『大地の恵み、優しさの恵み』~リンゴのケーキ~
木々の葉は大半が落ちて、見通しの良くなった景色の先を白くなった山々が縁取る。
部屋の窓から見えるリンゴ畑では、そろそろ終わりを迎える収穫に精を出す人たちの姿があった。
冬の備えを、私もやらなきゃな。
すっかり昇った日をガラス越しに浴びて、うーんと伸びをした。
12月に入ってからでは少し遅い、タイヤ交換。
県内でも地域によってはすでに積雪の知らせも届き始めた。
防寒の作業着を羽織り、玄関にある作業手袋をはめて軽く手を握る。ギュッという感触は気持ちが上がる。よし。
駐車場に停めた車の横に、冬用タイヤ、油圧式ジャッキ、レンチや工具を集めた。
まずはすべてのタイヤのナットを緩める。長めのコンビネーションレンチにグッと力をかけて、解放されたときの手ごたえを感じる。
次に、車の下を覗き込んでジャッキポイントを目視と手探りで探し当てて、油圧ジャッキをかませると、少しずつ車体を持ち上げていく。少し前まで使っていた手回しのジャッキも物理的な仕組みが気に入っていたけど、労力的には圧倒的に油圧ジャッキに軍配が上がる。弱い力で鉄の車体を動かす快感は捨てがたい。
タイヤが宙に浮いたのを確認して、今度はクロスレンチでナットを外す。一方をナットに差し込んだ状態で横に出ている棒をクルクルと回す。抵抗が低いとこれがカッコよく決まる。
タイヤを外したら、用意しておいた冬用タイヤを装着して、こんどは対角になるよう順番にナットを締めていく。本締めは最後にするので、タイヤを固定できたところでジャッキをゆるめて車体を降ろす。
一つ終わると、うーんと伸びをして屈んだ姿勢で固まった身体をほぐす。
冬の空気を一気に吸い込み、冷たい刺激が鼻腔から喉まで通過した。
部活動だろうか、同じジャージを着た自転車が3台、目の前の通りを走ってきた。肌を刺すような空気をものともせず走り抜ける若い背中を、眩しく見送った。
残り三本も同じようにタイヤを履き替えてジャッキを降ろしたら、最後にトルクのかかるコンビネーションレンチで仕上げる。
身体で覚えた力加減で、対角線になる順に体重をかけてグッと押し込み、ナットを固定していく。
夏用タイヤは汚れや溝の小石を落として、玄関横にあるタイヤ置き場に積み上げて保護カバーをかぶせる。次に会うのは暖かくなってから。それも楽しみ。
工具を片付けて部屋に戻り、手袋と作業着を脱ぐと、慣らし走行を兼ねて買い物に出かけるためコートを着てドアを開けた。
「あっ、と」
危うくドアがぶつかりそうになったのは、窓から見えたリンゴ畑を所有する家の奥さんだった。
「すみません」と謝る私の声にかぶせるように「これ食べて」と差し出されたのは、ずっしりとしたビニール袋。
傷が見えたり色が薄かったり、商品にならない傷リンゴたち。「食べるでしょ」と言われて「はいもちろん!」と勢いよく答える。そう、毎年いただいてるのだ。
「タイヤ交換、精が出てたねぇ」乾燥した頬に細かいしわを寄せて、奥さんが笑った。見られてたか。
お互いによく見渡せる場所にあるリンゴ畑は、窓から見たときの赤いリンゴがきれいに消えて、枝だけになっていた。
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リンゴは傷んだ箇所だけ切り落とせば新鮮でおいしく、色が薄れているのは味に問題ない。
それでも数を受け取ってしまうと消費が追いつかない。
そこで、毎年必ず作るのはリンゴのケーキ!
【作り方】
リンゴ4個をいちょう切りにします。
今回は大玉だったので3個半。余った半個はおつまみです(笑)。
シナモンを全体にまぶして混ぜます。
リンゴの切り口がはりついているのも外してなるべくまんべんなく。
シナモンの香りが立って、この時点でもう美味しそう。
道具を用意して、粉系の分量をはかっておきます。
卵:4個
砂糖:200g
小麦粉:200g
無縁バター:200g
面倒にならない一番のポイントは、計量が簡単なこと!
ハンドミキサーで卵を混ぜながら、3,4回に分けて砂糖を投入。
いい感じに泡立ったらミキサーを止めて、溶かしたバターを入れてゴムベラで気泡をつぶさないように気を付けながら混ぜます。
そして次に、小麦粉を数回に分けて入れながら、ゴムベラで切るように混ぜます。
ダマが気になったらヘラでつぶしながら、ボウルのふちについた生地も時々回収しながら、切るように。
面倒だからふるいにはかけません(笑)。
小麦粉が目立たないくらいまで混ざったら、シナモンをまぶしておいたリンゴを投入!
リンゴが大量なので混ぜにくいけど、なるべく全体に生地が行き渡るように、ゆっくり、大きく。
そして、ケーキ型に入れて焼きます。
ウチの場合は鍋タイプなので、底に丸く切ったクッキングシートを敷いて、側面は焦げ付き防止のためバターの余り(最初に取り分けておく)を厚めに塗ります。足りなかったらマーガリンを塗ります。
所定時間焼いたら、鍋から外して、粗熱を取ったら完成!
焼きたてはホント香ばしい♪
生地を流し入れる前に、くし形に切ったリンゴを並べておくとちょっと飾りっぽくなります。
断面はぎっしりリンゴ。
外側はサクっと、中はリンゴから出た水分でしっとりとしたケーキです。シナモンが効いて最高!
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なるべく慎重に切ったケーキの、特に上手くいったものをいくつか包んで、翌日の仕事帰りに友人宅に届けることにした。
去年持って行ったら気に入ってくれたので、今年もどう?と聞いたら「生クリームと紅茶を用意しておかなきゃ」と前のめりに喜んでくれた。
私はそんなおしゃれに食べないなぁ、と、崩れた一切れを朝食代わりにつまみながらインスタントコーヒーを飲んだ。たっぷり入ったリンゴが身体に染みて目が覚める。
身支度を整えて、ドアを開けると、冷気と共に細かい雪が舞い込んできた。
タイヤ交換が間に合って良かった。
雪が積もるのはまだ先だけれど、本格的な冬装備となった車に乗り込み、エンジンをかけた。
終(2363文字)
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【あとがき】
実際の出来事はリンゴケーキ制作だけで、その他は創作となります。
タイヤ交換は、軽自動車に乗っていた頃は自分で行っていたので当時の記憶を元に書いています。今は仕組みが複雑な車が増えてきたので、ご自分でタイヤ交換をする場合は正しい専門知識を持った人の指導を受けて、安全に充分配慮したうえで行ってくださいね。
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