シュレディンガーの抗原検査キット

今や世間的にコロナ感染は、以前に比べると脅威ではない印象がある。しかし、それでも感染が広がっているというニュースを見ると一抹の不安を感じるらしい。

それはやはり、ここ数年で世界的に多くの犠牲者を出し、社会や経済に大きな影響と変化をもたらしたからに他ならない。感染に対して楽観視(見て見ぬ振り)しながらも、どこかでその恐怖感は残っているに違いない。

そのため、微熱や発熱、咳や喉の痛みなどがあると「もしかして・・・」と心配になる。その「もしかして・・・」が当たっていたとき、一緒に住んでいる家族や職場などに迷惑をかける懸念が生じる。

ここで医療機関に受診するか、または市販の「抗原検査キット」を活用するのがスタンダードになっている。

もちろん、医療機関でも感染の可能性をもって検査をするわけだから同じことであるが、それでも手元に抗原検査キットがあると受診せずとも判定ができる。



私も介護施設を運営していて、利用者の症状から「もしかして・・・」と言う場合に備えて抗原検査キットは準備している。実際に陽性者が出た時には、それ以降に結構な量を消費するので結構な出費となる。

・・・それにしても、コロナ感染という世界的脅威を経てのことだろうが、かつてはこの手の検査キットを活用することはなかった。あったにはあったろうが、現代ほど普及してない。

体調が悪ければ多少我慢してでも出勤したり、どうしても我慢できないときは病院へ行った。多くの人たちは前者であり、余程の高熱でない限りは肉体を誤魔化しながら乗り切っていただろう。

それは、かつては抗原検査キットのような個人判断できるツールがなかったからという見方もできる。

抗原検査キットがあると「陰性」か「陽性」というハッキリとした結論が出る。そこで「とりあえず大丈夫」か「出勤できない」「家族に迷惑かけないようしなきゃ」となる。

よほど非常識な人でない限りは、陽性になったならば、自身の体調と周囲への配慮を優先して大人しくするという判断をするだろう。

そのような判断をするのは、やはり抗原検査キットという存在があるからに他ならない。



少し前より運営している介護施設でコロナ感染者が出たのだが、在庫の抗原検査キットが一気に消費した。ほとんどが陰性という結果になったわけだが、以降も状態が変化しないとも限らない。そのため、抗原検査キットの補充を要することになった。

ここで困ったことに、以前ならば使い捨てプラスチック手袋といった医療商材を扱っている業者さんに抗原検査キットを注文できていたが、どうやら少し前から厚生労働省の指示で販売できなくなったらしい。

となると、事業所や施設では調剤薬局やネット通販などでかき集めるしか手段がなくなるという話になる。そこで先週から、現場のコロナ感染対応に加えて薬局に問い合わせしながら抗原検査キットの買い出しをしている。

そのような状況でふと思うことは「抗原検査キットによる検査って今や必要なのか?」ということである。

さらにもっと根本的な議題として「抗原検査キットがなければ、コロナ感染って気づかないのでは?」という疑問である。

つまり、
抗原検査キットで検査をしない限り、多少の体調不良ならば、コロナ感染と気づかないのではないか? 
抗原検査キットがあるから、コロナ感染か否か分かってしまうのではないか? 
と言う話だ。

何だかまるで「シュレディンガーの猫」。観測(検査)しない限りは感染かどうかも分からないし、そのまま時間が経てば感染していたことすらなかったことになる。

コロナ感染を観測できるようになったのは、抗原検査キットがあるからである。そう考えると「シュレディンガーの猫」ならぬ「シュレディンガーの抗原検査キット」とも言える。



別に抗原検査をしたくないわけではない。検査によって施設内の感染まん延防止が早期にとれることは事実だ。特に高齢者は感染も含めて、ちょっとしたことで死に至ることもあるので対策は必要だ。

ただ、抗原検査キットを買い集めているうちに「抗原検査キットというツールがなければ、どんな世界になっていなのだろう?」と妄想してしまう。

まぁ、実際に抗原検査キットが存在しているわけだから、活用できるものは活用するが、もしかしたらこのツールも廃れてしまうのかもしれない。それが良いことかどうかは分からないが、良い意味で不要になることを祈る。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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