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ミュージカル映画入門におすすめの「アンソロジー映画」とは
アンソロジーとは?
ミュージカル映画は数が多い。Amazonプライムの見放題作品だけでも150作、レンタル作品を含めればなんと350作近くのミュージカル映画が存在している。もちろんAmazonプライムで見ることができない作品、翻訳されていない作品なども含めればその数は膨れ上がる。総数は計り知れない。(詳細は下記記事を読んでほしい)
いざ、ミュージカル映画に入門しようと思ったとしても、それらは玉石混交であり、片っ端から見ていくことは到底おすすめできない。また数も多すぎて現実的ではない。そこでアンソロジーの出番となる。
アンソロジーとは、作品集を指す外国の言葉である。が、ミュージカル映画においては「もし、数あるミュージカル映画のなかで、名ミュージカルシーンだけを切り抜いて集めたような作品があれば……」というニーズに応えたある種のドキュメンタリー映画のことを指す。とりあえずアンソロジーを見れば、「これは押さえておきたい!!」というような歴史的なミュージカルシーンを一通り押さえることが出来る。そんな便利な代物だ。
さらに、解説付きであるため知識も身につく。ごく数分の素晴らしいダンスシーンのために、退屈なストーリー(残念ながらミュージカル映画はそういうことがしばしばありえる)を延々と追うハメになるというリスクも避けられる。次から次へと素晴らしいシーンが続くため飽きることがなく、目と耳のこれ以上ない保養にもなる。良いシーンだけ寄せ集めたのだから当然である。そういった意味でチートともいえる。アンソロジーとは、そんな究極の夢のエンターテインメント作品でもあるのだ。
代表的なアンソロジー
このように夢の企画ともいえるアンソロジー映画であるが、その数は決して多くない。そのため隙間時間などを使えば、あっという間に見ることが出来る。短く紹介していく。
1.『ザッツ・エンターテインメント』1974年
もともとはMGM(という数多くのミュージカル映画を製作した映画会社)を特集したテレビ特番として制作されたが、非常に出来が良かっため劇場公開されヒットした。MGMの企画であるため、選ばれているミュージカルシーンはすべてMGMのものである。そのため戦前のミュージカル映画史において非常に重要であるワーナーの作品やRKOの作品が完全に抜け落ちているのが欠点だ。
とはいえ、MGMのミュージカルシーンに限ればもっとも王道なシーン選出になっている。ミュージカル映画黄金期とされる戦後のある時期の作品についてはそのほとんどが押さえられているといっていい。それだけ当時はMGMの存在が絶対的だったのだ。ミュージカル映画が歴史上もっとも充実していた時代の名シーンを一覧できるという意味で、もっとも最初に見るべきアンソロジーなのは間違いがない。
たとえば、『雨に唄えば』や『オズの魔法使い』の最も有名なシーンもこの映画で選出されている。
2.『ザッツ・エンターテインメントⅡ』1976年
『ザッツ・エンターテインメント』の成功により製作された続編である。これもMGMの企画であるため、MGM作品のみの選出なのは変わらない。特筆すべき点としては、ミュージカル映画界の大スターであるフレッド・アステア(当時76歳)とジーン・ケリー(当時64歳)の二人がシーンを紹介するというスタイルになっているという点がまず挙げられる。あまりの豪華共演に目がくらんでしまいそうになる。
選出の傾向は、前作では権利関係で選出されなかった『アニーよ銃をとれ』が選出されているなどの例外はあるが、ザッツ・エンターテインメントほど王道ではない。また、『風と共に去りぬ』などミュージカル映画ではないシーンもたびたび選出されているため少々困惑させられるという側面もある。この作品は入門としては最後でいいかもしれない。
3.『ザッツ・エンターテインメントⅢ』1994年
MGM70周年企画として制作された作品。前作から20年近く経過しており、フレッド・アステアやジュディ・ガーランドはすでに鬼籍に入っている。そのため、やや追悼としての意味合いも強く感じられる作品だ。また、アウトテイク(NGシーンというか没テイクというかそんな感じのシーン)も数多く収録されている。シーン選出は1ほどは王道ではないが、スターごとのそれぞれの代表的なミュージカルシーンが改めてまとめられているため入門に十分適していると思う。
たとえば、ジュディ・ガーランドのこれらの代表的な名シーンが選出されているのはこの作品だ。どちらも絶対に死ぬまでに一度は見ていただきたい名シーンとなっている。
これらのザッツ・エンターテインメントシリーズはUNEXTですべて見放題となっている。お得に見たい人にはぜひおすすめしたい。
4.『ザッツ・ダンシング!』1984年
最後に紹介するのが、この『ザッツ・ダンシング!』という作品。前述の一連のシリーズと比べると一般知名度は低く、Filmarksの登録数も77件と2022年1月30日現在非常に少ない。しかし、この作品必見である。
この作品は前述のシリーズとは異なり、MGM以外の作品のシーンも収録されている。ワーナーの作品や、RKOの作品も収録されている。これは非常に大きい。これはすなわち、『コンチネンタル』や『四十二番街』あるいは、ボブ・フォッシーの『スウィート・チャリティ』などの名作が唯一見れるアンソロジーであるということだからだ。そういう意味で一番正統なアンソロジーであり、最も豪華なアンソロジーでもある。
ザッツ・エンターテインメントの第一作目の次は、これをおすすめしたい。ミュージカル映画史を見事に押さえているという意味ではほとんど唯一の作品であるし、1984年の作品なので70年代以降のシーンも選出されている。そういう意味で一番見やすい。もっといえば、一番最初にこれを見てもいいかもしれない。
この作品、数年前まで見るのが非常に難しかった。しかし、ありがたいことにTSUTAYAの復刻企画で改めてソフト化されることになった。そして2020年10月ついにレンタルが開始されたのである。今なら、少し大きいTSUTAYAに行けば普通に置いてある。是非、借りてみてほしい。
この作品の特徴は、あくまでミュージカル映画史ではなく、「映像技術を手にした人類がダンスをいかに記録してきたか」をテーマとしたドキュメンタリー映画となっている点である。いろんなミュージカルシーンや伝統舞踊を記録した映像が「ザッツ・ダンシング」という表題曲とともにMAD動画のように流されるOPは感涙ものである。
この作品については、近くに大きなTSUTAYAがない人などはあまり見ることができないかもしれない。そこで見れない人のために、詳細について説明したい。
この映画はOP終了後、映像史初期の稚拙なダンスの記録した映像からはじまる。そこからやがてプロが生まれる。ボードビルダンサーや、バーレスクの踊り子たちだ。そして、エルンスト・ルビッチによりついに大規模な舞踏シーンが映画のワンシーンとして記録される。当時はまだサイレント時代だった。
トーキーの時代が来てミュージカル量産時代が来たけど質はまだ低かった。そこに革命児として現れたのがバスビー・バークレー。『四十二番街』は映画ファンにも受け入れられ大ヒットした。『泥酔夢』のときの記録映像は貴重だ。彼は、振付と映像演出を革新させスターとなった(このあたりはすべてワーナーの作品である)
また、ダンスのスタイルの面で群を抜いたダンサーが映画界に登場する。フレッド・アステアだ。彼はジンジャー・ロジャースとタッグを組み、卓越した振付とダンスを披露し一世を風靡した。『コンチネンタル』などが紹介される。(このあたりはすべてRKOの作品だ)
同時代彼らに対抗できた二人組として挙げられるのはシャーリー・テンプルとボージャングル。彼らのタップダンス以後タップダンスから重いステップが消えた。
そんなとき現れたのがエリノア・パウエル。当時の女性ダンサーで断トツだった彼女をMGMは破格の待遇で受け入れた。彼女はまさに「タップダンスの女王」だった。
そして、ニコラス・ブラザーズ、レイ・ボルジャーなど素晴らしいダンサーが紹介されていく。
ここで一回バレエダンスの歴史に立ち返る。堅苦しいバレエを捨てモダンバレエを始めたイサドラの踊る貴重な映像や、『赤い靴』という著名なバレエ映画が紹介される。
このように独自の発展を遂げたバレエダンスは様々なダンスと影響を与え合い、新しいダンスの時代を作っていく。
そうして、MGM黄金時代1950年代ミュージカル映画黄金期に突入。
ミッキー・ルーニー、ジュディ・ガーランド、ジョージ・パウエル、シド・チャリシー、、、大量の多様なスタイルを持つダンサーがMGMで活躍した。
そのなかでも断トツのツートップは、フレッド・アステアとジーン・ケリー。『恋愛準決勝戦』や、『雨に唄えば』、『舞踏への招待』、『いつも上天気で』などが紹介される。ここでブロードウェイの歴史に立ち返る。
ブロードウェイの父と呼ばれるジョージ・コーハンの『ヤンキードゥードゥルダンディ』が紹介される。続いてコール・ポーターの楽曲で譽れ高い『キスミーケイト』。そして、物語とダンスと楽曲の融合(これを統合といいます)を成功させ、ブロードウェイ界に革命を起こした『オクラホマ』。ミュージカル史はオクラホマ以後と以前に分けられる。
そしてボブ・フォッシーの革新的な振付が魅せる『スウィートチャリティ』。
続いてハイレベルな群舞で魅せる名作『ウエストサイド物語』が紹介される。
ここで、ダンスに不可欠な音楽の変化を見ていくことになる。
『サタデーナイトフィーバー』でディスコサウンドがダンス界を席巻したことを紹介。『フェーム』の屋外ダンスシーン。
『フラッシュダンス』の情熱的なバレエシーンが紹介される。
どちらもアイリーン・キャラの楽曲で踊るシーンだった。
そして、1980年、ダンスはミュージカル映画だけでなく、ミュージックビデオによって記録されるようになる。この時代において最も影響力があるのがマイケル・ジャクソン。最後に『Beat it』のMVが紹介されてドキュメンタリーは締まる。
どうだろうか。非常に広範囲の作品が選ばれていることが分かるだろう。
まとめ
ミュージカル映画入門には、名シーンがまとめられたアンソロジー作品から見ていくのがおすすめだ。なかでもミュージカル映画黄金期の王道シーンがぎゅっと詰まった『ザッツ・エンターテインメントⅠ』と、ミュージカル映画史を俯瞰できる『ザッツ・ダンシング!』がおすすめである。
そして、これらの作品を見た後は是非個別の作品を見ていくことをおすすめする。『雨に唄えば』『イースターパレード』『踊るニュウヨーク』と通して見るに値する作品もまた数多い。是非是非見てほしい。