営業する側/受ける側から見る「なぜハーバード・ビジネススクールでは営業を教えないのか?」
今回はオンラインサロン田端大学の11月の課題図書「なぜハーバード・ビジネススクールでは営業を教えないのか」についての書評。
■本の内容
この本はいわゆる「営業のハウツー本」とは異なる。
本書の中では複数のセールスマンに焦点を当て、彼らがそれぞれどのような考えをもって顧客にモノ・サービスを提供しているかが描かれている。が、その売り方に一貫性はないに等しい。
「営業に体系化された理論などない。こんな本読み終わったら早く捨ててとっとと現場に出て顧客を徹底的に観察しろ。自分の成功を信じ、トライアンドエラーを繰り返し結果を勝ち取れ」とでも言われた気分になった。
■著者
本書の著者はフィリップ・デルヴス・プロートン。
ジャーナリストとして働く傍ら,ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)でMBA取得。現在はフリージャーナリストとして活躍している。
前著は「ハーバード・ビジネススクール 不幸な人間の製造工場」
HBSのMBA取得者が出身校を批判をするような本を出している点が非常に興味深い。
前著はサブプライムローン危機~リーマンショックの真っ只中に出版したとのこと。金融危機の「渦中の人(=HBS卒業生たち)」に対して痛烈な批判をかますという煽り能力の高さには脱帽である。
■営業を受ける立場から見て
本書の第三章に以下の記述がある。
製薬会社は,元チアリーダーをMRに雇い入れて薬を売り込む。その理由は単純で見え見えだ。医者の大半が男性だからだ。元気でかわいい女の子のほうが、面会を取り付けやすい。
これを見て僕は思わず笑ってしまった。
「製薬会社の営業⇔医者」
の関係が
「電子部品メーカーの営業⇔カメラメーカーの電気設計者」
の関係と全く一緒だったからだ。
以前、僕は3年半ほどコンパクトカメラの電気設計担当部署に所属していた。当時、スマートフォンに押されカメラの販売台数は減りつつあったものの、それでも多くの電子部品メーカーが積極的に営業を掛けてくる程度には勢いがあった。
その頃の電子部品メーカーの営業担当は
「決定権を持つリーダークラス&若い女性」
の組み合わせで来ることが割と多かった。
若い女性を連れて来るのは理由はもちろん「電気設計者の大半が男性だから」だろう。
実際に当時僕が所属していた課の課員は25人ほど、そのうち女性は1人だけ。要は女性に飢えた男性社員が多かった。これはきっと他の会社の電気設計部署でも同様だと思う。
そこに目をつけ部品メーカーが女性営業を増やすのは大いに有効な戦略だろう。ある部品メーカーは部品のカタログに顔写真付きの若手女性営業一覧を載せていたほどである。
実際にどの程度の成果に繋がっていたのかは知らないが,少なからず効果はあったのではないかと思う。僕自身、おっさんと会うよりは若い女性と会う方がやる気が出たのは事実である。
非常に単純な例だが、このような施策をしているかどうか?というのも「その会社が本気でモノを売ろうとしているかどうか」の指標にはなるのではないかと感じた。
■営業をする立場から見て
第八章に、ボーイング社の航空機営業統括責任者べリャマニについての記述がある。
信頼を築くもう一つの方法は、あえて安易な売り込みをせず、顧客の利益にかなう提案をすることだった。あるインドの新興航空会社のオーナーに、ボーイング機を買わずにリースしたほうがいいと助言したこともある。
「その方は信じられないようでした。『君の仕事は航空機の売り込みだろう? それなのに、私に買うなというのかい?』と言ったのです。そのオーナーはリースを始め、三年後に電話をかけてきて『やっと買う準備ができた』と言ってくださいました。私がボーイングを辞めると、そのオーナーは結局エアバス機を買いましたが」。
これにもついてもかなり共感を覚えた。
僕は営業をする部署に所属したことはない。が、個人的に知人に対してカメラを勧めることは割と頻繁にある。ちょっとした営業活動だ。
その際に気を付けているのは「自社製品の押し売りをしないこと」。
メーカーの技術者が自社製品だけを推したところで、「どうせ金貰ってやってんだろ」と思われるのがオチ。
それならばと思い「自分が相手の立場だったときに買うカメラ」をメーカー問わず勧めるようにしている。
もちろん、自社を売り込む為に尽力することは必要なことだし、自社製品を買ってもらったほうが嬉しい。
だが、明らかに他社のほうが優れている点があるのであれば、大人しくそちらを勧めた方がより強い信頼を得られることは多い。
「お前は複数のメーカー含めて検討してくれるから相談しやすいし、とても信頼している」と何度も言われたことがある。
これも安易に売り込みをしなかったからこそ得られた結果だろう。
■まとめ
冒頭でも書いた通り、この本は「営業のハウツー本」ではない。
どちらかというと「方法はいくらでもあるんだから自分にあった方法を自分で見つけ出せ」という、読者を突き放すような本だと感じる。
また、本書で取り上げられたセールスマンがそれぞれ全く毛色の違う人間なので、章ごとに読みやすさが全く異なる。
恐らくこの「読みやすさ」自体が読み手のバックボーンによって分かれるので、この本の中で「自分に合うセールス手法」を探すのも一つの手かもしれない。
これからこの本を読もうとする人は、「まず流し読みしてみて、面白そうな部分だけを重点的に読む」という読み方をオススメする。全てを全力で読んでいたらすぐに体力切れを起こすからだ。
高石圭佑