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2024シーズンのジュビロ磐田展望

1年でのJ1復帰を決め2年振りのJ1を戦うジュビロ磐田(以下磐田)の2024年シーズンを展望していきます。

チームの目標とサッカーの方向性

2024年新体制発表記者会見よりチームの目標とサッカーの方向性について抜粋する。

目標

――目標はありますか?
横内監督: ~中略~ まず勝点40を目標に、それがどの時点で40取れるかはわかりませんが取れた時点でより上の順位を目指していきたいと思います。

2024新体制発表記者会見より

2年目を迎えた横内監督から出てきたのは勝点40という数字でした。
40という数字はつまりJ1リーグ残留に必要なボーダーラインとよく言われます。まずはここをクリアしたいと言うことでしょう。

ただし、40という数字はメディア向け、対外的に用意した面もあるのかなと私的には推測しています。
昨年の横内監督は「一戦一戦」という表現を繰り返していたからです。

長年タッグを組んだ森保監督の著書から似た表現を抜粋します。

優勝を目標にして協調するよりも、今よりひとつでも高みにたどり着くために、目の前のことをひとつずつやっていくことの方が大切だと思っています。Jリーグの34節(当時)を我々らしく1試合ずつ戦い、振り返り、日々の練習に取り組んでいく。その考え方は、これからも決して変わらない、僕の基本中の基本です。

プロサッカー監督の仕事 森保一著 KANZEN P.61より

↑この基本は横内監督も同様のことと感じます。

一戦一戦、目の前の相手に集中していく。
今年も、そういう捉え方で良いかと思います。
勝ち点40を越えるか、越えないかでサッカーを変える。という指揮を横内監督はしないはずです。

サッカーの方向性

再び会見に触れます。

――今シーズンJ1でどんなサッカーを目指して、どんなサッカーを体現していきたいですか?
横内監督:
まずは我々がどんなサッカーをするかというところは昨年に引き続き、劇的に変えるということは僕自身思っていません。しっかり自分たちでボールを大事にしながら決してボールを受けることを放棄しない、全員がボールに関わっていく、そういう攻撃を目指していきたいです。守備も、全員が関わって、前線の選手からキーパーも含めて全員がボールを奪いに行くところから、ボールを奪って全員で攻撃していくという、全員攻撃、全員サッカーというのは引き続きやっていきたいなと思っています。

2024新体制発表記者会見より

基本的には「継続」ということと理解しています。
筆者も鹿児島キャンプで、実際にプレシーズンマッチを見ましたが基本的なサッカーは前年踏襲の内容が展開されていました。
その為、2024年シーズンを展望するに辺り、前年シーズンが参考になります。

昨年、2023年シーズン総括記事を執筆しました。

この記事や、記事内の「2024年シーズンに向けて」の部分を膨らませたnoteに今回はなるかと思います。
未読の方がいらっしゃれば、まずは2023シーズン総括の記事を確認いただきたく思います。

また、昨年と同じ事を書いてもあまり大きな意味がないので、本年に変わっていくであろうことをなるべく特筆するように意識し書いていこうと思います。

お付き合いいただけますと幸いです。

チーム編成について

確かな手腕を発揮した横内監督以下スタッフは続投。

補強禁止処分が明けて、一挙に15名の新加入選手を迎えることになりました。

編成は藤田俊哉スポーツダイレクター(藤田SD)を中心としたフットボール本部の主な仕事となります。

ポイントは全部。全部をワンランクどころか3ランクくらい上げていく」と藤田SDが息巻いてスタートした今オフ。

以下、資料を貼り付けます。

キャンプを踏まえての予想陣容図。
今年も基本システムは4-2-3-1
筆者作
https://www.football-lab.jp/iwat/transferより


新加入選手の迎えるにあたって筆者が感じたの編成のポイントは大きく3点。

年齢バランス、アスリート能力、人間性。

年齢バランス

昨年からの年齢バランスの変化が分かる図。筆者作。

補強禁止処分の影響で2年間、選手が大きく入れ替わることは無かった。
当たり前だが選手は2年分、年を取ったわけである。
この2年の影響と、従来から経験値のある選手のインテリジェンスに頼ったサッカーを志向していた影響で年齢バランスが非常に高い編成となっていた。

今オフは20代の選手を中心に補強することでベテランに偏った年齢バランスから中堅層中心のバランスへシフト。
一気に4人獲得したブラジル国籍選手も、藤田SDが活躍してもらわないと困ると語るペイショット以外は、これから脂の乗る年齢層だ。
選手寿命の短いプロサッカー選手のチームとしてようやく健全な年齢バランスになったと思います。

ただし、本来緩やかに年齢バランスの新陳代謝を整えるところを、今オフで一挙に選手が入れ替わてしまったとも言え、横内監督以下現場スタッフには負担の大きい血の入れ替えとも言える。

補強禁止処分は確かに終わったのだが、本当の意味で補強禁止処分の余波が出てくるのは今シーズンとも言えるのではないかと思います。

アスリート能力

加入した選手の顔触れでは、一定のアスリート能力を備えているのが分かる。
強度を重視する横内サッカーでは欠かせないポイントだ。

バネのある西久保やウェベルトン。運動量のある高畑や川﨑。
速さのあるブルーノ・ジョゼ、ハードワーカーのレオ・ゴメス。パワーのあるストライカーのマテウス・ペイショット。

フィジカル的にタフなKリーグで活躍し、1億円相当のオファーも断ったという石田や強度の高いディフェンスに定評のあるアビスパ福岡からやってきた中村駿は戦える選手達だ。

ここからさらにポテンシャルを開花する可能性のある選手達ばかり。

ただし、ここも逆説的に表現すればJ1で実績がある新加入選手は中村駿だけとも言える。

特大のポテンシャルを秘めた至宝、平川怜も含めてJ1リーグでの強度で計算が立つかは未知数だ。

また、今オフはヴェルディの森田鹿島の荒木と言った選手たちにはオファーを断られていたと分かる報道もあった。

獲得しようと決めた選手にオファーを出しても、なかなか来てもらえない現状もある。選手たちはチームを選択する時に「優勝を争えるチームに行きたい」と言う。僕らも優勝を争うつもりだが、そういうふうに見られていない。もう一つステージを上げないといけない。

シズサカ https://www.at-s.com/life/article/ats/1373411.htmlより

オフ中の藤田SDは苦悩をにじませていた。

右サイドの核となっていたJ2アシスト王の鈴木雄斗(現湘南)、チームトップタイの得点数とJ2で最もシュートを打った選手であるドゥドゥ(現千葉)は移籍金を受け入れる形で放出することになってしまったが、

それでも幹となるセンターラインを中心に各セクションを満遍なく補強することで、大幅な戦力ダウンを回避した格好だ。

人間性

今オフの藤田SDの行動を見ていると対面の仕事を重視していると感じた。

4人のブラジル人選手の獲得についても、
↓こう語っている。

「チームが使えるお金の中で、ジュビロのスタイルに合致できる選手を指導スタッフのみんなと話し合い(候補を挙げて)、僕が(現地ブラジルに)見に行って獲得した。大きなお金を使うことになるので、その責任において自分の目で見ないなんて考えられなかった。そこで家族や奥さんとも会ってしっかりと話をした。彼ら全員が日本の文化に早く馴染もうとしてくれている」

J1磐田で「活躍してもらわないと困る」選手は? レジェンド藤田俊哉SDが明かす補強理由【コラム】 | フットボールゾーン (football-zone.net)より

実際に目で見て、言葉を交わし接触して仕事を進めている。

磐田は、非接触での仕事のミスで補強禁止処分を受けたわけで、藤田SDの仕事の進め方はそういう意味でも理にかなうところがある。

2022年秋のSD就任以降、カタール、ブラジル、タイ、ベルギーに訪問しているのはインスタグラムを見ていると分かる。

これほど世界中を飛び回っているJリーグの強化責任者も居ないのではないかと思う。

対面での仕事をして、磐田でやりたい選手を連れてくる。
人間性を確認して、選手を獲得しているのは間違いありません。

日本サッカー史上、最も経験値のあるゴールキーパーである川島永嗣も、わざわざ私が説明する必要がないほどに真のプロフェッショナルであり、人格者だ。


始動以降の新加入選手を言動を見ても、ナイスガイばかりというのがオンザピッチもオフザピッチも強く見受けられる。

例えば、プレシーズンマッチではレフェリーに高圧的な態度を取る選手は居なかった。皆々がサッカーにチームにハードワークしている。

昨年の横内監督は明確な基準を示しながら選手の競争意識を煽り、選手を「腐らせない」ことに長けていたチームマネージメントを魅せた。
その強味を邪魔しない磐田フットボール本部の補強戦略だと思います。

また、今季の編成終了後にレンタル移籍した後藤へのサポートを目的に
ベルギーへ訪ねていたこと
も、藤田SDならではの仕事。


こういうサポートを行うことで、磐田のクラブ理念にある世界を目指す選手が、
新たに磐田に来てくれるサイクルを作れることに繋がるのではないかと思います。

戦術面について

次にピッチ上についてである。
詳しくは前年総括記事で述べているので、割愛する内容も含みます。

継続していくのは球際の強度を重視し、攻守の切り替え(トランジション)を安定させること。
攻撃と守備をバラバラにさせない。

ボールを失っても再び奪いにいく。意識レベルもそうだが、個人戦術としても高めていく。

守備(ボール非保持)

前年と変わらず、ミドルブロック主体の4-4-2システム。
もしくは相手にアンカーがはっきりといる場合は4-2-3-1システムで構える。

ブラジル的なエリアを担当するゾーンディフェンスとマンツーマンディフェンスのミックス。
人を基準とするのが基本で1vs1で負けないことが前提となる。

コンペティションが変わり、昨年は時節トライしていたミドルプレス→ハイプレス移行は限定的になっていくものと予想される。
立ち返るのはミドルブロック。

2TOPディフェンスのプレスバックタスクはカウンターに備える分やや軽く、後ろの選手の負担が比較的大きい。

攻撃は前の選手が頑張る。守備は後ろの選手が頑張る。みんな頑張るである。

自陣に押し込まれる試合が続いても、ベースとなる4バックを今季も我慢して使い続けるものと思われる。
編成も名波監督時代からの長らくの3CB編成から2CB仕様の枚数になっている。

後ろが重たくなる受動的な5バック(3バック)は試合をクローズドさせる場合だけ使ったのが前年の采配だった。

降格圏内に沈む場合は能動的5バック(3バック)にトライする可能性はありますが、新たな補強が必要になると思います。

攻撃(ボール保持)

基本的には前年と変わらない方向性だ。
基本システムは4-2-3-1。

攻撃面に関しては興味深い記事があったので、ご紹介したい。

磐田が目指しているスタイルとはどんなものなのか?
藤田SD「ボールの保持を大事にしてテンポ良く、自分たちのフットボールをする。ボールを大事にしてパスをつないでと言うと、ゆっくりしたサッカーをイメージされることもあるが、テンポを上げて縦に速く、しかしボールを保持することは怠らない」
「例えば前線にロングボールを送り、これがつながったらポゼッションと言える。つながらないと縦ばかりのサッカーとなるが、確実にゴール前でつながれば、それは後方でパスをつないでいるのとなんら変わらない。だから縦に速いサッカーはカウンターに見えるというだけで、(昨年リーグ王者の)ヴィッセルだってボールをしっかりとつないでいる」

J1磐田で「活躍してもらわないと困る」選手は? レジェンド藤田俊哉SDが明かす補強理由【コラム】 | フットボールゾーン (football-zone.net)より

この藤田SDが語るように横内磐田は基本的には「奪ったら前」である。

ビルドアップというのは言葉としては恐らくはあまり使っていないのではないかと思われる。

ゾーン1→ゾーン2→ゾーン3
(ディフェンシブサード→ミドルサード→アタッキングサード)
ピッチを三分割するなどした、こういう考え方ではないと私的には捉えている。
「ビルドアップはどうなのか?」を頭に強く入れながら試合を見ているとゾーン1である相手の一列目のディフェンスを突破するのに時間がかかる様子が目につくが、そもそも現場として、それを大きな問題とは捉えていない。捉え方が違うのではないかと思っています。

話を戻すと横内磐田のボールをゴールに届ける方向性は横文字にするとプログレッシション
早く前にボールを出して、前の選手がボールをゴールに向かって運んでいくのが基本。

攻撃は前の選手が頑張る。守備は後ろの選手が頑張る。みんな頑張るだ。

ポジショナルプレーの様な、後ろの選手がスペースと相手プレイヤーをコントロールして前の選手に余裕を提供するやり方ではない。

早く前にボールを送る上でポストワークに定評があるペイショットの加入は大きい。
陣地回復(相手の陣地にボールを置く)に貢献してくれそうだ。

そして早く前にボールを送ってからどうやってボールをゴールに入れるのか。すなわち仕留めるのか。

ここが選手が入れ替わったことで、昨年と変化が有ると予想します。

所謂、
ゾーン3=アタッキングサード=ファイナルサード=ラスト1/3が変わってくるわけであります。

元来から、横内監督は攻撃時に「幅を取りなさい」といった指示は出していない。
でも実際には選手は幅を取る原則を守っていると見えることがある。

あくまで、横内監督は選手の強味を引き出して、それを戦術化している。
横文字にするとフットボリスタで紹介されていたファンクショナルプレーとも言える側面がある。


昨年は主に攻撃時はサイドバックが幅を取り高い位置に張り出し、サイドハーフが内に絞り、レーンを受け渡していた。
有限なスカッド(編成)の中で、J2のコンペティションに於いて質的に強味になるのがサイドバックの推進力であったからこそ、選手の意見も取り入れながらサイドバックを高い位置に置いたわけです。

決して選手に全てを投げ出して自由にさせてるわけではない。

戦術に選手をアジャストさせるのではなく、選手の個性や持っている能力から戦術を作っていき、自身の持っている戦術、メソッドを上から付けていく。

ある食材で料理していくのが横内さんだ。
予算の関係で高級な食材ではないが、競争力があるので新鮮な食材にしてあるのも忘れてはならない。

昨年は左の松原のオープントラッキングをリスク承知で使い、右の鈴木雄斗のポケット侵入という左右非対称なサイドの攻撃とブロックの外から撃ち抜くミドルシュートが破壊力を誇った。

今年はどうなっていくか?

まずは、相手に対して質的優位を持つウイングの加入が挙げられる。
ブルーノ・ジョゼだ。
両サイドで仕掛けていける選手でスピードがある。

https://www.instagram.com/p/C2Kzz7cLK79/より


これまで外に張って仕掛けていくウイングはスカッドの中で古川陽介だけだった。
ブルーノ・ジョゼが加入したことで、彼らの突破力を活かす形がメイン戦術になる可能性がある。

外に張り出すウインガー

サイドバックが内側に絞り、サイドハーフ(ウイング)が外に張るという昨年とは別の縦のタンデムだ。

左サイドバックでの起用が想定される高畑や、キャンプでサイドバックで起用されているルーキー植村も内側でのプレーを苦にしない器用なプレーヤーというのも、このタンデム採用を後押しする。
もしくはセンターバックの鈴木海音をサイドバックで試せる可能性も出てくるだろう。

次に変化が現れるのは基準点になれる本格派のセンターフォワードの加入だ。ペイショットの加入で、前線の組み合わせはバリエーションが増える。

https://www.instagram.com/p/C2IelmIP5jD/より

将来性を見越した補強であるウェベルトンも身体能力の高い前線のプレーヤーであることから、昨年のチーム得点王のジャーメインと共に、スタートからツートップシステムを採用する可能性も出てきそうだ。

前述の通り、守備時はそもそも4-4-2を基本としており攻守のオーガナイズに違和感は無い。

何より、クロスの角度や高さ、スピードが変わってくるだろう。

プレシーズンマッチの鹿児島戦でもそうだったが、エリア内のデュエルに勝算の見込みがあると見て、早いタイミングのクロスが増えた。

昨年は深くまで作り込んでクロスを送っていたが、今年は脈略の薄いラフなクロスも増えるでしょう。

2016年のジェイ・ボスロイドではないですが、ゴール期待値に近い決定力をペイショットが叩き出せれば磐田のJ1残留は近づいてくるでしょう。

経営面について

最後に簡単にオフザピッチのクラブの経営面について。
22年ベースで32 億円の売上の実績が開示されている磐田。

この実績は2026年にJ1優勝を目指しているチームとしては非常に寂しい数字だ。

この売上にどういう変化、施策があるか見守っていきたい。

ホームタウン広域化による新たなスポンサー(パートナー)、サプライヤーの獲得。
実際に新規の契約がSNSで続々とリリースされている。


また、大森晃太郎のレンタル移籍に代表されるヤマハ発動機関連の動きがあるのか。


注目度の上がるJ1での観客動員数はどうか。
王者ヴィッセル神戸を迎える開幕戦も実質的にチケット完売とのこと。

スタジアム収容率がJトップだったこともあった磐田だが、コロナ禍の晴れた昨シーズンは観客動員数が伸び悩んだだけに、観客数の回復に期待したい。


また、先日Jリーグからリリースのあった理念強化配分金についても、厳しい数字が出ている。

お金を用意して良い選手を用意するのが、良い成績への近道であり優勝を目指すには避けては通れない。

今オフのドゥドゥも鈴木雄斗も、名古屋グランパスからのオファーを受けた上で残留した上原力也も、
本来なら良い条件を提示して残留して欲しいよね。というサポーター心情は拭えない。

フットボール本部の目利きやコネクション、交渉力に頼ってコストパフォーマンスを発揮した編成にも限界があるでしょう。

中長期的に見ても、経営面でJ1優勝へ向けたロードマップ、根拠が見えてくるのか?
こういう視点でも引き続き寄り添っていきたいと思います。

さてさて、今回はここで締めです。

ストーブリーグとも言われるオフも楽しませて頂きました。来たる新シーズンが楽しみでなりません。

鍛えてきた強度面が2022年シーズンの悪夢の様に歯が立たないという不安は残るものの、なるべくポジティブに1年間見守っていきたいと思います。

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