オンライン授業における良いフィードバックとは?
教育工学とフィードバック
教師から学習者に与えるフィードバックは教育においてクリティカルな部分で、かつ体系的に教わる内容ではないので普段生徒と接していてどうするのがいいのか悩まれている先生も多いと思います。
教育工学の分野では学習者に良いフィードバックをするためのベストプラクティス(Good Feedback Practice; GP)として以下の7つが挙げられています。
GP1. 良いパフォーマンスが何かということを明らかにすること
GP2. 学習における自己評価を促すこと
GP3. 自身の学習に関する質の高い情報を伝えること
GP4. 教師と学習仲間の会話を促すこと
GP5. 自尊心とポジティブなモチベーションを高めること
GP6. 現在地と目標のギャップを縮めるような機会を提供すること
GP7. 教え方を形作るのに役立つ情報を教師に提供すること
これは Nicol & Macfarlane-Dick (2006) という論文で紹介されている方法で、いわゆる「形成的評価」の文脈で提唱されたルールです。
このルールはやや抽象的なのですが、もう少し具体的に「何を」フィードバックするのかという対象に着目してフィードバックを分類した例として Hattie & Timperley (2007) によるフィードバックレベルの四分類というものがあります。
タスクレベル (FT) :質問に対する答えが間違ってるか合ってるか、など学習者が取り組んでいるタスクに関するフィードバック
プロセスレベル (FP):学習者がタスクを完了するまでの過程に対して与えられるフィードバック
自己制御レベル (FR):自尊心や自己肯定感など自分でできるというモチベーションに関わるフィードバック
人格レベル (FS):タスクに関係のない事柄も含めた学習者個人に対するフィードバック
データに基づく分析
さて、ここまでフィードバックに関する7つの原則と4つの分類を紹介しましたが、これらは教師の学習者に対するフィードバックを分類したものに過ぎず、結局現場でどのようなフィードバックが使えるのか知りたいというニーズに答えるものではありません
その問いに答える一助となる論文が最近発表されたので紹介します
この論文は上記の2つのモデルを用いて、LMS 上に蓄積された 1,272 件のフィードバックを分類し、実際にどのような組み合わせが多く見られたのかを調査したものです。
ブラジルの研究ということもあり、フィードバックの言語は英語とポルトガル語となっています。
結果としては、多く使われる組み合わせとして3通りあり、それぞれ 1. FT + GP6, 2. FP + GP3, 3. FR/FS + GP5 ということがわかりました
それぞれ詳しく見ていきましょう。
FT と GP6 の組み合わせは、タスクレベルのフィードバックを通して、現在地と目標のギャップを縮めるような機会を提供することを指します。これはいわゆる模試の結果のように自身の目標に対する現状を数値で可視化したものなどが含まれます。
FP と GP3 の組み合わせは、学習プロセスの振り返りを通して自身の学習について質の高い情報を提供することを指します。これは例えば生徒の日々の学習記録などから継続的な学習のプロセスを強化することなどが含まれます。
FR/FS と GP5 の組み合わせは自己肯定感を高めるフィードバックを通して、自尊心とポジティブなモチベーションを高めること指します。これはどちらかというと生徒の精神面に対するケアを指しており、学習を続けるためのモチベーションを提供します。
ここから何が言えるか
冒頭で2つのフィードバックに関するモデルを紹介しましたが、それぞれ別々で紹介すると無味乾燥なもののように思われたモデルも、こうしてそれぞれを関連づけることで少し意味のあるものとして捉えられると思います。
例えば回答に対する丸バツのフィードバックばかり行なっていても、FT+GP6の組み合わせがないので学習者のモチベーションが続かなくなるかもしれないですし、逆にモチベーションを高めるためのフィードバックばかり行なっていても、FS/FR + GP5の組み合わせがないので結局それ自体では目標達成に近づかないということもあり得るわけです。
この2つのモデルを通すことによって、これまで感覚的に捉えられていた「良い」フィードバックに対するある程度の手がかりが得られます。
それだけのことを言うために随分と回り道をしている感じがするかもしれませんが、これらを通して教育工学のエッセンスを少しでも感じていただけたら幸いです。
参考文献
Cavalcanti, A. P., Rolim, V. B., Gašević, D., & Mello, R. F. (2023, November). A Comparative Analysis Between Good Feedback Descriptors on Online Courses. In Anais do XXXIV Simpósio Brasileiro de Informática na Educação (pp. 1512-1523). SBC.
Hattie, J. and Timperley, H. (2007). The power of feedback. Review of educational research, 77(1):81–112.
Nicol, D. J. and Macfarlane-Dick, D. (2006). Formative assessment and self-regulated learning: A model and seven principles of good feedback practice. Studies in higher education, 31(2):199–218
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