まだ母がいる己への自戒
先日、とある家から救急車がサイレンを鳴らしながら発進するのを見かけた。
急病人を乗せたところだったのだろう。
いつだったか、母が同様に運ばれていくのを涙を流しながら見送ったことを思い出した。
帰宅して、茶の間で休んでいると父が突然言った。
「去年の今日だぞ」
老けたせいもあるが、よく父は突然なにがしかを言い出す。なんの前振りもなしに。
「なにがさ」
出来るだけ興味を持っているような、しかし、わざとらしくないよう素っ気なく聞き返す。
「静子が倒れたの」
そうだったのか。
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