旅先からの旅立ち
出発
3月の上旬、春の訪れを感じさせるような空気が身体を包むようになったころ、4か月ほどお世話になった岡山のゲストハウスを発った。
最終出勤日にはたくさんの人が送迎をしてくれて、とても楽しい時間を過ごさせてもらった。
剃髪した頭を春の夜風にさらしながら行った撮影会は爆笑ものだった。
出発当日は駅まで送っていただき、前々から気になっていた蕎麦屋さんでみんなで食事をした。
もちろん、美味しい蕎麦で、個人的には山椒が効いていたのが好みだった。
また岡山に来たときは食べたい思う。
食事を終え、駅で別れの挨拶をかわして電車に乗った。
行く先は広島。ハッキリと決めていた訳ではないが、ぼんやりと自分の中で決めていた予定としては、広島から尾道に行き、尾道から愛媛に渡り、そこから左回りに四国を一周しようと考えていた。
電車に揺られ広島に着くと、曇天の広島に迎えられた。
元々天気が崩れるという予報だったが傘は持たずに旅していたので、雨が降っていないだけマシだと思うようにした。
宿はギリギリまで取らないでおこうかとも考えたが荷物が邪魔だったため、宿を決めてすぐに荷物を置きに行った。
荷物を置いて、一番の目的の場所へ向かった。
平常心
それは平和祈念資料館、原爆ドームである。
以前、一度だけ広島に来たことがあったが、その時は友人と遊んだだけで資料館には訪れていなかった。
海外に行く前に日本人として訪れておかなければならないと思っていた場所の1つだったので、ようやく来れたという思いがあった。
訪れる前に読んでいた大江健三郎の『ヒロシマ・ノート』や周りから聞いていた話で、原爆による惨劇のイメージとその後の流れがなんとなく頭の中に出来上がっていた。
実際に行ってみるとそのイメージもあったおかげか、思っていたより資料を冷静に見る事ができた。
これは自分にとって良いことだと思った。よく資料館を訪れた人が感傷的になり、見た後に残る印象がグロテスクな写真だけになってしまう事があるみたいだが、そうはならずに済んだからだ。
それに資料の中のある表記に引っかかりを持ったりすることができたのも冷静であったからこそではないかとも思っている。
ここでその表記のことに関しては割愛するが。
資料館を出て、原爆ドームに向かった。
夕暮れ時、曇天の中に佇む原爆ドームが僕を見ているような気がした。
今にも雨が降り出しそうな空を気にしながら、仕事や学校からの帰路を急ぐ人々が通りすぎる中、僕はしばらく原爆ドームから目を離すことができなかった。
広島の夜
日が暮れた後の広島の街をじっくり眺めながら、オススメされていた「本と自由」さんに向かった。
お店に着くと、ちょうどその日はイベント日であったらしく店内が賑わっていた。
せっかくなのでと思い、お酒を頼んでそのトークイベントに参加した。
壇上から一番遠い席に座っていたために、ほとんどなにを話しているのか分からないままイベントが終了した。
そのままお店を出るのももったいないと思ったので店主さんや常連さんらしいお客さんに近辺のおすすめのお店を尋ねた。
そこで教えていただいたお好み焼きさんで夕食を済ませ、一杯飲むために次のお店に向かった。音楽喫茶ヲルガン座というお店で食後のお酒を嗜み、帰り際名古屋好きだという店主さんとお話をした。
広島で地元名古屋のオススメの場所を教えてもらったり(名古屋を出てから県外の人に愛知県の良い所を教えてもらう事が多い)、次の日に行く予定である尾道のオススメを訊いた。
本が好きだというと、尾道には夜しか開かないというなんとも面白そうな古本屋やお気に入りの喫茶店を教えていただいた。こうやってオススメを訊いて渡り歩くのはとても面白い。
ほろ酔い気分で宿への道を歩いた。歩きながらふと資料館で見た当時の惨事が頭をよぎり、今自分が見ている街の景色と重ね合わせた。人の力で良くも悪くもこうも変わるものかと雨降り後の湿った道を歩いた。
尾道へ
翌朝すぐに尾道へ向かい、昼前に着いた。
前日とは打って変わって、暗く灰色の雲は見当たらず青空が見えた。
友人からオススメされていたカフェでランチをとった。
ヴィーガンメニューがあったのでそれを頼んだ。
餡かけがんもどきが外がサクサク、中がふわふわトロトロの絶品でした。
この日も前日と同じように荷物を置いて色々周りたかったので、当日の朝に宿を予約した。自宅兼宿になっているゲストハウスで気さくなオーナーさんとお子さんが走り回る中チェックインを済ませた。
宿を出て尾道散策をし、前日にヲルガン座で教えて頂いた喫茶店や、当日見つけたお店でオススメを訊いたりしながら歩きに歩いた。
尾道は狭い道と坂が多く、歩きがいのある町ですぐに好きになった。
夕食もオススメされていた唐揚げ屋さんでテイクアウト。
宿で食べようと帰ると、ちょうどオーナーさんご家族も夕食のタイミングだったので一緒に食事をとり、お酒を頂いたりしながらお話をした。
小学4年生の長男は読書好きで非常に賢く大人びた雰囲気で、まだ3歳くらいの次男は昼間と変わらず元気いっぱいに走り回る。二人とも全く人見知りしなくよく喋り、こっちも非常にリラックスできるアットホームな空気だった。
この時とても興味深かったのが、オーナー夫婦が子供に対して敬語などを使い丁寧な言葉で話していたことだ。そのことを言うと、二人とも特に意識しているわけではないようだったが、僕はその言葉遣いにとても感動した。
部屋に戻るとその日同じ部屋(相部屋を予約していた)に泊まるお客さんがいた。男女のペアで中国語で尾道の観光マップを見ながら会話をしていた。
「観光ですか?」と僕はほとんど何かを考える前に日本語で尋ねていた。
つづく
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