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ChatGPT、ここまでやられると、考えないわけにいかない

私がかつて生業にしていたビジネス教育のテキスト作成をネタにChatGPTの実力を試してみました。結果は、私のかつての仕事をChatGPTに奪われてしまうという危機感を抱かせられるものでした。一方で、人間を補完するものとして期待できる部分もあると感じました。いずれにしても、ChatGPTがここまで出来るようになってくると、付き合い方を真剣に考えなければならないと痛感しました。


1.《本丸》の仕事では、ChatGPTを試したくなかった

 私は、小説をネタにChatGPTの特性と能力に探りを入れてきました。クリエイターの人間性がモノを言う分野で人間とChatGPTを比べたかったから……と言うのが、誰かに聞かれたらスラスラ語れたはずの動機です(聞かれたことないですが)。

 しかし、実は、答えに詰まるというか、そもそも答えたくないもう一つの理由がありました。それは、⦅私の本丸をChatGPTに侵されたくない》というものです。

 本丸というのは、企業の競争戦略についての初心者向けテキスト作成です。私が働いていた研修企業では、受講者の方にグループ討議を通して企業の競争戦略に目を向けていただく研修を実施していました。
 私は、討議への導入教材として、競争戦略の主要理論を身近な企業の最新事例を用いて説明するテキストを作っていました。

 《身近な企業の最新事例》というところが重要でした。競争戦略の教科書にある事例は、やや昔のものが多く、翻訳書の場合は、海外事例がほとんどです。新聞とビジネス誌には身近な企業の最新事例が豊富ですが、戦略理論に紐づけて体系的に整理されたものは、あまりありません。ですから、戦略理論を《身近な企業の最新事例》と紐づけて説明するところに、私の仕事の付加価値があったのです。

 しかし、AIの進化について知るにつれ、私の本丸の仕事をChat GPTが出来てしまいそうだと思い始め、それが事実であることが恐ろしく、この分野でのChatGPTの能力を試す気になれなかったのです。
 研修業界をリタイアして2年以上になりますが、自分のかつての仕事をAIに奪われる可能性があるとしたら、楽しい話ではありません

 ですが、今回、勇を奮って、この世界でChatGPTと向き合うことにしました。AIが強みを発揮するのは、小説よりもビジネス書の分野だと私は思っています。この世界でAIと人間を比較しないのでは、本当にAIを知ることにはならないと思ったからです。

2.戦略理論はSWOT分析にした

 競争戦略には色々な理論があり、それぞれに良さがありますが、戦略論の初心者むけに安定して使い勝手が良かったのは、SWOT分析でした。ですので、これについてChatGPTの能力を試すことにしました。

SWOTは、
  ※企業自身が持っている強み(Strength)と弱み(Weakness)
  ※企業の外部に存在する機会(Opportunity)と脅威(Threat)
の4要素の組み合わせで戦略を策定する思考法です。

 その具体的な適用については、この後にご紹介するChatGPTによる分析が憎らしいほど上手にやってみせているので、そちらをご覧いただきたいと思います。

 私自身も、以前、noteに『SWOTを使い尽くそう』というシリーズ連載をし、その中で企業事例を含めて、かなり突っ込んで論じてみたことがあります。

3.具体例は「ソニーがKADOKAWAを買収したら?」にした  

 さて、今回取り上げた身近な企業事例は、ソニーがKADOKAWAを買収しようとしている動きです。

 メディアは11月中旬に上記のように報じましたが、その後の動きは流動的なようです。今回は、あくまで仮定の話としChatGPTに検討させました。

3-1.ChatGPTへの質問

ソニーがカドカワを買収する方向で動いていて、カドカワもこれを受け容れる意向のようです。ソニーがカドカワの買収に成功したと仮定して、ソニー・カドカワ連合をどのように評価しますか。SWOT分析の枠組を使って検討し、結果を教えてください。

ChatGPTへの質問

単なる事実関係の報告ではなく、検討と評価を求めてみました

3-2.ChatGPTの回答

 以下、やや長くなりますが、大事な内容なので、全文引用します。

【ここから引用】

ソニーがカドカワを買収することで形成される「ソニー・カドカワ連合」をSWOT分析の枠組みで評価します。

Strengths (強み)

  1. 強力なIPポートフォリオ

    • カドカワの持つ豊富なアニメ、ライトノベル、ゲームIP(例:『Re:ゼロから始める異世界生活』、『ソードアート・オンライン』)と、ソニーのゲーム(PlayStation)や音楽事業とのシナジー。

    • ソニーのアニメ制作会社(アニプレックス)との協力でIP展開をさらに強化可能。

  2. マルチプラットフォーム展開の拡大

    • ソニーのエコシステム(ゲーム、映画、音楽)にカドカワの出版・映像制作を統合することで、一貫したコンテンツ配信戦略を構築。

  3. グローバル市場での競争力

    • ソニーの国際的なネットワークを活用し、カドカワの作品をより効果的に海外展開可能。特にアジア・北米市場でのプレゼンス拡大。


Weaknesses (弱み)

  1. 文化的・組織的な融合の課題

    • ソニーとカドカワは異なる文化を持つ企業であり、統合プロセスで摩擦が生じる可能性。

  2. 出版市場の衰退傾向

    • カドカワの主力事業である出版業界がデジタル化の影響を受けて縮小しており、収益性の低下リスク。

  3. 競争激化

    • NetflixやAmazonといったグローバルなエンターテイメント企業との競争が激化しており、差別化が求められる。


Opportunities (機会)

  1. メタバースとデジタルエンターテイメント市場の成長

    • カドカワのIPを基にしたメタバース展開(例:VRイベントやデジタルワールドの構築)が可能。

  2. ゲームとアニメの融合

    • ソニーのゲーム事業とカドカワのアニメIPを組み合わせた新たなコンテンツ開発(例:ゲームを原作としたアニメ、アニメを基にしたゲーム)。

  3. AI活用による効率化と新規事業

    • ソニーの技術力とカドカワのクリエイティブ資産を活用し、AI生成コンテンツやデータドリブンな制作・マーケティングを推進。


Threats (脅威)

  1. 規制当局の介入

    • 大規模買収による市場独占への懸念から、規制当局が取引を精査し、統合が遅れる可能性。

  2. 既存のファン層の反発

    • カドカワのコアファン層が大手企業の介入に否定的な反応を示すリスク。

  3. 他社による積極的な買収攻勢

    • 他のエンタメ企業(例:ディズニー、Tencent)が同様の戦略を加速し、市場競争がさらに厳しくなる可能性。


まとめ

ソニー・カドカワ連合は、強力なIPポートフォリオとグローバル市場での優位性を活かすことで、エンターテインメント業界の競争力を大幅に強化できる可能性を持っています。ただし、文化的統合の課題や市場環境の変化を乗り越えるためには、綿密な戦略と迅速な意思決定が必要です。特に、メタバースやAIなどの新規領域での成長戦略が、連合の成功を左右する鍵となるでしょう。

 【引用おわり】

4.ChatGPTの回答をどう評価するか?

4-1.もう、人間は要らない?

 ChatGPTの回答は、SWOT分析に必要な論点を漏れなく網羅していると考えます。少なくとも、私には、ここで挙がっていない論点を見つけることができません。

 ChatGPTがここまでやってくれたら、あとは、それぞれの論点に紐づけることのできる具体的な事象をメディアとネットから拾ってくるだけです。
 
もしかしたら、適切な質問を重ねていけば、具体的事象の掘り起こしもChatGPTに出来てしまうかもしれません。
 
 そうなると、私がかつて職人的な誇りをもって行っていた仕事は、ChatGPTに持っていかれてしまうことになります。「えええええ!」です。
「ご勘弁ねがいたい」です。

 それではあまりに悲しいので、私でなければ出来ない仕事が何か残っていないか、考えてみました。

4-2.ChatGPTから答えを引き出しているのは人間である

 私という人間の存在価値としてまず頭に浮かんだのは、ChatGPTからこの答えを引き出したのは、私だということです。私の問題意識と、それに基づく私の問いかけがあったから、この答えが出てきたのです。

 また、4-1で述べたようにChatGPTが具体的な事象の掘り起こしまで出来るとしても、そのための質問の仕方を考えるのも、また、私の仕事です。

 そう考えると、まだまだ私が生き残れる余地はありそうだし、むしろ、ChatGPTを相棒にすることで、網羅的で抜けのない検討ができるようになったり、情報収集の手間が減ったりして、私の生産性が上がることも期待できます。

 しかし、こうした私にとって有利な論点は、あくまで主体的な問題意識を持てるのは人間だけであるという前提に立った場合の話です。

5.もしAIが主体的な問題意識をもったら?

 AIは目覚ましい勢いで進化しています。その根底には、私の想像を絶するような膨大な学習量があるはずです。

 何を学習しているかと言えば、過去から現在にかけて人間が考えてきたことの、その思考の過程と結論を学んでいるのです。

 その中には、人間に固有の問題意識の持ち方も含まれているはずです。 AIがそれを学ぶことによって、いつか、AI自身が主体的な問題意識を持つ日が来るのではないか? 私は、そんなことを想像してしまうのです。

 そして、そうなったら、今度こそ、本当に人間のいる場所はなくなってしまう―そう思うと、背すじを冷たいものが流れます。

 ありきたりな言い方になりますが、私たちはAIの進化を注意深く見守っていく必要があるでしょう。そして、ある時点で、それ以上の進化に待ったをかける必要が生じるかもしれません。今回の実験を通して、私はそんなことを考えました。

 どうも悲観的な締めくくりになってしまいました。さはさりながら、AIは面白いので、これからも色々と試してみようと思っています。

 「AIとやってみた」・「AIでやってみた」で、これからも投稿していきます。ひきつづき、何とぞよろしくお願いいたします。

[おわり]

上で書いたように、さらに実験を続けたのですが、「AIは面白い」などと言っていられない恐ろしい事実を見つけてしまいました。こちらをご覧ください。



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