ハンバーグの歴史番外編(前編) なぜアメリカのかつての国民食ハンバーグ・ステーキは、本国で衰退したのか
東洋経済オンラインにおいて、ハンバーグの歴史記事(前編、後編)を公開しました。
日本の国民的洋食ハンバーグは、アメリカにその起源があります。アメリカにおいてもかつては、国民食といえるほどにハンバーグ・ステーキが愛されていたのです。
カメラマンの名取洋之助は、1936年にフォーチュン誌の企画でアメリカ横断撮影旅行に挑みます。その道中の食事は“普段はだいたいハンバーグ・ステーキかホットドッグ”というものでした(『アサヒカメラ』1950年9月号所収「アメリカ撮影旅行の思い出」名取洋之助)。
雑誌『主婦と生活』1950年9月号には、ハンバーグ・ステーキを頻繁に食べていたころのニューヨーク食事情がレポートされています。
外交官の妻としてアメリカ滞在経験のある料理研究家・飯田深雪は、1960年の『世界の家庭料理 5』において、当時アメリカで人気だったハンバーグ・ステーキを紹介しています。
ハンバーグステーキと並んで、ホットドッグもまたかつてはアメリカの国民食でした。
1959年に日本交通公社が出版した『外国旅行案内』では、アメリカ旅行の際に食べる料理として、“比較的アメリカ的なたべものをあげるなら、まずホット・ドッグとハンバーグステーキだろう”と言及しています。
ところが現在、ハンバーガーは全盛を誇っていますが、ハンバーグ・ステーキは見る影もありません。
ホットドッグはまだ残存していますが、四六時中食事として食べられていたかつての栄光はもはや昔のもの。現在はピザに国民食の地位を奪われてしまいました。
一体いつ頃、ハンバーグ・ステーキとホットドッグはアメリカの国民食の地位から滑り落ちてしまったのでしょうか?
財務省編『ファイナンス』1971年11月号の長富祐一郎「アメリカ生活三年(上)」には、アメリカで美味しいものとしてハンバーグとホットドッグを例示しており、まだこの時点では両者とも健在です。
『総合食品』1978年7月号「海外情報 一〇〇〇億円の大台乗せアメリカの外食産業」では1972~78年までのレクリエーション先での食品支出が分析されていますが、まだまだホットドッグが首位。ピザも登場していますが、この時点ではホットドッグの後塵を拝しています。
1979年の『下関市立大学論集』7月号の丸田明生「アメリカ日記(下)」によると、この時点ではまだハンバーグとホットドッグはアメリカの名物料理とされています。
ところが『総合食品』1980年10月号では、ホットドッグの消費減退が報じられ、1983年2月号では、1981年の事象としてホットドッグの消費減とピザの消費増が報じられています。
どうやらホットドッグからピザへの国民食の交代は、1980年代以降に起こった現象のようです。
おそらくですが、ハンバーグ・ステーキの衰退も、同時期に起こったのではないかと思います。
とういうのも、1980年代以降、アメリカの食生活にはある明確な方向性が打ち出され、ホットドッグよりもピザを、ハンバーグ・ステーキよりもハンバーガーを食べることが推奨されていたからです。
後半に続きます