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十二支とボクら

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「十二支」「令和初期っぽい」「妖怪」をテーマに書いていきます。 どのお話を読むか迷った際は、メインストーリー「黒山家の秘密」をおすすめします。
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#酒呑童子

序章 ー零ー

序章 ー零ー

 靴音が響く度に、からくり人形である少女の足下の血溜まりが、小さく揺れる。
からくりの少女は笑みを浮かべ、ずるずると息も絶え絶えな術者の襟をつかんで引きずった。その術者の胸部からは血が流れていて、つんと鉄臭い。
「ねー、封印の間はこっチ-?」
 少女は引きずっている術者に声をかける。だが、術者はわずかに首を振り答えない。
「ねー、こたえテヨ-!」
「……ぐ」
 わざと傷に響くように、少女は背後の男

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猫又の記憶の断片 その1

猫又の記憶の断片 その1

 それは、とおいとおい、むかしむかしのお話。

 あるところに、それはそれは栄えた家から逃げ出した青年がおりました。

 青年は、本来その家の人間には相応しくない力を宿しておりました。

 彼はその身に宿した「妖力」を疎まれ、蔑まれ、彼の母は彼を産んだことを責められました。

 彼は成人する頃、自分はこの家を出ていくから、どうか母だけは許して欲しい、と父の前で泣きながら両手をつき、頭を床に擦り付け

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猫麻呂の記憶の断片 その2

猫麻呂の記憶の断片 その2

 酒呑童子の妖力。それはとてつもなく強大であり、邪悪でした。

 手頃な人間、もとい、封印の警備をしていた術者に乗り移った酒呑童子。

彼は、瑞雅(みずまさ)を小脇に抱えて歩き出します。

 術者の面影はすでに消え去り、額には立派な二本の角が生えておりました。

「おい、坊主」

 瑞雅を抱えた腕を振りながら、酒呑童子は低い声で唸るように言いました。

「……」

 瑞雅は、全てを諦めた表情で何も

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猫麻呂の記憶の断片 その3

猫麻呂の記憶の断片 その3

 酒呑童子が呪いを放ったその村は、ただ一人の少女を残して滅びました。
 辺りには、固く目を閉じた人々が放つ死の匂いが漂っております。
「ふむ。みな死んだか」
 酒呑童子は含み笑いをして辺りを見回します。瑞雅は、目の前の惨状に冷や汗をかき、ゴクリと唾を飲み込みました。
 村のいたるとこに死体、死体。背筋が凍るほどの惨状でした。
 けれど瑞雅はその中にいると、段々と気分が高揚してきます。
ああ、この者

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