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RISKY 第7話(2):亨ばかりがなぜモテる

「誰かが悪人だと思わないと心が死んでしまう。全部誰かのせいにして、あいつさえいなければと思わなくちゃ、生きていけない。だから」

耐え難い悲しみや苦痛を受け入れられない時、人は誰かのせいにして救われようとする。

…と、(1)と全く同じ書き出しをしてみる。
だが、登場人物の中に一人だけ例外がいる。桜井亨(古川雄輝)だ。
復讐によって誰もが羨望するような未来が奪われても、やっと見つけたと思った愛が偽りだったと知っても、亨は誰のせいにもしたりしない。
ただ事実を受け入れて、前へ進もうとする。

例えば部長のホームパーティで失態を晒したからといって(4話)、プライベートな事情で左遷を言い渡されるのは理不尽な話だ。
でも亨は抗議するでもなく、部長の下で働かせてください、と頭を下げる。
そうやって手にした最後のチャンスも結局は美香の手で台無しに。
さらには最愛の人・ひなたが自分に近付いた目的は復讐だったことを知る。
それでも美香からひなたを庇い、自らが傷を負う(5話)が、全て自分の責だと認める(6話)。
「お前にはもううんさりだ!なんだよこれ、普通じゃないよ…でも、ここまで追い込んじゃったのは、きっと俺なんだよな」

大半は自分の蒔いた種によるものとはいえ、亨の痛手は大きい。
機密情報流出の濡れ衣を着せられて失職し、信じていた愛に裏切られ。
愛する人に自分とのセックスを「おぞましくて、気持ち悪くて、吐きそうだった」とまで言われる絶望はどれほどのものか。

けれど亨はこう省みるのだ。
「すべての原因は誠実に対応しなかった私にあります」(6話)
「俺が守ってたのは自分だったんだな」(7話)

亨が例外なのは、誰かのせいにしないことだけではない。
登場人物にはそれぞれ、自分を支えてくれる愛がある。
ひなたには光汰とかなたの。かなたにはひなたの。美香には母親の。光汰にはひなたの。
亨にだけ、それがない。

そしてもう一つの例外。
精神的に追い詰められた局面では、かなたも、ひなたも、美香も、自ら命を絶とうとしている。
しかし亨は一度も死を考えない。辛くても苦しくても、亨にとっては明日が来ることは無条件の前提だ。

亨はきっと、人間が本来持つ、生命力を信じているのだと思う。
象徴的なのが7話、美香との崖のシーンだ。
「じゃあ、私とここで私と一緒に死んで」
「いいよ」
美香の手を強く引く亨の表情に迷いはない。
でも、亨は死んでもいいなんて少しも思ってはいない。死の淵に立つとき、人は本能的に生きようとしてしまうと知っているから。
死にたいけど死ねない、という美香を抱きしめる亨の言葉は力強い。
「生きよう美香」
「俺たちは生きていくんだ」

一人きりでも自分の生きる力を信じ、前を向くことができる。
それは優柔不断な彼の、ブレることのない軸だ。
ルックスやステータスは亨がモテる理由の一つでしかなく、本当はその強さが人を惹き付けてやまないのだ、と思う。

だから愛を込めて、彼にもう一度あの言葉を贈ろう。
そういうところよ、桜井亨。

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