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施設入所は選択肢の1つ。決して介護放棄という「逃げ」ではない

――― 仕事を簡単に辞めてはいけない

――― 学校には行かなければいけない

――― 習い事はずっと続けるもの

こんな感じの強迫観念のような風潮が世の中にはある。
しかし、これらは強制されるものではない。

――― 転職が当たり前の時代に仕事は変えてもいい。

――― 学校に行かなくても成長する術は多々ある。

――― 習い事は教養の1つであって継続の有無が本質ではない。

これらは「逃げ」というイメージがあるけれど、別に逃げたところで誰もに迷惑はかからない。こんなこと、誰が何の権利があって広めたのだろう。


 
「逃げ」というイメージになるのは、「自分はもっと頑張れるのに、手を抜いているような気がする」という感覚があるからだと思う。

しかし、「手を抜く」と言うのは「頑張れるのに頑張らない」ではなく「頑張るべきところで頑張らない」ということだ。

何かしらの現実から目を背けたいときに「逃げ」と感じる場合、それ「頑張れないのに、頑張ろうとしている」状態と思ったほうが良い。

それはもはや「手を抜く」とか「逃げ」とかいう考えを改めることではない。「頑張れない」という状態の自分自身に気づくほうが先である。

そのようなギリギリの状態で頑張っている場合ではない。優先すべきは「頑張れない」状態の自分を労わって、心と体をリカバリすることだ。 


 
ここまでの話は介護にも当てはまる。
つまり、身内の介護をギリギリまで頑張る人たちがいる。

親の介護、祖父母の介護、夫婦同士の介護・・・「自分が頑張らなければい」と奮闘し続けた結果、自分の生活が成り立たなくなっている。

そんなギリギリの状況下になってようやく介護サービスや介護施設を検討しているため、介護を要する対象者もまた、色々な意味で状態が悪化・進行していることが多い。

私は介護施設を運営しているが、「もっと早く介護施設を検討したほうが良かったのに・・・」と思うことがある。それはすぐに入所しなくても、何かあったときのために施設見学をしておくことなどを推奨する意味もある。

しかし、施設入所をギリギリになって検討するケースは多い。施設入所の背景を眺めていると、ここ数年で非常に増えているように見える。

それは介護をしているご家族等が「なるべく自分たちで何とかしたい」「なるべく自宅で過ごしてほしい」という愛情や配慮に由来していることは分かっている。

一方、冒頭からお伝えしているように「逃げ」への罪悪感もあると思う。

それは「自分の親を施設入所させるなんて『逃げ』ではないのか?」というイメージだ。そこから、親の介護を頑張れるうちは「逃げ」としての施設入所を選択肢に入れなくなる。



ここで残念なお知らせをしたい。

それは自己犠牲をもって介護をいくら頑張ったところで、決して報われることはないということだ。

そもそも、なぜ介護を頑張るのかと言えば、それは親などの介護を要する人に対して平穏な暮らしを維持するためであろう。分かりやすく言えば、ずっと笑顔でいてほしいからである。

しかし、スキルのない家族が介護を頑張ったところで苦労が絶えないことは当然であるし、そのような環境下にいて介護を要する本人が笑顔になれるはずもない。むしろ、お互いに状況はどんどん悪化することが予測される。

そこから反対に、介護施設などスキルのある専門職がいて、かつ同じように介護を要する同年代(とは限らないが)がいる環境のほうが平穏な暮らしができる――― と考えてみてほしいのだ。 


 
実際、在宅で介護が大変だったという高齢者が、ご家族の苦渋の決断の末に施設入所したところ、それまでより明るくなったり健康的になったというケースを目の前でたくさん見てきた。

さらにその家族から「もっと早めに施設に入れていれば良かった」という安堵の声を聞いている。今まで介護に振り回されてきたが、仕事やプライベート、そして睡眠時間もちゃんと確保できたことから、入所前まで疲れた表情をしていたご家族も健康的になっていく様子も見てきた。

それを受けて、介護施設に入所することは決して「逃げ」ではないと確信するようになった。

このような経験もあり、私は「親はまだ元気だが、今のうちに施設見学をしておきたい」という問い合わせに対しても喜んで応じる。

ときには、全く介護サービスを利用したことがない方に対しては、いきなり施設ではなく、まずは訪問介護やデイサービスの利用などを在宅での介護サービスの活用も視野に入れる提案をすることもある。

もちろん、これだと自分のビジネスにはならない。しかし、広い視点で見たときに、介護サービスを受けたこともないのにいきなり施設入所、というよりは段階を経たほうが当該の高齢者のためになると良いと思うのだ。

このようなステップを経ることも、介護施設も含めた介護サービスというものが「逃げ」ではないということを広める機会になると考えている。


――― 少し思い上がりもある内容になったが、とりあえず介護サービスや介護施設を検討するのは「逃げ」なんて思わないでほしい。そして何より、身内がボロボロになりながら介護を続けることは、百害あって一利なしということをご理解いただきたい。

そもそも、身内で介護をする時代ではない。そのような考えをするのは昔話の時代であって、医療が発達して健康寿命も延びている現代には適合しない。認知症の症状だって多岐に渡っており、単独での対応は困難だ。

もしも、ボロボロになりながら単独で介護をしているならば、すぐに社会資源としての介護サービスや介護施設を検討してほしい。

親などの介護を自分の手でしないことは「逃げ」ではない。
この点だけでも胸に止めておいていただければ十分である。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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