかるが、介護サービスの妨げにならないよう線引きは必要

高齢者介護はサービス業である。高齢者と介護士のマンツーマンのやり取りであることもあり、信頼関係づくりは非常に重要である。

最初はぎくしゃくしても、関わりを重ねるほどにお互い笑顔で気持ちの良い関係性ができれば、介護も円滑に提供できるようになる。

一方、支援対象である高齢者の機嫌を損ねようものなら、仕事がやりにくくなったりサービスを提供不可となる恐れだってある。そのため、新規でサービス提供することになった高齢者との最初の関わりは非常に慎重になる。

しかし、だからといって媚びを売るような態度をとったり、何でもかんでも要望を聞いてあげることは違う。

高齢者介護というサービスの目的は「自立支援」である。本人ができるところは本人が行い、できないところは介護士が支援するのが原則だ。

本人ができるところまで介護士がやってしまうと、それができなくなってしまったり、本人のやる気を奪ってしまいかねない。

馬鹿な話かと思われるかもしれないが、どんなにしっかりしている人でも他人の手を借りることに慣れてしまうと、自分の力でやろうとしなくなってしまうのだ。それはいわゆる「甘え」の結果であろう。
 


 
このようなことを分かっていても、新規で介護サービスを利用することになった高齢者を前にすると「いい顔」をしようとする介護士は少なくない。

それは上記でもお伝えしたように、なるべくお互いに気持ちよく関わり合いたいからであるとともに、自分が介護サービスを提供するときに円滑にことが進むような関係性でありたいからである。

まぁ、こう言ってはなんだが介護自身のメリットのために「いい顔」をするわけだ。媚びていると言われても仕方がないだろうが、仕事と考えれば当たり前の態度かもしれない。

しかし、介護サービスの本質から見れば、最初のうちに利用者である高齢者に対して「いい顔」をするのは推奨しない。

なぜならば、既に上記でもお伝えしたような「甘え」を誘発するとともに、結果的に自立支援の妨げになってしまうからだ。

どんなに「介護なんていらない!」と頑固な高齢者であっても、優しい言葉をかけられると、それが例え相手が仕事でやっていることだと分かっても嬉しいものである。特に介護という(言い方はあれだが)善意のカタチを享受した途端、高齢者は「もっとやってもらいたい」という欲が出てしまう。

それまで独りきりで寂しい思いをしてきた方や、自分でできることも人任せにしてきた方であれば、「もっとやってもらいたい」という欲は加速する。

だからこそ、新規のサービス利用者に対して「いい顔」をしようとするのは避けた方が良いのである。 


 
誤解のないようにお伝えするが、何も高齢者を突き放すという意味ではない。人間関係として、そしてサービス業というビジネスとして適切な距離感をとることが大切と言いたいのだ。

そのためには、やはり介護サービスの基本である「自立支援」に立ち返ることが重要である。

対象となる高齢者はどのような状態と環境にあり、どのような課題を抱いていて、そしてどのように生活していきたいか・・・このあたりをちゃんと理解したうえで必要なサービスを提供するのが介護のプロである。

「いい顔」をして高齢者が気持ちよくなっても、それは後々「いい顔」をした介護士に負担がどんどん重なっていって苦しくなってしまう。そのくらい人間の欲というのは際限がないのだ。

だからこそ、最初のうちに意識することは「いい顔」をすることではなく、「ここまでは自分で」「ここからは介護で」という線引きなのだ。それは介護に限った話ではない、プロフェッショナルというものだと思う。

辛辣な言い方をすると、実力のない人はこのあたりを分かっていない。だから「いい顔」をして何でもかんでも引き受けてしまって、結果的に自分で自分を苦しめる状態に追い込まれる。そして、顧客もまた決してよい状態にならないことは想像に難くないだろう。

そもそも、「いい顔」をしたいのは顧客(高齢者)のためではなく自分のためである。嫌われたくない、いい人と思われたくないからだ。

しかし、そんなことは仕事にはあまり関係ない。求められたことを実績や成果として提示することで初めて評価される。

「いい顔」をしている暇があれば、顧客(高齢者)の人となりに触れて、粛々と必要な介護サービスを提供しながら、ゆっくりと信頼関係を構築していくことが望ましい姿ではないだろうか。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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