![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/162835622/rectangle_large_type_2_443d8c360b195002c7cc23c9ff835869.png?width=1200)
介護の仕事を長期的に続けるには、高齢者との距離感を保つことも大切
「介護は高齢者に寄り添う仕事」というイメージがある。
それは間違いではないが、「寄り添いすぎ」は問題だと思う。
確かに介護は高齢者の身体に触れる仕事であるため、物理的な意味で距離感が近くなる。また、ご本人を知りつつ生活環境に足を踏み入れることから、精神的な意味でも距離感が近くなる。
しかし、この距離感が近くなるほどに「寄り添いすぎ」という状態になってしまうことがある。では、「寄り添いすぎ」つまり高齢者との距離感が近くなりすぎる問題は何だろうか?
物質および事象はその対象が近くなるほどはっきりと見えるが、反面、その全体像が見えにくくなる。その対象を構成する要素や背景を見失ってしまうこともある。それはいわゆる「盲目的」という状態である。
介護における盲目的な状態として「自分は○○さんのことを知っている」「自分は✕✕さんの気持ちを分かっている」ということである。
ここまでは別に問題ではない。むしろ、ベテラン介護士でも新人の介護士でも誰にでも抱く心情である。そのような心情を持っていても、適切な介護サービスを提供できるならば、それはプロフェッショナルとして素晴らしいことだと思う。
何が問題なのかと言えば、高齢者に対して過度に「入れ込む」ことである。それはプロフェッショナルとしての情熱やプライドではない、顧客としての境界線を越えた感情である。
何だかまるで恋のような言い回しだが、あながち間違ってもいないだろう。
恋という表現が理解できないならば、顧客である高齢者(利用者)のことをまるで家族や友人のように見てしまう、と言えば分かるかもしれない。
距離感が近くなり過ぎたばかりに「この人は自分が何とかしなければいけない」という使命感に駆られるようになる。その人のことを知れば知るほど、その人の状態が重篤であるほど、物理的にも精神的にも距離感が近くなる。
それが行き過ぎると、仕事としてはケアプランの範疇を超えた過剰サービスにつながったり、個人としてはプライベートでも高齢者(利用者)のことが頭から離れなくなる。
思い入れが強すぎるあまり、同じ職場の介護スタッフの対応に不満を呈したり、医療や他業種などの連携しているスタッフに対してもあれこれ口出しするようになることもある。
お分かりかと思うが、どんなにその高齢者(利用者)のことを案じているとしても、周囲からすれば迷惑になることもある。それは、介護と言うのはチームプレイであり、個人の情熱や手技で成立するものではないからだ。
そんなに自分の思いを通したいならば、その思い入れのある高齢者(利用者)に対して、ぜひ単独ですべての支援をすれば良いと思う。・・・おそらく、そんなことは不可能である。
仮にやろうとしても、どこかで必ず無理が生じる。どんなにベテランの介護のプロフェッショナルであっても、しょせんは人間。一人でできることなんて限りがある。休まなければ倒れるし、医療処置もスキルや免許が必要なことだって多い。
だからこそ、介護という取り組みは、どんなに相手に思い入れがあっても、支援を要する高齢者(利用者)とは一定の距離感を保つことが必要なのだ。それが長期的に1人の高齢者を支援できることにつながるし、長期的に介護という仕事を続けられるコツである。
実際、長期的に介護の仕事を続けている人を見ると、介護に対して情熱はあれど利用者とはちゃんと距離を置いている。
それは傍から見れば冷たい対応にも見えるが、だからと言って利用者への愛情がないわけではない。適切な関りと介助によって支援は成立している。見た目で判断するのは早計だ。
むしろ、利用者に取り入ろうとしたり、何とか仲良くなろうとしている介護スタッフは距離感が近くなりすぎて、利用者からの要求が多くなってしまい結果的に苦労しているように見える。
あるいは、特定の利用者のことを気にかけるあまり、距離感をとって対応している介護スタッフのやり方に不満を抱いて、「あのような冷たい対応を放置しているこの職場は問題だ!」と言って辞めていった方もいる。
おそらく、そのスタッフのやり方への不満もあるのだろうが、距離感が近くなりすぎていたことへの心労から感情の制御ができなくなっていたとも推察される。これは辞めていった当人の心情なので、本当のことは分からない。
そのため、私は事業運営という立場としては、利用者たる高齢者の安心感と楽しい気持ちを与えようとすることは良しとする一方、過度に入れ込まないように距離感を保つことを介護スタッフに伝えている。
特に新規の利用者に対して、過度に「いい人」になろうとしたり、過度の「いい顔」をして取り入ろうとすることを避けるよう伝えている。それに納得しないスタッフもいるが、長期的に見れば距離感を保つことがお互いにそれなりにやっていくことにつながる。
――― 本記事を読まれて納得いかないと思われた方もいると思う。しかし、介護に限らず盲目的なって良い結果になった話は聞いたことがない。
そのため、本当の意味での介護のプロフェッショナルならば、利用者たる高齢者と一定の距離感を保った支援をすることが望ましい。一定の距離感をどうすればいいかは事業所の方針だったり、ご本人やご家族の期待や要望、それを踏まえたケアプランといったものを境界線にすればいい。
そうすれば、過度に入れ込むことなく、そこそこの思い入れと情熱をもって介護の仕事ができると思う。それが長期的に介護の仕事を続けられる鍵であるとも思う。
ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。