『スポーツジムに通う男』
タンクトップに短パンの中年男が舞台中央後方で股を開けて座っている。隣の若者に話しかけている。舞台右側前方には机、机の上に分厚い辞書のようなもの
中年男「順番待ち?」
若者「はい?」
中年男「順番待ちかー?言うて聞いてんねん」
若者「いえ、違いますけど、、、」
中年男「ほうか、ほんならワシ、ここ座っとってもええな」
中年男、タオルを振り回したり屈伸したりしながら時間を持て余し、スマホを見ている若者を気にする素振り。
中年男「兄ちゃん、あんまり見ない顔やけど、あれか、新入りか?」
若者、話しかけられてめんどくさそうにスマホを閉じる。
若者「いえ、体験なんです」
中年男「体験!体験かいな!そらええど!ここのジムはええわ。いや、わしもいろんなジム行ってみたんやけどどこ行っても全然続かんかったんやけどな、ここのジムはええわ、ずーっとどこのジム行ってもあかんかったのにここはもうすぐ一年や。なー、兄ちゃん!」
若者、めんどくさそうに聞いていたが「なー、兄ちゃん!」と呼ばれビクッとする。
若者「(なんやねんこのおっさん、うっとうしいなー)」
中年男「兄ちゃん、えらい若いさかい、こんなジム来んでもよさそうなもんやけどな。あれか、兄ちゃん、学生さんか?」
若者「あー、そうですけど」
中年男「どこの大学行ってんのや?」
若者「(うざっ、なんでおまえにそんなこと言わなあかんねん)いや、まぁ、その、東大阪大学なんですけど」
中年男「東大阪大!!?」
と大袈裟に反応したあと考えこみやや時間を置いて俯きがちに・・
中年男「東大阪大???ひがしおおさかだい、ひがしおおさか、ひがしおおさか・・・」
突然何かに気づいたように・・
中年男「東大阪大!あー!東大阪大なっ!あれ、ひがしおおさかだいて読むんかいな!?ワシはあれずっと"とうだいはんだい"や思ってたがな。東大なんか阪大なんかどっちやねんて思ってたんやけど、あー、ひがしおおさかだいな!そら、たいしたもんやないか!よう知らんけど。はっはっはっはっ」
若者、テキトーに愛想笑いしている。
中年男「まー、なんにせよ、ここのジムはええぞ。ほんで兄ちゃんの運のええとこは、入会する前にわしと知り合いになれたことや」
若者、テキトーに愛想笑いしている。
(そうやね、あんたと会うたおかげで入会をやめることにしたわ)」
中年男「兄ちゃんは学生やからあんまりわからんかもしらんけどな、社会に出たら"派閥"っちゅうもんがあるんや。兄ちゃんが就職しよ思てる会社にも必ずある。3人以上、人がいたら必ずできるもんやわ。このジムもそうやねんけど、わしと知り合いっちゅうことになったら悪いようにはせえへんさかい」
若者、テキトーに愛想笑いしている。
(鬱陶しいな〜、もう絶対入会せえへんからな)」
中年男「なんちゅうても、ここのジムは他のジムと違ってシステムに遊びがあってな。楽しみながら続けられるように工夫してあるねん」
舞台右袖からインストラクターと利用客の「しげちゃん」があらわれ、中央より右寄り前方の机の前に位置。しげちゃんは利用を終えたところでインストラクターに挨拶をする
しげちゃん「先生、ほな、今日もありがとうございました。自己記録が更新できたさかいに気持ちええですわ」
インストラクター、微笑む
しげちゃん、後方へ振り向くと中年男がそれに気づく
この頃には解き放たれた若者は舞台からハケている
中年男「お〜!長いこと誰かやっとんな〜て思ったらしげちゃんかいな!しげちゃんが"反復横跳び"するの珍しいやんか?」
しげちゃん「何回かやってんで。今日は確かに久しぶりやったけどな」
中年男「ほんでどやった?」
しげちゃん「ん?ああ、記録か?おかげさまで自己記録、更新しましたで!」
中年男「おおおお!すごいやんけ!どこまでいったん?」
しげちゃん「"な"」
中年男「"な"〜〜〜〜〜〜っ!!!!すごいな!わしなんか一年続けてまだ"く"までしか行けてないで!!!!なんやねん、しげちゃん、なかなか器用やねんなー。ほんで、しげちゃん、このあとどこ行くんや」
しげちゃん「あとはもう、腹筋して風呂入って帰るわ」
中年男「腹筋!?あれ、あんまおもんないで。まぁ、別にええけど。ほんならまた」
しげちゃん、背を向けながら手を挙げ、颯爽とハケる。
中年男、インストラクターに話しかける
中年男「先生!しげちゃんエラい記録出したみたいですな!わし悔しいさかいに今日は頑張るで!」
インストラクター「はいはい、頑張るのは結構ですが、体に無理のない範囲で楽しみながらやってくださいね。では今日はどうなさいますか」
インストラクター、辞書のようなものを中年男に差し出す。
中年男、辞書のようなものを繰りながら
中年男「ほんなら今日はこれにしますわ。『阪神タイガースに所属している、あるいは所属していた選手の名前』ええですか?」
インストラクター「はい、承知いたしました」
インストラクター、ポケットからストップウォッチのようなものを出す
インストラクター「はい、では準備オッケーです。いつでもどうぞ」
中年男、舞台中央前方で腰を落とし反復横跳びの準備をする
中年男「よっしゃ!ほな、いくで!『あ』赤星憲広!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『い』井川慶!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『う』梅野隆太郎!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『え』江夏豊!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『お』沖原佳典!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『か』金本知憲!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『き』衣笠祥雄!」→反復横跳び
ブッブー
インストラクター「はい、残念でしたー」
中年男「いやいやいやいや、あかんて!わかってたって!衣笠はカープ一筋やん!わかっててん!わかっててんけど金本の次やったさかい、鉄人鉄人でつい衣笠て言うてもうたんや、なんちゃうケアレスミスや。。。ごめん、先生、もう一回やらせて。こんなん悔しすぎるわ。もう一回!」
インストラクター「結構ですよ、では、また選んでいただけますか」
中年男、辞書のようなものを繰りながら
「よっしゃ!ほんなら次はこれにするわ。『咄嗟に出てしまう声』これでどや!」
インストラクター「はい、承知いたしました」
インストラクター、ポケットからストップウォッチのようなものを出す
インストラクター「はい、では準備オッケーです。いつでもどうぞ」
中年男、舞台中央前方で腰を落とし反復横跳びの準備をする
中年男「よっしゃ!ほな、いくで!『あ』熱っ!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『い』痛っ!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『う』嘘ん?」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『え』えげつなっ!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『お』遅っ!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『か』硬っ!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『き』衣笠っ!」→反復横跳び
ブッブー
インストラクター「はい、残念でしたー」
中年男「いやいやいやいや、言いますやん!道歩いてて前から衣笠歩いてきてたらビックリして『衣笠っ!』って声出ますやんか!嘘やん、なんであきませんの?いやいや、頼むわ。こうなったら『き』は衣笠でクリアしたいわ。せやし、『き』が衣笠になるやつでもう一回チャレンジさせて!頼むわ、先生!」
インストラクター「結構ですよ、では、また選んでいただけますか」
中年男、辞書のようなものを繰りながら
「よっしゃ!ほんなら次はこれにするわ。『広島カープに所属している、または所属していた選手の名前』これでどや!」
インストラクター「はい、承知いたしました」
インストラクター、ポケットからストップウォッチのようなものを出す
インストラクター「はい、では準備オッケーです。いつでもどうぞ」
中年男、舞台中央前方で腰を落とし反復横跳びの準備をする
中年男「よっしゃ!ほな、いくで!『あ』赤松真人!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『い』石原慶幸!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『う』宇草孔基!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『え』江藤智!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『お』大野豊!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『か』川口和久!」→反復横跳び
ピンポン
中年男「『き』北別府学!」→反復横跳び
「あ〜!違う違う!違うって!!」
ピンポン
インストラクター「はーい、オッケーでーす」
中年男「いやいやいやいや、衣笠やん!絶対衣笠やん!せやけど大野川口と続いたらもうそこは北別府やん!えー、、、。なんで?誰に怒りをぶつけたらええねん。。。えー、、、、」
インストラクター「まだ続いておりますので」
中年男「いや、せやけど、、、。続けるの?もうええんやけど、、、。まぁ、ええわ。ほんならいくで。。『く』?九里亜蓮」→だるそうに反復横跳び
ピンポン
中年男「そら正解やわ。九里ええピッチャーやで。せやけど『き』でなんで北別府て言うてしもたかなー、、、。ほんで『け』?『け』なんかおらんで。まぁ、ええわ。もう終わらしたろ。テキトーでええわ。ええか、行くで。『け』、建高橋」→だるそうに反復横跳び
ピンポン
中年男「ええ!?ピンポンなん!?名前と苗字逆にしてもええの!?よっしゃ!ほんならちょっと待っとけよ!行くで!『こ』やな!『こ』!浩二山本!」→機敏に反復横跳び
ピンポン
中年男「『さ』!祥雄衣笠!!!!!」→機敏に反復横跳び
ピンポン
中年男「よっしゃあ!!!!祥雄〜衣笠〜!!!祥雄〜!!!!衣笠〜!!!!うおおおおおおおおおお!!!!」
(了)
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