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施設に入所すれば認知症が治ると思っているご家族は少なくない
当たり前のことを言うが、介護施設は病院ではない。医療も備わっている施設もあるが、基本的に介護施設は治療の場でなく、「生活の場」である。そこでご本人の肉体も含めた生活を維持できるように支援するのが介護の役割である。
さて、私はグループホームを運営している。ここで言うグループホームとは正式名称「認知症対応型共同生活介護」であるが、これを聞いても何のことか分からないと思うので、認知症の高齢者が入所できる施設程度に考えていただければ十分だ。
そこで働くスタッフは認知症ケアに関する知識と対応術を備わっていることが前提であり、その基本的な対応はコミュニケーションとなる。また、認知症である高齢者個人の活動も重要な要素だ。
もちろん、医療と連携して内服薬によっても症状を緩和する。内服薬という薬物療法、そしてコミュニケーションと活動という非薬物療法の両面からのアプローチで認知症ケアは行われる。
しかし、冒頭でお伝えしたように、介護施設は病院ではない。これは認知症を専門にしているグループホームという施設も同様だ。
残酷なことを言うが、認知症専門の施設だからといって認知症が改善するということは決してない。むしろ、確実に進行すると考えたほうが良い。
内服薬だって進行を抑えたり軽減したりする程度だ。それによりゆっくり進行する人もいれば、一気に症状が悪化していわゆる問題行動と呼ばれる状態になる人もいる。
このような変化も視野に入れつつ、ご本人やご家族の希望を取り入れ、ご本人の課題を見極め分析して支援するのがグループホームであり、「認知症を治療するための施設ではない」ということをお伝えしたい。
なぜ、このような話をするのかと言えば、グループホームに入所した利用者のご家族の中には「認知症専門の施設に入ったらいつか認知症が治る」と思い違いをしている方が少なくないからだ。
実際、面会にお見えになったときに「治ったらまた家に帰ろうね」という類の発言をするご家族がいらっしゃる。認知症は治るものと思い込んでおり、さらに施設とは認知症を治療する場であるという誤解をしているわけだ。
また、遠い親戚の方ともなるとその思い込みや誤解は大きくなる。ご本人が外出を楽しんだり買物したりできるレベルでない認知症にも関わらず、こっそりお金を渡そうとする人もいる。
また、食事の仕方もうまくできない方に特別な食品を持ってきたり、嚥下状態が落ちている方に歯ごたえのある食品をお土産に持ってくる場合もある。
これらは都度ご本人の状態を説明するが、この手の振る舞いをする方々も、おそらく「いつか治るだろう」という根拠なしの理屈でそうするのだと思われる。
ちなみに、(あくまで最悪のケースとして)ご本人の認知症の症状に支障が出る可能性があると判断される場合は、例えそれが厚意であるとしても、面会者が不満に思ったとしても「お引き取り下さい」と言うこともある。
それはこちらが認知症の専門職としての判断である。理解してもらえなくても構わない。なぜならば、支援対象はご本人であって面会者ではないのだらから。施設で落ち着いて生活しているのに、無知な第三者が勝手な振る舞いをされるとそこまでの認知症ケアが無意味になってしまう。
もしも面会に来て不満に思いたくなければ、せめて認知症の基礎知識は学んでからお越しになってほしい。そうでなければ、せめて施設としての説明に耳を傾けてほしい。
――― 何だか辛辣な記事となってしまったが、認知症ケアというのは何のきっかけで良くも悪くもなるし、一気に進行してしまうこともある。
また、認知症の原因物質に直接アプローチする薬は出始めているが、変質してしまった脳を元の状態に戻すことは現代の医学では不可能である。そのため、認知症は根本治療ができないとご理解いただきたい。
いや、理解しなくてもいい。せめて施設入所している認知症の高齢者ご本人たちが少しでも穏やかに過ごせるようにご協力いただくだけで十分だ。
ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。