自然・人間・社会/『アフォーダンスの心理学』と考える/4.脳の自発性(前編)
写真出典:AlainAudet @pixabay
前回、アフォーダンスの概念を理解するカギは「生き物の自発性」だとお話ししました。今回と次回は、人間の「生き物の自発性」を裏付ける脳科学の知見を紹介します。今回は、成人の脳について、次回は成人の脳の出発点となる乳児の脳について、脳科学の研究成果を取りあげます。
前回はこちら:
1.脳の自発性
人間を機械になぞらえる「機械論」では、脳は、外部から与えられる刺激(入力)の意味を解釈し反応(出力)を返す演算装置と考えられがちです。人間の脳をコンピューターのようなものとみなすわけです。
しかし、実際の脳はそのような受け身なものでないことを、脳科学が教えてくれます。今回は、後で参照しやすいように、引用文、抜粋文、表には、それぞれ番号を付すことにします。
ボトムアップ情報というのは、目や耳などの末梢感覚器官でとらえた情報のことです。「機械論」でいう入力(刺激)にあたるものです。
【引用1】は、脳は外部からの入力(刺激)を受ける前から自発的に活動していると言っているのです。
2.脳の自発性を示す実験結果
脳が外部からの刺激とは独立に活動していることを示す実験結果があります。白黒の縦縞模様を見たときにそれが赤っぽく見えるように、脳の活動パターンを誘導する実験です。
この実験のように脳活動を特定の活動パターンに誘導することをニューロフィードバックといいます。
この実験結果から、脳の自発性の3つの重要な要素を読み取ることができます。
(1)脳は、外部入力(赤色の刺激)がなくても、自発的に活動できる。
(2)脳は、内部入力(赤色をイメージすること)がなくても、自発的に活動できる。
(2)脳は、報酬を得やすいように活動パターンを変えるが、この変化は意識には上がらない。
私たちの意識との関りで言えば、私たちに脳を働かせている意識がない場面でも脳は活動しているし、私たちが気づかないうちに脳は変化しているということになるのです。
3.脳の自発性から生じる不都合
私たちは、「自発性」という言葉をポジティブな意味で使うことが多いように思います。特に、ビジネスや人材育成の世界では、そうではないでしょうか。「指示待ち」でなく自分から進んで動くことが望ましいという文脈での使い方です(もっとも、この文脈では、”意識してそうする” という意味合いが明確な「主体性」を用いることの方が圧倒的に多いとは思います)。
ですが、脳に「自発性」があることは、人間にとって好都合とは言えない状況を引き起こします。外部入力なしで活動できるため、脳が現実離れした勝手な知覚を産み出すことがあるのです。
【引用1】に「(脳が)勝手な活動をしないようにボトムアップ情報で統制をかけている」という表現がありました。あれは、現実世界の情報を脳に入力することで、脳が産み出す感覚が現実から乖離するのを防いでいるという意味なのです
「それなら、初めから脳を自発的に活動できないように設定しておけばよいのに?」という疑問が浮かんできます。なぜ、暴走してしまう危険があるのに、脳は自発的に活動できるようになっているのでしょう?
この疑問に対する答えが、次回ご紹介する乳児の脳の発達過程の研究の中にあります。
今回はここまでとします。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
次回はこちら: