映画鑑賞の記録『ビヨンド・ユートピア脱北』
映画館で映画を観るのは久しぶりです。
せっかく会員になっているんだからたくさん観なければもったいない。
総移動距離1万2千キロ、50人以上のブローカーの協力のもと、「楽園」と信じた場所を離れ、決死の脱北を試みる家族の姿を収めたドキュメンタリームービーです。
真実を伝えるため、隠しカメラや携帯で撮影したそうなんですが、私はこのジャーナリズム根性に敬服します。逃亡のためにはなるべく余計なことはしないほうがいいに決まっているのに、そこにカメラを入れてまで、真実を伝えようとする、一歩間違えば、「死」です。それこそ、この撮影があったがために死を迎えてしまう、という事態も起こり得たわけで。いっぽうで、無事この作品が公開されているということは、最悪の事態は起こらなかったんだろうな、ということを最後まで信じながら、鑑賞いたしました。
祖国北朝鮮を離れ、中国、ベトナム、ラオスを経てタイへ。危険極まりない脱北の旅へ、幼い子ども二人と80代のお婆ちゃんを含む五人の家族が旅立つんですが、印象的だったのが、お婆ちゃんがこんなに苦しい思いをしているなかでも金正恩に「様」を付けて、「あのお方は私たちのためを思ってくださっている」と、感謝の言葉を述べる場面。思ってくださっているなら、絶対にこんな危険な旅に出る必要はないはずなのに。理屈は破綻しているにもかかわらず、感謝の言葉を口にするおばあちゃんが悲しすぎました。
国に残してきた子どもとの再会を切望するお母さんや、脱北者を強い使命感の下、命懸けで支援する人たちのことも追いかけています。
今私が生きている世界と同じ世界であることが、ちょっと信じられないくらいの現実をまざまざと見せつけられ、心を揺さぶられるというのか、魂を抉られるというのか。
上演開始後に私の席を横切り、私の隣の席に座った男性が、上映途中で私を横切り外出したのと、エンドロールが流れ切らないうちに私の前を横切り帰っていった男性が残念でしたが、見応えのある映画でした。