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医師の配置転換無効の判例が高度専門人材のマネジメントに対して持つ意味

 溝延 祐樹 さんが12月8日に投稿なさった判例記事は、企業の高度専門人材マネジメントにとって大きな意味を持つものだと考え、それについて記します。

溝延さんの記事はこちら:

1.溝延さん記事の要点(楠瀬理解)

 溝延さんがご紹介の判例について、人材マネジメントという観点から私が読み取った要点を記します。法的な正確さには欠けています。溝延さんの記事と併せてお読みいただきますよう、お願いいたします。

【概 要】
外科専門医及び救急科専門医であり、緊急度の極めて高い救急救命医療現場(ここでは部署Xとします)で働いていた医師の相対的に緊急度が低い医療現場(ここでは部署Yとします)への配置転換が無効であると認めた判例です。外科専門医の資格更新に高度な手術の執刀件数が必要なことが裁判所の判断に大きく影響しました。

【争 点】
 争点は2つありました。

1.この医師の雇用が部署Xでの職務に限定されたものだったか?

2.この医師の部署Yへの異動が、医師の専門性を損なうか?

裁判所は、この2つともをYESと認定したのです。

 争点1については、私の記憶が正しければ、過去に、従業員の特性・配属の経緯・業務の実態に即して職務限定雇用を認定した判決があったと思います。

 今回の判決の新しさは、争点2について、異動がこの医師の専門性を損ない、この医師に対して著しい不利益になると認定したことです。
 裁判所は、部署Yでは高度な手術の機会がないため外科専門医としての資格更新を受けられなくなる可能性だけでなく、高度な救急医療の現場を離れることで救急科専門医としての技量の維持も難しくなると判断しました。

2.高度専門人材のマネジメントに対して持つ意味


 技術革新と社会の急激な変化を受けて、高度専門人材に対する企業のニーズが高まり、人材確保と人材育成のために様々な取り組みが行われています。その中で、高度専門人材を確保する方策として、「ジョブ型雇用」が期待を集めています。

 こうした状況において今回の判決が持つ意味は、今後、司法が、一定の状況下では

企業が自社の高度専門人材に専門性を維持する環境を提供する義務を負う

と判断する可能性が生まれたことだと考えます。

 「ジョブ型」で高度専門人材を確保したあとに経営の事情で、その人材の専門性を損なうような配置転換を行ったとすると、当該人材から不利益な配置転換であると訴えられた場合に企業が敗訴する可能性があるということです。特に、担当業務と専門資格の取得・更新が密接に結びついている場合に、そのような状況が生まれる可能性が高いと考えます。
 
 企業としては、「ジョブ型」の雇用で高度専門人材を確保する上で、

(1)その人材が専門性を維持できる環境を提供し続けることができるか?

(2)提供が困難になった場合に、当該人材の転職支援が可能かどうか?

という2点を十分に考慮する必要があるのではないでしょうか?

 以上、溝延さんの記事に触発されて思いついたままに記しました。議論の精度としては非常に粗いものになってしまいました。高度専門人材の人材マネジメントを考える上での何らかのヒントになるのであれば、これに勝る幸いはありません。

 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

 


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