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マネジャー経験:個別性と普遍性
マネジャーついて「継続的に大きな変化が起こっている場合、経験が多いことはかえって自分の足を引っ張ることになるかもしれません」と語る林田さんの記事をヒントに、私が年の離れた若い人たちと仕事をする中で感じてきたこととハーバード・ビジネス・スクールのケース教材から学んできたことを加味して、マネジャー経験の個別性と普遍性について考えてみました。
林田さんは、マネジャーの要件として、実績と対人関係スキルを挙げていらっしゃいます(この先は、煩雑さを避けるため敬語を省略します)。
マネージャーってどんな人がなるのか、いろいろ細かく言えばきりがないですが、ざっくりとは
・自分の担当業務でそれなりに成果を出した(業務知識、経験がある)
・コミュケーションスキル他、対人関係を円滑に進めるスキルがある
この2つは必要と思います。
(太字部分は、楠瀬が太字化)
メーカーの人事部門で多数のマネジャーと接し、最近20年ほどはマネジャー研修に携わってきた人間として、まったく同感です。少しだけ私見を加えると、実績はマネジャー選考会場に入るためのチケットで、対人関係能力は選ばれる決め手、かつ、マネジャー就任後の主要な武器という印象です。
実績とは、つまり経験です。林田さんは、そのことを次のように表現しています。
マネージャーになる以前から、何かしら結果を出して、経験を蓄積してそれを知恵として、次の業務に生かしていくことを繰り返してきたものと思います。(引用:太字部分は、楠瀬が太字化)
その上で、林田さんは、勤め先のサイボウズでの働き方の変化を踏まえ、次のような疑問を呈します。
5年前からですら大きく状況が違ってくると、変わってしまった状況で、自分が過去に得た経験から結果を出すことは非常に難しいのではないか
(抜粋:太字部分は、楠瀬が太字化)
この疑問が、私が冒頭で紹介した「継続的に大きな変化が起こっている場合、経験が多いことはかえって自分の足を引っ張ることになるかもしれません」という自戒の言葉へとつながっていくのです。
林田さんのご指摘のとおりです。「俺はこうやってきた。だから、お前たちもこうしろ」という指導は、今や〝百害あって一利なし”です。
マネジャーが「こうやってきた」時と現在とでは、前提条件が違っています。いま現在の前提条件を皮膚感覚として把握しているのは、マネジャーではなく若手社員たちである可能性が極めて高いのです。
林田さんは、マネジャーに次のことを勧めています。内容を損なわない範囲(のつもり)で、楠瀬が表現を改変しています。
(1)若い社員の方の考え方、意見に違和感を覚えた時は、その意見について深堀りして尋ね、彼女/彼が そう考えている前提を把握する。
(2)その前提から論理的に考えて問題なければ、若手社員の考え方を、ありうる正解の一つと受け止め、自分事として考えてみる。
林田さんは、マネジャーが自己革新しつづけるこが重要だと述べて記事を締めくくっています。
特に何かしらの成功体験を元にマネージャーをやっている人からすると、自分の経験を活かす、というよりも自分の経験を否定することが必要になっているのかもしれず、とてもつらいことかもしれません。
とはいえ、長い期間、変わり続けることができれば、自分と他人を活かせる場所はたくさん作れそうです。
(引用:太字部分は楠瀬が太字化)
私は社研修企業で、*行動診断、*業界研究、*企業のケース・スタディ、*グループ討議用のケース などの教材を作っています。
会社の営業スタッフがお客様と合意した事項に沿って作成するのですが、その過程で、私より20~30歳若い営業スタッフとの協働が求められます。
また、研修を担当する講師の方々も年々若返っているので、歳の離れた講師さんたちとの擦り合わせも増えています。
そういう場面で感じることが二つあります。
A)私の過去の経験を〝そのまま”適用することは出来ない。
B)私の過去の経験から〝新しい前提条件でも通用する部分を抽出し選択的に適用”すると、かなり使える。
ただし、B)は、若い営業スタッフや若い講師と「今の前提条件」について十分にすり合わせ合意形成するという但し書きつきです。
過去の経験のすべてを否定する必要はなく、その中から前提条件が変わっても通用する、普遍性の高いものだけを取り分けて使っていくことが大切だと、私は思っています。これは、私がハーバード・ビジネス・スクールのケース教材から学んだことでもあります。
ハーバード・ビジネススクールが使っているクラス討議用は、すべて実際の企業で起こった事例を素材にしています。(同校のケース教材はオンデマンドで購入できます)
既に起こったことですから、後知恵で「本当はこうすべきだった」と論じることは容易です。ところが、ハーバードのケース教材はそれを避け、事実関係だけを〝投げ出すように”提示しています。
学習者に、生々しい個別事例の中に普遍的(不変的)なマネジメントの課題を発見させることが目的だからです。ですから、1960年代、1970年代を舞台にしたケースで、現在も使われているものがあります。そうしたケースが、時代が変わっても変わらない普遍的(不変的)なマネジメント課題を提起しているからです。
私は、マネジャーの経験は、ケース教材のようなものだと考えています。マネジャー個人が特定の環境で培ってきたものであるという意味では、極めて個別的だが、一方、その個別のなかに環境が変わっても通用する普遍的な要素も存在する。そう考えているのです。
個別の中に普遍が隠れているのです。変わっていくものの中に、変わらないものが隠れていると言い換えてもいいでしょう。
変化の激しい今の時代、林田さんが
自分の成功パターン、必殺技にすがりたいとき、それとは違う考え方、新しい学びにもアンテナを伸ばして、認識はしておきたい
と言うように、つねに謙虚でいて、かつ柔軟な思考を維持していないと、マネジャーは、部下と会社にとって時代遅れの厄介者になってしまいかねません。
しかし、一方で、自らの経験の中から、前提条件が変わっても使えるものを抽出すること努力も必要です。話は大きくなりますが、そもそも人類は、過去の経験の中から普遍(不変)なものを選び取りながら進歩してきたからです。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
『マネジャー経験:個別性と普遍性』おわり