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3つの処遇改善系の加算が一本化されるのはなぜか?

■ 1本化される処遇改善系の加算


令和6年度(2024年度)介護報酬改訂において、現在3つある介護職員の処遇改善系の加算が1本化する動きがある。

本記事を投稿する時点では介護報酬改訂前なので具体的にどうなるか分からないが、煩雑な加算制度を見直すことは申請や手続きを行っている事業所にとっては「ようやくか・・・」と切願ものである。

現行ある処遇改善系の加算は以下の3つです(カッコ内は制度が開始された年度)。

介護職員処遇改善加算(平成24年)
介護職員等特定処遇改善加算(令和1年)
ベースアップ等支援加算(令和4年)

これだけ見れば「たった3つの制度を1本化する必要はあるのか?」と思われるかもしれないが、逆に見れば「たった3つの制度"なのに"1本化する必要がある」のだ。


■ 構造が異なることが、煩雑さと齟齬を生む


3つの処遇改善系の加算の目的は、介護職員の賃金改善と共通している。

しかし、構造と考え方がそれぞれ異なっている。具体的には受給要件と配分基準が異なるのだ。それが申請や実績報告などの事務手続きを煩雑にし、実際に介護職員へ配分に整合性のとりにくさを生んでいる。

例えば、「介護職員処遇改善加算」は職員への配分ルールにそこそこ自由度はあるものの、職場改善要件とキャリアパス要件(職務職責や昇給の体制整備や資質向上のための個別計画の策定など)のハードルが高い。
特にキャリアパス要件は、介護業界で苦手意識をもつ人たちが多い「人材育成」と「計画化」という2点がネックなうえ、その整備がほぼ事業所に委ねられている状態であり答えどころか参考となる素材がほぼない。

「介護職員等特定処遇改善加算」は、見える化要件や介護福祉士の配置割合など受給要件は比較的分かりやすく、(一部除き)対象者も介護職員に限定しなくても良いというメリットがある。
しかし、配分区分に応じて配分するため微調整が必要であることと、この加算の目玉である「月額8万円改善」「改善後年間440万以上の職員を1名以上」の達成が事業所や地域により困難である実状がある。
これが原因なのか分からないが、5年近く経った今でも全国の事業所の算定率は7割弱にとどまっている。

そして最後の「ベースアップ等支援加算」は、上記の介護処遇改善加算を算定してれば受給できるが、要件である「加算額の3分の2以上を、基本給や毎月決まって支払われる手当のベースアップにあてる」という要件が意外に分かりにくいうえ、職員数の変動も想定すると定期的にチェックが重要になる。
また、この制度ができるにあたり国が「月額9,000円相当の処遇改善」と提示したものの、提供する介護サービス量や職員数など事業所ごとに異なるので、これも実現できている事業所はどのくらいあるのか疑問だ。

介護職員等特定処遇加算もそうだが、どの介護職員にも同じ額を賃上げ又は同額支給する意図があるならば、9,000円×介護職員数として支給すればいいのではないか? と思うのだが、事業所ごとに自由度を与える必要もあろう。それが3分の2要件などとしていることが伺える。


■ 管理者や職員への説明と理解が困難


加算制度を活用する事業所は、職員に対して計画や受給及び支給した実績を周知する義務があるわけだが、個人的にはこれが1番キツい。

と言うのも、加算に関する処理は売上や給与に係る話なので、ある程度の規模になると運営法人が担うことが多いと思われるが、この説明を現場側にするときに理解してもらうのに苦労する。

そもそも、制度概要や申請手続きなどが記載されいてる通知文が難敵だ。文章は当然日本語であるが、初めて目を通す人だとその内容が頭に入ってこない手ごわさがある。
失礼ながら、ちゃんと理解すべき現場管理者の多くは、基本的な運営要件や通知文に苦手意識があるうえ、数字も混じる加算制度を説明しようものなら嫌がられる。うなずいて説明を聞いているから安心していると、蓋を開いてみたら全く理解していないこともある。

もちろん、このようなことを想定して、最低限のエッセンスに絞った資料を作って説明するが、管理者によっては運営基準の基礎講義から始めたほうが良いこともある。

また、一般の現場職員に説明するときも誤解がない説明が必要だ。そうしないと、表面的な言葉尻を捉えて「自分はもっと貰えるはずだ」「事業所は受給したお金をプールしている」などと勘違いと不満を口にする職員が出て嶌うから注意が必要だ。


――― 介護職員の賃金改善として加算制度を算定することに意義があるし、人材不足の予防として感謝すべきことである。

しかし、いざ受給しようと意気込むも管理・運用が面倒くさいとして、申請を断念する事業所も未だにある。実際、介護職員の賃金改善になるのだから全事業所が受給していてもおかしくない制度なのに、各加算において10%弱の事業所が算定していない。

おそらく、ただでさえ忙しい介護現場と言われているうえ、現場は積極的だが書類手続きや管理業務などが苦手な介護者も少なくないので、どうしても二の足を踏んでしまうと思われる。

一方、今回の1本化だけでなく、国も申請や実績報告の書式を徐々にではあるが改訂している。しかし、上記のように煩雑な処理とそれぞれ複雑な制度をシステム化するのは困難な様子が伺える。その証拠に未だにエクセルベースだ。

この手の話は幾度もしてきたが、介護報酬の請求と加算の申請(報告)は独立せずに、何なら公表などの事業所情報と併せて1つのデータベースにできないものかと思う。

と言うわけで、愚痴っぽい記事となって申し訳ないが、賃金改善を目的としてより簡便に取り組める制度になっていただければ幸いである。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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