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鯛のかぶと煮

会社にクール便が届いた。差出人は関西の取引先のH専務からだった。「こんど釣れたら送るから」と言っていたのを思い出した。「鯛」だった。でも会社に送ってくれてもねえ。

かぶと煮がいいなあと、行きつけの小料理屋に電話して箱もあけずにそのまま持ち込んだ。

しばらくして刺身が出てきた。鮮度抜群、身が引き締まって旨い。それっきりで、肝心のかぶと煮がでてこない。どうしたのと聞くと、準備があるんだ、明日来てよとオヤジさんが言う。

昨日とはメンバーを替えて行った。「鯛の刺身」と黒板メニューが増えていた。頭半分のかぶとが出てきた。3つの箸でとりあいっこ。だれもしゃべらず、静かに、ひたすらつっつく。

ひとりで鶴岡に行った。

駅前のホテルの近くに居酒屋があった。カウンターに座ってメニューを見ると「かぶと煮」があった。少し時間がかかったけれど、大ぶりの鯛が頭半分出てきた。目の上からつっつき始めた。

ひとりで食事をするときはカウンターに座る。ひとりスマホを見ながらという人がいるようだけれど、それはつまらない。いつもは店のオヤジさんやおかみさんと話をすることが多い。

かぶと煮には話し相手はいらない。

骨をしゃぶって、皿の端にならべていく。あごの周りの骨は複雑だ。口を動かすからいろんな筋肉がある。骨もごついのものから平たく薄いものまで、大小さまざまだ。

そうだ、次のときは皿をもう一枚もらおう。骨をしゃぶって、きちんと並べなおせば骨格標本ができる、かもしれない。

時間がかかるだろうなあ。ほどほどにしないと、ほかに何も頼まないから迷惑かもしれないなあ。旨いものは最後まで食べきるということで許してもらおう。

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