withIBDCD|“クローン病”とは
高橋広野です.
入院生活3日目.これから自分に起こりうることを,改めて基礎から.
1.クローン病(Crohn’s Disease)とは
炎症性腸疾患のひとつ.(指定難病96)
(大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍をひきおこす原因不明の疾患の総称を炎症性腸疾患という.)
クローン病は主として若年者にみられ,口腔にはじまり肛門にいたるまでの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍(粘膜が欠損すること)が起こりえる.
主に小腸と大腸を中心として,特に小腸末端部が好発部位.非連続性の病変(病変と病変の間に正常部分が存在すること)を特徴とする.それらの病変により腹痛や下痢,血便,体重減少などが生じる.
原因は不明.なんらかの遺伝的な素因を背景として,食事や腸内細菌に対して腸に潜んでいるリンパ球などの免疫を担当する細胞が過剰に反応して病気の発症,増悪にいたると考えられている.
根治療法はまだ確立されておらず,慢性に寛解(寛容期)と再燃(活動期)を繰り返し,継続的な治療が必要となる.感染,遺伝する病気ではない.
2.症状
クローン病の症状は患者によりさまざま.侵される病変部位(小腸型,小腸・大腸型,大腸型)によっても異なるとされる.その中でも特徴的な症状は腹痛と下痢で,半数以上の患者さんでみられる.さらに発熱,下血,腹部腫瘤,体重減少,全身倦怠感,貧血などの症状もしばしば.またクローン病は 瘻孔,腸管の内側が狭くなる「狭窄」,膿瘍などの腸管の合併症や関節炎,虹彩炎,結節性紅斑,肛門部病変などの腸管外の合併症も多く,これらの有無により様々な症状を呈する.
3.治療法
【栄養療法・食事療法】
栄養状態の改善だけでなく,腸管の安静と食事からの刺激を取り除くことで腹痛や下痢などの症状の改善と消化管病変の改善が認められる.
栄養療法には経腸栄養と完全中心静脈栄養がある.
経腸栄養療法は,抗原性を示さないアミノ酸を主体として脂肪をほとんど含まない成分栄養剤と少量のタンパク質と脂肪含量がやや多い消化態栄養剤がある.完全中心静脈栄養は高度な狭窄がある場合,広範囲な小腸病変が存在する場合,経腸栄養療法を行えない場合などに用いられる.
病気の活動性や症状が落ち着いていれば,通常の食事が可能だが,食事による病態の悪化を避けることが最も重要.一般的には低脂肪・ 低残渣 の食事が奨められているが,個々の患者さんで病変部位や消化吸収機能が異なっているため,主治医や栄養士と相談しながら自分にあった食品を見つけていくことが必要.
【内科治療】
症状のある活動期には,主に5-アミノサリチル酸製薬(ペンタサやサラゾピリン),副腎皮質ステロイドや免疫調節薬(イムランなど)などの内服薬が用いられる.5-アミノサリチル酸製薬と免疫調節薬は,症状が改善しても, 再燃予防のために継続して投与が行われる.また,これらの治療が有効でない場合には,抗TNFα受容体拮抗薬(レミケードやヒュミラ)が使用される.薬物治療ではないが,血球成分除去療法が行われることもある.
【外科治療】
高度の狭窄や穿孔,膿瘍などの合併症に対しては外科治療が行われる.その際には腸管をできるだけ温存するために,小範囲の切除や狭窄形成術などが行われる.
【内視鏡的治療】
クローン病の合併症のうち,狭窄に対しては,内視鏡的に狭窄部を拡張する治療が行われることも.
4.将来的に
人工肛門.病状が重症化した場合,手術に伴い,人工肛門(ストーマ)の造設が必要となる場合がある.人工肛門(ストーマ)とは,肛門の代わりに腹部の一部に腸でつくった排出口のことで,ここから便が排泄される.つまり排泄経路が変更されることになる.腸をつなぎ合わせる部分である吻合部の縫合不全を避ける目的や,重度の直腸肛門病変,また大腸から肛門まで広範囲に切除する手術などで,ストーマをつくることが必要となる.
精神疾患.精神疾患を合併する率が高い.成人の潰瘍性大腸炎患者の27%,クローン病患者の31%という高い確率で,うつ病を有しているとの報告もある.治療を行っていても再燃・再発を繰り返す疾患であり,患者の生活や心理面への影響を及ぼす結果,心理社会的問題が生じる場合が少なくない.大量の薬の内服,薬の副作用による体や顔貌の変化,手術,食事制限へのストレス,仕事・学校など社会生活の営みの阻害,周囲の無理解,ストーマ,結婚,妊娠や出産についての不安など,自分の理想から離れてしまうことによる喪失感や日常的に抱えるストレスは計り知れないとされている.
以上,ざっとした「“クローン病”とは」でした.