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南の犬の血

 生まれてはじめて献血しました。
 職場の近くに献血センターがあり、前を通るとよく「ご協力をお願いします」と声を掛けられていたのですが、このたび、初めて私の血を世の中の役に立ててもらう運びとなりました。 

献血って南の犬の血って書きますよね



 きっかけはラジオで献血への協力を呼びかけていたのを聞いたことで、「あなたが思うほど難しいもんやないで」というニュアンスのことをアナウンスされていたので、ほんならちょっと行ってみよか、と重い腰を上げたわけです。

 四条通り沿いに献血センターはあるのですが、建物のなかをやや奥のほうへ歩いていき、エレベーターで五階へ上がり、そこから再び、奥へ続く通路を歩かねばなりません。その通路は静謐を守っており、「ひやかしなら来るんじゃないぞ」と黙して語っているようでもある。簡単にできると聞いてきたけど、簡単には考えるなよ、と念を押された気がして気が引き締まる。

 センターに入ると女性スタッフに声をかけられ、予約はしていないこと、生まれて初めてであることを告げる。十分程度で終わると聞いていたのですが、問診があったり献血の前に血液検査があったり、献血してからは休憩が必要だったり、トータルで1時間はかかりますが問題ないですか、と問われ、「そんなに?」とは思ったものの、いまさら後には引けず、「そんなに?」と感じたことは悟られぬよう気をつけながらシレッと「問題ないですよ」と告げる。そんなことわかってましたよ、とでも言うように。

 問診では「最近出血を伴う歯科治療をしていないか」「海外旅行していないか」「一か月以内にピアスの穴をあけていないか」「三日以内に薬を服用していないか」「一年以内に予防接種を受けていないか」など細かい質問のすべてに「いいえ」と回答し、ものすごい奇跡のなかを生きている気がしてきた。
 予防接種は昨年コロナワクチンを打っているし、薬は最近、整腸剤を飲んではいますが、どちらも問題ないということでした。

いろんな質問に答えたよ


 問診を終えると、血圧をはかり、血液検査があり、その後が献血なんですが、けっこう時間がかかるから飲み物を飲んでゆっくりお待ちくださいとのことでしたので、鞄と上着をロッカーに入れつつも、文庫本を持ったままにし、無料のココアをさあ、飲みながら読むか、というところでさっそく血液検査のお声がかかる。けっこうすぐやん。

 腕をまくって肘の裏の血管の浮き出たところに刺すのかと思いきや、中指のさきっちょをサクっと刺され、出てきた血液は青色と黄色の液体の入った白い小さい器に入れられる。青や黄の液体とええ感じに溶け合った私の血液はO型らしい。昔から両親にO型だと聞いていましたが、改めてそれが事実だとわかった瞬間です。他の血液型なら青や黄とうまく混ざらないらしい。はじめて自分の血液型がO型であるという裏付けがとれたわけなんですが、そんな裏付けなんかなくても私は両親の言う通り、O型だったはずである。結果として両親の言うことを疑ってしまった気がして、その点に関しては献血なんてしなければよかったと後悔している。

 とはいえ、あらゆる関門をくぐりぬけ、晴れて献血できることになった。
 問診の先生は女性でした。呼ばれる前、「先生って男をイメージしがちだけどそれってジェンダーバイアスよな、女の先生だっているよな」と思いながら問診のブースに入ったら女の先生だったので、そうやんな、危ないとこやったで、などと思っていたのですが、献血をしてくださるスタッフの方が男性だったのには驚いてしまった。ああ、問診の先生は男かもしれないし女かもしれないと思っていた私なのに、献血をしてくださるスタッフさんは完全に女性だと思い込んでいた私の愚かなことよ。

 実に丁寧に優しく消毒をし、左肘裏の血管の浮き出た「いつものところ」にシュッと針を刺し、献血の間の足のトレーニングの説明なども淀みなくしてくださいました。
 針から管を血液が流れていく。管は琵琶湖へ流れる川のようです。血液はやがて管の本体(なのかは知らないが)たるバッグへと運ばれる。バッグはなぜか揺れており、その揺れ方は桃以外で唯一「どんぶらこどんぶらこ」と形容できる気がしました。

 確かに献血そのものは十分ほどで終わりましたが、終了後は献血台でしばらく寝そべり、立ち上がったあとも受付前の待合所で三十分ほど休憩させられました。アイスが一本無料で食べられるので、あずきバーを選び、献血前に入れたきり飲む機会を失ったココアを飲み干し、もう一杯、無料のココアを飲みました。

献血ルームでめっちゃ飲んだから買ってしまった。。



 くらくらするといけないから献血後の小便は個室で座ってするように言われていましたが、別に元気やし、ええやろ、と思っていた私の心理を見透かすように私と同じタイミングで、さっき献血してくださったスタッフさんがトイレにやってきたので、個室へ入り、座って用を足しました。

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