花に至る病

どれほどの時間が過ぎたのだろうかと思ってしまうほどに、あれからたくさんのことがあった。

実際には何年も経っているわけではなく、いま強い風に煽られるこの体のように、ほんの少しの間、これからも続くであろう人生のわずかな瞬間、心が揺さぶられていただけだ。

当時の自分は未来永劫に苦しみが続くと感じていたし、いまでもそれが無いわけではない。

塞がらない傷からあふれ出る灰色に濁った感情にいつまでも定まらぬ思考が水平線の向こうへと追いやられ、記憶が茫洋としてしまう。

それでも彼女のことは一生忘れないだろう。

乱暴な風は尚も吹き付け私を急かす。こんなところで過去の悲哀を愛でながら沈んでいく人間にどこへ行けというのか。

自然の摂理は惨酷だ。どんなものも平等に塵へと変える。

もみじは春に花が開き、葉が夏の陽射しに耐えて秋に色彩の絶頂を迎え、そして冬の訪れを待たずして次の人生に備える。

カエデ科に限らずとも、多くの植物が秋に生を謳歌して、冬を前に散っていく。

これは誰にも、彼女にさえも言ったことがないのだが、私は冬が大嫌いだ。喜びも悲しみも雪で覆ってしまう。何事もなかったかのように。誰も彼もがそれを当然のこととして受け入れる。

すべてが白く包まれ、暖かくなり春がやってきた時には、中にあったはずの何かは失くなっている。

私は冬が大嫌いだ。だが、彼女と出会ったのはその大嫌いなはずの冬のことだった。

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