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介護事業は行政指導対策が本業にあらず、高齢者の支援が本業である

介護事業の多くは、介護保険制度によって成立している。そのため、国や市町村等(以下、行政)の管轄下のもと、法令や運営基準を徹底遵守した運営が求められている。

そのため、6年に1回程度の間隔で運営指導(旧 実地指導)として行政の監査員が事業所や現場に足を運び、記録や書類、建物や設備などを点検する。

このような現地調査を受けて書類ミスや申告漏れなどの不適際が複数あれば、その場で指摘される。そして是正指導を受けることになる。

同様の不手際が複数の事業所であれば「このような誤りが多いです」ということも公開される。最近で言えば、居宅介護支援に係る特定事業所集中減算の適用漏れへの是正指導が目新しい。

このような是正指導に関する通達を受けてると「自分の事業所もちゃんと整備できているか確認しよう」という(ある意味での)啓蒙活動になる。


 
一方、「自分の事業所は大丈夫だろうか」という漠然とした不安が積もると事業運営として少し間違った方向に向かうこともある。

よくあるのが「とりあえず書類は何でも保管しておこう」「インターネット上にある記入用紙に書いていればいい」というものだ。これは「質」よりも「量」を重視している状態だ。

これは法令や運営要件に疎い介護現場ではよくある。「運営指導で指摘されないため、とりあえず書類を揃えておけばいい」と考えるわけだ。しかも、法令や運営要件を詳しく学ぶけでもなく、インターネット上で大雑把に見た内容から「とりあえず」で事を勧めようとする。

ここで問題なのは「行政指導を受けないための対策」という発想だ。

法令遵守は大切であるが、事業目的は法令遵守そのものではない。法令とは事業基盤であって事業そのものではない。

もしも、行政指導を恐れているならば「介護事業は行政のためにやっているわけではない」くらいの意気込みはあって良いと思う。


 
また、行政指導への対策と言うが、そもそも行政は事業所を是正して事業継続してもらうことが本質であって、指摘して潰そうとしているわけではない。その点を履き違えないことも再認識いただきたい。

そのように考えれば「行政指導を受けないため」と無駄な時間と労力をかけて「とりあえず」の書類を作って保管だけしたり、法令や運営要件も理解せずに何となくの記録や施設整備をする必要もない。

もしも本当の意味で行政指導を受けないための整備をするならば、やはりまずは、法令や運営要件をちゃんと理解することが第一である。

そのうえで、「この記録は何のためにあるのか?」「この書類があることは事業所にとって何の意義があるのか?」を考えてみてほしい。

おそらく、運営年数が長い事業所ほど「何のためにあるのか?」を確認しないまま記録や書類作成を惰性でやっていることが多い。実際、私もこのあたりで現場職員と議論を交わすことが多々ある。


 
一方、行政の指導内容にも問題はあると思う。それは「運営基準に記載されているから」「他の事業所ではこうしてますよ」という言い方をされることがある。

ときには「行政がそこに口出しするものではないのでは?」と思うこともあるが、担当者があまりに前例主義でビジネス視点から合理性に欠ける発言をする場合は根本的な質問をすることもある。

別に食って掛かっているわけでなく、単純に「なんでそのような運営基準があるのですか?」という根本的な疑問を問うているだけのことである。

しかし、答えられる担当者は少ない。多くの事業所が普通にやっていることにた今さらそのような質問をされるとは思っていないのだろう。まぁ、行政はあくまで指導として項目通りに進めているだけだから、根本的なことを知らなくても仕方ないと思う。

しかし、事業所にやってきて指導をするわけだから、自分たちが用いている法令や指導事項に対して「なぜ、これが存在するのか?」くらいは分かっていて欲しいと思う。


 
――― と、このように書くと行政を敵に回すような言動ばかりしているようだが、別に意図的に揉め事にしようとは思っていない。

それどころか、法令や運営基準などは介護事業を運営するにおいて、理に適っていると思っている。単純に法令が時代に即していなかったり、具体的に書類や記録などを整備するにあたり解釈違いが生じることに、もどかしさを感じてしまうだけだ。

特に現代はデジタル化が進んでいる。それなのに行政は未だに「この書類に記入してFAXまたは郵送してください」という体制が残っている。そして介護事業所も「書類をたくさん揃えていれば体裁は整えられる」という体質が伺える。

このような状況だから法令や運営基準も時代に適合しないのだろう。

例えば、似たようなフォーマットに同じ内容を何度も書いていることはないだろうか? そのため同一情報があちこちに点在しているのが当たり前となり、それが結局「たくさん揃えていれば良い」という旧石器時代の考え方になっていると思われる。

改めてお伝えすると、介護事業は行政のためにあるわけでない。行政指導を受けないための対策が本業ではない。

このことを忘れず、もしも今何かしらの書類を作成しているならば、「この記録は利用者の支援に活用できるのか?」「この書類は事業運営の維持・向上のために有益なのか?」と振り返ってみてはいかがだろう?


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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