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離床センサは転倒防止に有効だが、介護者の精神的な負担になりかねない。運用ルールを定めることが大切

■ 事故防止か精神的な負担か


介護施設では事故が起こる。確実に起こる。

その介護事故の1つが転倒である。高齢者は筋力やバランス感覚が衰えていることから転ぶリスクが高い。

それでも歩けるならば誰もが歩きたいと思うだろう。歩けるということは自分の意思で行きたいところに行けることと同義だから。

一方、状態によっては誰かの支え(介助)を要することもあるし、場合によっては一時的に歩く・立つをせず可能な限り安静を要することもある。

しかし、そのような状態でも自らの状態を過信して、あるいは一人で歩けない状態であること自体を忘れてしまっていることもある。そうして、自分で歩こうとした結果が転倒に至る、ということは介護では珍しくない。

そこで離床センサといった、ご本人の動きをセンサが検知して、それを介護者へお知らせする福祉用具がある。これにより転倒防止を期待する。

確かにこれは転倒などの事故防止として有用である。しかし、介護者にとっては弊害もある。それは「精神的な負担」という意味での弊害だ。


■ 離床センサの仕組み


話を進める前に、少し離床センサについて振り返ってみたいと思う。

離床センサと言っても色々ある。基本は対象者の動きを何かしらの方法で検知して、それを介護者へアラート等で通知するものだ。

ベッドの床にマットを敷いて足が触れれば検知される仕組みのもあれば、赤外線センサが対象者の身体が触れることで検知するタイプもある。
モニター監視の見守りシステムと連動して、対象者が転びそう(転んだ)ことをAIが検知して通知するタイプもある。

通知方法は色々あるが、一般的には「ピー、ピー」などの音や童謡など音楽であろう。それが事務コーナーや職員の詰所などで鳴るようになる

赤外線センサとか言うと何だか高度なイメージを持たれる方もいるが、昨今では簡単なものであれば1,000円もしないで手に入る。但し、安価なものは検知する感度が悪かったり、感度は良いけれどアラートの音量が調整できないなどのデメリットもある。

もちろん精度や仕様が良いほどに高価になるが、赤ちゃんやペット用の見守りカメラだってホームセンターに売っているくらいだから、介護であっても気軽に導入できるようになっている。


■ 離床センサのアラートがストレスになる


さて、介護施設で離床センサを導入した経験がある者としての感想だが、確かに利用者(高齢者)の動きを察知して、すぐに駆け付けることができることにおいては有効だ。つまり、転倒などの事故防止にはつながる。

しかし、それが有効だと思えるのは、対象者たる利用者がそこまで動かない場合だ。動きが頻繁だと、当然ながら離床センサが動くたびに検知して、そのたびに通知される。

対象者が認知症の方であれば、ハッキリ言って鳴りっぱなしである。単独では動かないほうが良い、何なら絶対安静の場合であっても自身の状態を忘れて動こうとする。

特に前頭側頭型認知症などの場合、常同行動と呼ばれる同じ動作を繰り返すことから、居室内で立ったり座ったり、歩いたり横になったりを繰り返すこともある。そのため、アラートが鳴って駆け付けると横になっていることから、一見すると何事もなかったような状況になる。

他利用者の対応や自身の担当業務などもある中で駆け付けたのに、アラートが鳴るたびに「行かなきゃ」となっては「何でもなかった」となってしまうと、介護者が精神的に疲弊してしまう。

次第にアラートがなるたびにビクっとなってしまったり、アラートがプライベートでも寝ても覚めても脳内を駆け巡る状態になってしまう人もいる。


■ アラートが日常になってしまう弊害


離床センサの弊害は、介護者のストレスだけではない。

上記のように対象者(高齢者)が動くたびにセンサが反応してアラートがなることが頻発し、駆けつけるたびに何事もないと言う状況が続くとどうなると思うか?

それは、アラートが鳴ることが日常になってしまうのだ。そのうち「別に急いで行かなくも何もないでしょ」という感覚になってしまう。

それはまるで離床センサが「オオカミ少年」のような扱いになってしまう。
その結果としてアラートが鳴っても停止ボタンを押して、その方の居室に行くということすらしなくなる。

 当初の目的は転倒などの事故防止だったのに、「アラートが鳴ったら停止ボタンを押す」ということが日常業務になってしまう。

これは大袈裟な話ではない。私が介護現場で実際に目撃した場面であり、そして私自身もまた気づかないうちに陥ってしまった感覚である。


■ 離床センサを運用ルールを決める


誤解のないようにお伝えすると、離床センサを設置することや離床センサそのものを否定しているわけではない。

しかし、対象者や使い方によっては介護者のストレスになったり、目的そのものが薄れてしまうという弊害がある。その弊害はあくまで可能性ではあるが、どの介護現場では起こりうることだと思う。

このような事態を防止するため、離床センサを選定するとき、そして実際に設置するときには運用ルールをその介護現場でしっかり決めておいたほうが良いと思う。

選定においては対象者(高齢者)の身体状態と行動範囲から、どのような動きをするかを想定しておく。そして、その想定からどのような事故が想定されるのかを具体化することも大切だ。

そして運用において大切なことは「アラートが鳴ったらすぐ駆け付けられるようにする」という手段を目的にするのではなく、「〇〇さんが転んで状態を悪化しないようにする」といった利用者視点を目的にすることだ。

そうすれば、アラートが鳴ったとしても「行かなきゃ」となったり「別に行かなくてもいいだろう」となったりすることを防止できる。

これは私の施設のケースだが、アラートがあまりに鳴る利用者の場合、「短時間に3回続けてアラートが鳴ったら様子を見に行く」「1回だけ鳴ったら問題なしとする」あるいは「全く鳴らなくても1時間に1回は様子を見に行く」といった感じにした。

これはもちろん全ての対象者に適合しない。あくまでこの事例の利用者の日常の行動から導き出した運用ルールだ。

こういった検討によって、離床センサに有効性と意義をもたせて転倒などの事故防止につなげることができれば嬉しいと思う。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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