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“男性ブランコ”という“ジャンル”が好き。
男性ブランコという沼。
男性ブランコをご存知でしょうか。吉本興業所属の、お笑いコンビです。
M-1グランプリ2022決勝で披露した「音符運び」は記憶にある人も多いのではないでしょうか。
平井さんが自分の体ほどの大きさの音符を運搬しようとするのですがなかなかうまく行かず、隣で見守っている浦井さんを何度も殺してしまうというネタでした。
そもそもが「大きな音符に殺される」というかなり過激な展開にもかかわらず、その独特な言葉遣いや動きからなる平井さんのポップさによってそれは柔らかくなり、そんな平井さんに何度殺されてもスッと美しく立ち上がり、「次はしっかりね」と見守り続ける浦井さんの奇妙な冷静さからなるやり取りは、何度見ても面白いです。
お二人のマイムも本当に見事で、音符をよく知らない人でも想像しやすく、どんなふうに殺されたのかも(どんなふうに殺された、って改めて凄い言葉ですね笑)とっても伝わりやすいです。
時に“市役所職員”なんて風に揶揄されるお二人の真面目な印象と、昔のおとぎ話のようでもある、スプラッタで奇妙な設定とが混ざり合って、唯一無二の不思議な世界を作り出していました。
このネタは多くの人に強烈な印象を与え、彼らの人気・実力をさらに押し上げたきっかけとなりました。
かくいう私も、その日を境に彼らの魅力に取り憑かれた一人です。
こちらは、キングオブコント2021決勝で披露されたコント「ボトルメール」です。
このネタも、彼らを語る上で絶対に外せない1本と言えるでしょう。
空き瓶に手紙を書いて海に流す「ボトルメール」を通じて知り合った男女が初めて実際に会う様子を描いたコントです。
浦井さん演じるサトウミツルの語りを軸に進む演劇性の高い構成はさすがの一言で、そのストーリーにどんどん引き込まれていきます。記憶を消してもう一回見たいと常々思う名作です。
平井さん演じるタチバナマリの強烈なキャラクターを「なんだこいつは!」と否定して笑いに繋げるのかと思いきや…という独特な展開に惹かれた人も多いでしょう。前述した漫才「音符運び」で、浦井さんが音符で何度も殺されているのにも関わらず強く叱責しないところにも通ずるものがある気がしています。
限られた時間の中にこれだけの笑いとドラマ性をぎゅっと詰め込んで、見事に演じ切るお二人の才能にはいつも惚れ惚れしてしまいます。
“漫才師”なのか、“コント師”なのか。
いつしか世の中に浸透して、今や当たり前のように使われている“漫才師”、“コント師”(コント職人という言い方もありますね)という通称。
さらに今では“二刀流”という、漫才もコントも両方得意とする方々を称する言葉もよく見かけるようになりました。
漫才、コントそれぞれの分野に賞レースがあることの影響や、そもそもカテゴライズする方が何かと盛り上げやすくなったりするので、このような通称が使われがちなのでしょう。
果たして、私の大好きな男性ブランコは漫才師なのか、コント師なのか。特に明確なルールを誰かがもうけるものでもないと思うので、私がこの沼を語るにあたっては、好きなように論じさせていただこうかと思います。
お二人は常々、将来の目標としては「コントで全国を回って、食べていけるようになりたい」と仰っています。彼らの単独ライブのタイトルは頭に“男性ブランコのコントライブ”とつけて行われることも多々ありましたので、充分に“コント師”と言えるでしょう。
ですが、彼らは日本一の漫才師を決める大会であるM-1グランプリにも積極的に参加され、好成績を残している歴とした“漫才師”でもあります。
ならば前述した“二刀流”ということでいいじゃないかと思われるかもしれませんが、ここで私はこう主張したいのです。
“男性ブランコ”とは“ジャンル”の一つ。
だと。
ジャンル(〈フランス〉genre)
種類。領域。特に、文芸・芸術作品の様式・形態上の分類についていう。
[類語]種類・種・品種・範疇・類・たぐい・分野・方面・世界・領分・領域・境域・部門・畑・フィールド
“男性ブランコ”という“ジャンル”の魅力。
2023年に行われた単独ライブ「やってみたいことがあるのだけれど」は、最初と最後を漫才で挟んだコントライブという独特な構成でした。
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ハイセンスなフライヤーはそれだけで気持ちを高めてくれる重要な要素ですよね。
音楽、映像、道具、舞台上のあらゆるものを駆使して作り上げられるこの世界は、“お笑い芸人のライブ”の枠を超えた新たなジャンルだったなと思うのです。
さらに先日まで東京・大阪の2ヶ所でオリジナルグッズや過去の単独ライブの映像を販売、衣装などを展示するポップアップストアも行われました。
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我々は“お客さん”ではなく、“招聘研究員”。
筆者は約3万円ほどグッズを購入。これは大事な研究費用なので必要経費に計上です。
もともと私は、小さい頃からずっとお笑い芸人さんが大好きでした。
同級生がジャニーズにハマったり、AKB48にハマっている隣で、ずっとピカルの定理がどうとか、ラーメンズがどうとか、言ってました。(同じような趣味の子は学年に一人いるかいないかレベルだったので、寂しさのあまりSNSに入り浸っておりました)
今もそれは続いていて、よしもと漫才劇場と森ノ宮漫才劇場をハシゴして何公演もライブを観たり、オンライン配信を買いまくったり、YouTubeやポッドキャストを漁る日々を送っています。
マニア、と言えるほどあらゆるコンテンツを網羅しているわけではありませんが、広く色々な芸人さんの活動を追い、日々を笑いで満たしています。
そんな私のオタ活ライフの中でも、こんなに深くじっくりと沼に沈んだのは男性ブランコが初めてだなあ、と思っています。
男性ブランコは人生を支えてくれた大切な存在。
2022年末当時、私は新卒で入社した企業での日々になんとなく疑問を抱いていました。
直属の上司からの愛がありつつも厳しい指導に疲れていたことや、尊敬していた先輩社員が相次いで退職してしまったことなどが、その主な理由でした。
M-1グランプリ2022で男性ブランコに沼った私は当時、好評につき配信期間が延びに延びていた伝説のオンラインコントライブ“トワイライト水族館”を観て、さらに深い沼へと沈んでいきました。
池袋のサンシャイン水族館を貸し切り、映像や歌、コントなどを織り交ぜた単独公演。
この試みはなかなか他には無いものだと思います。ネタを披露していくというわけではなく、一つの大きなストーリーを背景に映像作品などをいくつか挟んだ構成でした。今はもう観るすべがない事が非常に悔やまれます。もう一度この世界観に浸りたい。
その中で、平井さんが作詞されたこんな歌がありました。これが、より深く沼に沈んだきっかけです。
あなたたちも なにかやめて なにかをはじめたら?
たのしい なにかを はじめたら?
(中略)
あたしら みんな かっこいい
あたしら みんな かっこいい
転職について悩んでいた当時の私は、この歌を聴いて夜な夜な泣いていたことを今でも思い出します。優しく背中を押してくれたとっても大好きな曲です。
年が明けて数日経ち、男性ブランコが出演するライブを観るために東京を訪れた際、サンシャイン水族館で実際のペンギンたちに会いに行きました。そしてそこで転職を決断しました。
当時、男性ブランコが好きという共通点でSNSを通して繋がったオタク仲間達とは知り合ってやがて2年が経とうとしていますが、いまだに楽しく交流しています。彼女達はお笑いの話だけではなく、仕事のことや家族のこと、色々な話ができるありがたい存在です。
去年の春には、お二人が出演されたヨーロッパ企画の舞台「鴨川ホルモー、ワンスモア」を観に行きました。ほとんどお笑いしか見てこなかった私は、素敵な俳優さん達の演技や楽しい演出の数々にとにかく圧倒されました。
さらに、上野の国立科学博物館を舞台にしたコントライブ「嗚呼、けろけろ」をきっかけに、私は人生で初めて博物館を訪れました。
このように、男性ブランコはもはや私にとって、ただ笑わせてくれるだけの存在ではありません。あらゆる面から人生を豊かにしてくれました。
だからこそお笑い芸人、漫才師、コント師、とかではなく一つのジャンルとして確立している存在なんじゃないかなんて思うのです。
ちょっと大きく出過ぎていますかね?でもきっと、同じように感じているファンの方もいるんじゃないかなと思うのです。
最後に、私の大好きなコントをいくつか載せておきます。これを読んだあなたが、男性ブランコの沼に落ちますように。