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【Highway 61 Revisited】(1965) Bob Dylan アナログ・レコードで辿ってみる追憶のハイウェイ61
高校時代にボブ・ディランの本を読んだことがありました。古本屋で100円で買った文庫本です。エレキを持った短髪のディランが表紙で、発行は昭和49(1974)年。紙が茶色に焼けて退色した、当時でも15,6年ものとは思えない古びた洋書の翻訳でした。
聞けばディランという人は、保守的なフォークの観衆を前にエレキギターを抱えて、非難に晒されながら「ライク・ア・ローリング・ストーン」を歌ったらしい。高校で孤独だった私は、ディランに生きる強さを求めたのでした。
ところが、読み終わってみるとこの本、公民権運動でボブ・ディランがプロテストフォークの英雄となる所で話はお終い。はっ?表紙はエレキなのに中身はエレキ前というオチ。騙されました。昔は表紙が紛らわしく、詐欺まがいの本があったんですよね。フォークだけに実にアコギな商売です。
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ボブ・ディラン……安住の地を嫌い、直感の赴くままに自分の道を切り拓いてきたミュージシャン、詩人といったイメージでしょうか。
正直、私はそんなに得意ではないです(苦笑)が、60年代半ばの彼の生き様には、強烈なリーダーシップを感じますね。彼の一挙手一投足がロックの動きと連動していました。
ディランが初めて全編ロックバンドを従えて作った記念すべきアルバム【Highway 61 Revisited 邦題:追憶のハイウェイ61】。
今回はアナログ視点で気になったことをまとめてみます。
(アナログレコード探訪)
〜録音風景浮かぶような米国盤〜
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通称360サウンド盤(1965年~70年)
本作の米国初盤です。レーベルの下側に白字で ⇐"360 SOUND" とあるデザインがこの時期のものです。私のはマトリックスが2C/1E、裏ジャケが初回盤とは違っているので、少し後発なのでしょう。もしや誰かにすり替えられてたりして…笑
針を落としてみると、ミドルレンジの太い音です。ドッシリとした存在感。昔のロックの音ですね。同じステレオでもビートルズほど極端に左右に分けてはなく、曲によって殆どモノラル的な鳴り方が、かえって本作の尖った生々しさを引き立てているように思います。ラジオ向きな音ですね。
"Tombstone Blues"で機関車のようなリズムに乗って捲し立てるように歌うディラン。ロックしてます。リードギターはポール・バターフィールド・ブルース・バンドでデビューする前のマイク・ブルームフィールド。鋭いフレーズで斬り込んできますね。
〜今ではお宝、日本編集盤〜
一方、日本で最初にボブ・ディランを発売したのが日本コロムビアです。当初より正式アルバムの体裁では発売されず、「第1集」「第2集」といった日本独自の編集だったようです。
ネット上で見たところ、本作の米国盤をベースにしたであろう日本独自盤がありました。これが非常に面白いので紹介します。
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ジャケットは何と2nd【フリーホイーリン】を使って、選曲はまさかの「ライク・ア・ローリング・ストーン」を外して「マギーズ・ファーム」を収録という謎な内容。こういう勝手な事が出来たんですね。今となっては超が付く貴重盤と言えます。お値段高そう〜。
失意のどん底のようなピアノが響く"Ballad of a Thin Man"。本作唯一の陰鬱なメロディで、好みが分かれそう。アル・クーパーのオルガンが好サポート。嘆きを増幅させています。
ブルースロック風な曲が目立つ中で、如何にもディラン流フォークロックの "Queen Jane Approximately" が私は好きです。投げやりな歌い口ですが、バンドアレンジによって曲の陰影が際立ってますね。
〜 「ビュイック6型の想い出」別テイク〜
日本コロムビア時代には正式に発表されなかった本作ですが、1968年に新しく設立されたCBSソニーに版権が移ると、いよいよ待望の日本盤が発売されます。
その現物がこちらです。
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さて、この日本盤、音も非常に良いのですが何を隠そう一曲だけ米国盤とは異なる別テイクが収録されているのです。
A-④ "From a Buick 6" (邦題「ビュイック6型の想い出」)が、日本盤ではハーモニカから始まる別バージョンでテンポも速い。
通常バージョン
アナログ日本盤バージョン
元は米国テストプレスに収録されたテイクらしく、その後は差し替えられるのですが、日本では何故かそのまま収録されたんだそう。つまり日本コロムビアの倉庫にあったボブ・ディランのマスターテープは、CBSソニーにそのまま移管されたという証拠でもあります。ちょっと興味深い話…。
そして驚くのは、アナログ期の日本盤はすべてこの別テイクが収録され続けた!ということなんです。CD化に際してようやく修正。よくチェックが入らなかったなぁ…。
皆さん、本作の日本盤をお持ちであれば、是非確認してみてください。
因みにこの別テイクは、【The Cutting Edge 1965-1966: The Bootleg Series, Vol.12】にて2015年にCD化されています。めでたし。
〜推理劇、日本初回盤はいつ発売か??〜
では、本邦初回盤となる【追憶のハイウェイ61】はいつ登場したのか、について考えます。
Wikipediaによると、CBSソニー創業年の1968年発売とありますが、これは誤り。何故なら裏ジャケットの中村とうよう氏の解説にて、ローリング・ストーン誌1969年11月号のディランのインタビュー記事が引用されているからです。辻褄が合いません。本作の規格番号(SONP−50345)を私が所有する他のCBSソニー作品と照らし合わせてみると、多分1970年の発売ではないでしょうか。
もう1つ決定的な証拠がここにありました。
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私の盤の最初の持ち主が、買った日のメモ書きを残してくれていたのです!「1970年12月3日購入」。几帳面な方だったのでしょう。私はこれを動かぬ証拠だと信じます。
調べてみると、三島由紀夫が割腹自殺した8日後に購入されていました。うむ、楯の会、いや歴史をヒシヒシと感じる1枚ではありませんか。持ち主の方、まだご存命でしょうか?? どんな気持ちでディランを買い求めたのか。How does it feel??
という訳で、本作の日本初回盤は1970年発売と立証。そして日本盤は別テイクが入った世にも稀な貴重盤という話でした。
ガッテンして頂けましたでしょうか?チャンチャン
本作と切り離せないのが、1965年7月25日の伝説のニューポート・フォーク・フェスティバルです。5日前にシングル "Like a Rolling Stone" を発表したばかりのディランは、ロックバンドを従えたパフォーマンスを披露してフォークファンは騒然。ブーイングとも歓声とも取れる会場の熱気がひしめいています。歴史的な瞬間ですね。