人事のためのキャリアコンサル_010:ライフステージが変わって、ワークライフバランスの確保をしたいが現職だと難しい
「人事のためのキャリアコンサル」とは、"人事"プロフェッショナルの方々のキャリア支援を目的に、架空の人事経験者のプロフィールを元に、「もし私だったらこんなアドバイスをする」をまとめたコンテンツです。
キャリアサマリ:
35歳、男性
日本語ネイティブ、英語ビジネスレベル
現職は従業員規模50名のIPOを目指すITサービススタートアップ企業で採用担当。約1年前にお子様を出産、3ヶ月の育児休暇を経て職場復帰。夫婦共働きのため、保育園のお迎えや家事を分担しながら働いている。
現年収650万円
課題:
ライフステージが変わって、ワークライフバランスの確保をしたいが現職だと難しい。
キャリアアドバイス:
結婚・離婚、出産、育児、転居、介護、近親者の死別、子供の受験・進学・・・「仕事」外のイベントで、自分自身の時間の使い方やマインドシェアが変わることで、働き方を変えたい/変える必要があることは、どんな人にも起こり得ます。
また、それが理由で転職を考える方々に数多く会ってきました。例えば、
お子様の中学校受験をサポートするために、自分で時間の融通をきかせられる環境、かつ、通勤のしやすいエリアの会社に転職をする必要があったため、外資製薬会社のHRBPから、中小のHR Headに転職をした女性
ご両親の介護のために、東京都内から埼玉北部に転居する必要があったため、外資製薬会社の労務人事から、外資メーカーの工場人事に転職をされた男性
パートナーの男性の転勤に伴って、東京から関西エリアに転居する必要があっため、新卒で入社した大手コンサル会社人事から日系スポーツメーカーに転職をされた女性
そして、ライフステージの変化に伴う転職ニーズで多いのが、出産・育児です。
私自身も2歳と0歳の息子たちがいますが、出産前と出産後ではイメージをしていた時間の使い方やメンタル、家庭と仕事の優先度とは、かなり違いました。出産前は「出産後もバリバリ働きたい」と思っていても、実際に出産・育児を経験したら、仕事よりも子供との時間を大切にしたい、と考えが変わる友人が周りに何人もいます。
出産・育児に伴ってワークライフバランスを重視できる環境を望むのであれば、選択肢としては、以下の3パターンが考えられます。
ワークライフバランスを重視しやすい環境の会社に転職
現職で制度や仕組みを変更したり、役員/上長と掛け合って勤務時間や勤務体系を変えてもらう
家族/親族の協力や家事アウトソースサービスを使ったり、オフィスの近くに転居するなど、仕事に割ける時間を捻出する
「2. 現職で制度や仕組みを変更したり、役員/上長と掛け合って勤務時間や勤務体系を変えてもらう」は、IPOを目指しているスタートアップ企業の場合、代表/役員の人事や組織に対するポリシー次第ではありますが、「ワークライフバランスを重視する」カルチャーと仕組みを意図的に作ろうとする会社は少ないでしょう。ただ、一人の人事担当者として、「経営・事業目標の達成のためにワークライフバランスを重視する環境を作った方が良い」という確信があれば、提案をした方が良いと思います。こちらについては、記事の最後でもう少し考えてみます。
「3. 家族/親族の協力や家事アウトソースサービスを使ったり、オフィスの近くに転居するなど、仕事に割ける時間を捻出する」はご家族との関係や話し合い次第なので、「1.ワークライフバランスを重視しやすい環境の会社に転職」のために早々に動き出すことをオススメします。
その際に、会社選びから選考までで、注意した方が良い点を上から優先度の高い順にいくつか挙げてみます。
会社の方針:そもそも会社として「ワークライフバランスの重視」を推奨しているか?
選考中に伝えること:プライベートのことを包み隠さず伝えて、こちら側のニーズを正しく知ってもらう
上司の考え方:面接で上司に「ワークライフバランスを重視するメンバー」をどのようにマネジメントしているかを聞く
働いている社員の実態:面接や会社訪問時に働き方の実態を聞く
会社のフェーズ:上場企業 or IPOを目指していない老舗企業が「ワークライフバランスの重視」がしやすい可能性が高い
配属先チームの人数:自分と同じ/近しい仕事をしている人=自分の稼働を代替してくれる人が多ければ多いほど良い
会社の評判と口コミ:働き方等に関する情報を調べる
「会社HPに『ワークライフバランスを重視した働きやすい会社です』と書いてあったから」「面接で『働きやすい職場ですよ』と言われたから」など、少ない情報で判断をしない方が良いです。実際に、「面接で言われたことと違った」という理由で転職活動をしている方に頻繁に会います。
なるべく多くの情報を、異なる収集元から仕入れた上で判断することをオススメします。
「2. 現職で制度や仕組みを変更したり、役員/上長と掛け合って勤務時間や勤務体系を変えてもらう」についても、もう少し考えてみます。
まず、育児・介護休業法では、3歳未満の子どもを育てている従業員がいる場合、時短勤務制度を設けなけれならないとしています。そのため、当然就業規則に則って時短勤務をすることはできますし、会社が拒否をすることは原則違法です。ただ、制度が適用できたとしても、役員や上司の育児を含む仕事外への時間の使い方に対する考えが、自分と大きくズレていた場合、実態としては働きづらい環境になる可能性もあります。
また、現状が「リモートワークなし、フレックスタイム制度なし」など、働き方に柔軟性が低い環境の場合、採用や離職防止の観点から、制度変更をするメリットは挙げられるでしょうが、結論として「今よりも制度変更をした方が、経営目標を達成できる」という明確なロジックが提示できなければ、制度の変更は難しいでしょうし、一人事担当者としてやるべきではない、と私は思います。
時短勤務の適用や、働き方に関する制度の変更をせず、役員や上司と掛け合って、運用として働き方を変更する選択肢も考えられます。もしあなたが「人事」という仕事でなければ、この選択肢はありだと思ってます。ただ、小規模な会社の中で人事担当者が働き方を変える運用をすることは、他の従業員が同様の働き方を希望した場合、受け入れないロジックがないため、1人への特別対応ではなく、実質は制度として運用せざるを得なくなります。「経営目標の達成」へのロジックがないまま、結果として新しい制度を導入することになるため、会社にとってはデメリットの方が大きいアクションになる可能性が高いでしょう。
と、諸々考えてみると、現職に残るのであれば「役員や上司の育児などに対する考え方が自分の考え方と合ってるか?」次第で、時短勤務や制度変更などのアクションをするべきかどうかが決まってきますので、まずは役員や上司との対話からスタートしてみた方が良いですね。