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🔵探せメロス

暴君ディオニス王に真の友情を知らしめたメロスの後日談である。

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数年後、あの竹馬の友であるセリヌンティウスが結婚するとの知らせを受けた。

未明、メロスは村を出発し、野を越え山を越え、式場のある市までやって来た。

式場近くでコンビニを見つけ、ご祝儀袋と筆ペンを購入し包もうとしたその時、メロスは新札を持っていないことに気が付いた。

休日の銀行はどこも閉まっていた。
ATMで8万円しかない残高を何度も出し入れするも、新札は一向に出てこない。手数料だけが音も立てずに情けなく落ちていく。

メロスは走った。

このままでは包むカネが無くなる。

メロスはお店のレジに行けばあるのではと思いついた。しかし時計の針は午前8時半。時間が早すぎて、空いているのは敷居が地よりも低そうなコンビニくらいである。

せめて10時であれば大型ショッピングモールも視野に入り、可能性が上がるのに。午前中に式を挙げるセリヌンティウスにメロスは激怒した。

路行く人を押しのけ、跳ねとばし、メロスは黒い風のように走った。


山を越え、隣村まで来ると、そこには大きく立派なホテルがあった。ふと耳に、水の流れる音が聞こえた。岩の裂目から何か小さく囁やきながら清水が湧き出ているのである。

その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。水を両手で掬って、一口飲んだ。

ほうと長い溜息が出たのと同時に、ホテルのフロントなら新札もたっぷりあるのでは!と、メロスに妙案が降ってきた。

希望が生れた。義務遂行の希望である。わが身を殺して、名誉を守る希望である。昇陽は光を樹々の葉に投じ、葉も枝も輝いている。

メロスはフロントで新札を手にすると、我が身に鞭打ち親友の元へと再び走りだした。

神も照覧、私は精一杯に努めて来たのだ。
動けなくなるまで走り、探し出して来たのだ。

私は折れた札を包むような非常識の徒では無い。

ああ、できる事なら私の胸をたち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。他人の目を気にする血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。


メロスは疾風の如く式場に突入した。間に合った。

「メロスです。新郎側です。」

「こちらにお名前をお願いします。」
「それと、ご祝儀はこちらにお願いします。」

「 」

メロスは膝から崩れ落ちた。

式場まで最後の死力を尽くして走ってきた手の中で、
新札を入れたご祝儀は、クシャクシャになっていた。

「セリヌンティウス。」

メロスは眼に涙を浮べて言った。
「私を殴れ。力一杯に頬を殴れ。」

「君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君を祝福する資格さえ無いのだ。さあ殴れ。」

セリヌンティウスは、式場一杯に鳴り響くほど音高くメロスの左頬を殴った。

メロスの鼓膜が破れた。メロスはとても驚いた。
前回よりも、はるかに強かった。

「帰ってくれ。」

メロスはほとんど聞こえなかった。

ひとりの少女が、メロスにマントを捧げた。
メロスは、まごついた。
年老いた列席者が、気を利かせて教えてやった。

「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を見るのが、たまらなく不快なのだ。」

愚者は、ひどく赤面した。

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