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【Heavy Horses(逞しい馬)】(1978) Jethro Tull 原点回帰したフォーク路線の隠れた充実作

ジェスロ・タルといえば何はともあれ「難解」なイメージ。とっつきづらい印象…。
演ってる音楽もハードロックなのか?プログレなのか?どうも曖昧で捉えどころがない。加えてビジュアルも、アクの強過ぎる髭面のイアン・アンダーソンがステージで決める一本足打法ならぬ、フルート一本足奏法を見ただけで「こりゃ無理だ」となりかねません💦

ジェスロ・タルの作品は数多いですが、私はこのアルバムが気に入ってます。70年代後半の彼等はフォーキーな作品を連発しており、割合と聴きやすいのです。

先ずは本作のオープニングトラック "...And the Mouse Police Never Sleeps" を。

アコースティックギターを主体にしたフォーク・ロックですが、フルートや風変わりなビートには、う〜む、如何にも一筋縄ではいかないジェスロ・タル…。それでも食い気味に入るシンコペーションのリズムなど、スピーディーなメロディ展開は、曲作り、アレンジにも老練さを感じます。そして何より演奏が上手い!単なるフォーク・ロックで終わらない、けれど親しみやすさも忘れないタルの良さが出た一曲です。

邦題【逞しい馬】

本作はジェスロ・タルの11枚目の作品。前作【神秘の森】(77年)から、次作【ストームウォッチ】(79年)まで続いたフォーク路線3部作の2作目です。
ジェスロ・タルの音楽って癖が強そうだし、実際に癖だらけなのですが、意外にフォーキーな楽曲が多いのも確かです。英国のバンドらしくブルースロックで登場してからはハードロック、プログレッシブと作風を広げますが、堪えず根底に流れていたのはフォークミュージック。ステージでもイアン・アンダーソン自らアコギを掻き鳴らすなど、バンドの音楽性の根幹にあったと思われます。

【Now We Are Six】(74年) Steeleye Span
バンドが初めて正式ドラマーを迎えた6作目

そんなジェスロ・タルにとっての契機が、英国トラッド/フォーク3大バンドの一角、スティーライ・スパンの【Now We Are Six】をイアンがプロデュースしたことだと言われています。ロックにアプローチしたいスティーライ側の起用だったようですが、イアンにとっても英国伝統のトラディショナルと本格的に向き合う機会となったのは想像に難くありません。

時代はパンク、ディスコブーム。ハードロックもプログレも万策尽きた感のある中、敢えて原点回帰したのは思えば得策だったと言えます。これまでの音楽変遷がフル活用された、コンパクトなジェスロ・タル・サウンドです。

(アナログレコード探訪)
〜80年代の足音がきこえる〜

米国初回盤(左)、ドイツ再発盤(右)

本作のジャケット、初期盤はテクスチャー仕様です。上の2枚はパッと見では色味しか違いませんが、米国初回盤を拡大すると…。

こんな感じ。文字が浮き上がってます。このリッチ感、再発プレスでは消えています。

クリサリス・レコード米国初回盤
クリサリス・レコード西ドイツ再発盤
(80年代初頭?)

私がこれまで聴いた印象では、ジェスロ・タルの米国盤は、70年代中期の作品まで殆ど音がこもってます。でも本作はビックリするほど高音質。音域のレンジが広く、米国盤らしいドンシャリ感が大袈裟なくらい強調されていました。
70年代末になると、英米ロックで音の酷い盤は殆ど見当たりません。旧譜でも、例えばツェッペリンの再発プレスは非常に音がヴィヴィッド。初回盤とは全く異なる感触です。80年代に繋がるライトでハイファイな音作りがこの頃から明確になった感じがしますね。

Side-A
② "Acres Wild"

イントロのマンドリンの旋律からして、英国古楽の雰囲気がプンプンと広がっています。でも歌が始まればイアン・アンダーソンの世界。伝統とオリジナルを上手くマッチさせる巧さに感服です。英国人のアイデンティティを感じます。元カーヴド・エアのダリル・ウェイがバイオリンで客演。

④ "Moths"

フォーキーですが、所々で変拍子や転調が出てくるなどタルらしさ満載。映像から分かるようにオーバーアクションで表情豊かにパフォーマンスするイアン・アンダーソン。体を張ったストーリーテラーです。

Side-B
② "One Brown Mouse"

フォークロック期のタル、前作【神秘の森】もそうですが、透明度のある楽曲には思わずクリスマスを連想してしまいます。白銀の田舎町を思わす音の風景。美しい〜。

③ "Heavy Horses"

マーティン・バー(昔はバレと読んでました)
が弾くギターフレーズも含めて、前奏が演歌っぽくて私はあまり好きではないのですが(苦笑)、歌メロは美しい表題曲。
途中からはめくるめくプログレ風な展開ですが、この時期のメンバーは特に演奏技術に優れ、変幻自在なアレンジを聴かせます。
映像では仮装するメンバーなど、バンドが持っていた演劇的要素が窺えます。

フォーキーなジェスロ・タル、如何でしょうか?凝ったアレンジ、芝居がかったスタイルなど日本人にはアクが強すぎるかもしれません。でも、そんな個性全てがいかにもブリティッシュロックらしいバンドです。

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