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【詩】邂逅
「邂逅」
唐突な邂逅だった あの時は
四十年もの時を経て
僕は友と再会した
思えば彼は親友だった
それでもなぜかどうしてか
彼とは疎遠になっていた
喧嘩別れしたのでもない
流れる時間 ただそれだけが
僕と彼を隔ててしまった
同じ学校、同じクラスで
ただ楽しく遊び回り
野を駆け 山を駆け
ともに生きた仲間だった
毎日が 宝石のように 煌めいた
いつまでも 続くと信じた 日々だった
そんな僕たちだからこそ
もしまた巡り会えたなら
必ず喜び合えるだろう
残っているから あの気持ちが
けれども一体どうしたのか
彼の眼にも全身にも
あの頃感じたオーラがない
どうしてなんだ なぜなんだ
それを疑問に感じたから
僕は尋ねてみようと思った
けれども質問しようとして
も一度見えた彼の顔
そこには悲しい瞳あり
力なく光るその瞳には
野を駆け 山を駆け
二人なら怖いものなし僕たちは
そう思ったあの頃の気迫が
一欠片さえ残っていなかった
僕はすべてを悟ってしまった
「時」が彼を絶望させたことを
「時」が彼の源を奪ったことを
「時」が彼を僕の知らない
「誰か」に変えてしまったことを
なんとかしなきゃと思ったさ
だって僕の友達だもの
困っているのに 助け合えない
それのどこが友達だ
そう信じて
僕は今日まで生きてきた
ずっと信じたその思いは
今日のためにあるはずだった
今こそ思いを遂げるべきだ
そんなことを考えて
彼を助ける気でいたのに
僕にはそれができなかった
なぜだろう
彼の瞳を見ていると
溢れる言葉が引きちぎられ
僕も悲しくなっていく
そして何も言えなくなる
何か言わなきゃ
何とかしなきゃ
そう気負えば気負うほど
僕の言葉は枯れていった
届かなかっただろう
たとえ言葉を口にしても
彼はすべてを諦めていたから
瞳がすべてを語っていた
口許に
僅かな微笑み
浮かべながら
彼はその場を去っていった
できなかった
僕が彼を追うことは
動かなかったのだ
僕の足が
絶望という名の
鎖に縛られて
五日後
彼は
亡くなった
なぜか涙は流れなかった
わかっていたから
かもしれない
彼が自ら死ぬことが
彼は手紙を遺して逝き
そこにはこう記されていた
親愛なる友よ
僕らはかつて
無敵だった
どんな困難にも
どんな障害にも
打ち克てる自信があった
君がいたから
でもそれは若さゆえの驕りだったのか
今では自信がなくなった
君がいなかったから
あの日 君と別れた日
僕は誓った
自分の力で道を拓こう と
僕は君に甘えていた
でもわかっていた
ずっと一緒にはいられないことが
だから僕は考えた
君がいなくても
僕一人でも
生きていけるように
君から一度離れよう と
それが真実だ
この空白の四十年間の
友よ 許してくれ
君は思うだろう
僕を薄情な奴だと
なぜ独りで抱えこむんだ
頼ってくれよ と
そうさ
君が正しかった
やはり僕は
君がいないと
どうも生きていけないらしい
だが 僕の日々は壮絶だった
心の余裕が
なかったのだ
生活を維持するのに手一杯で
君の記憶は
日に日に薄れていった
気付いたときには
もう手遅れ
どうすることもできなかった
君もわかってくれたはずだ
この前の「会話」で
僕に希望が残されていないことを
君の眼を見ればわかる
あの頃から変わってないからね
僕は探していたんだ
「最期の場所」を
せっかくの幕引きだ
どうせなら風情を
大切にしたいじゃないか
だから僕はここを選んだ
幼き頃 君と過ごした
この場所を
この場所で果てるなら
僕も本望だ
そう思った
それに・・・それに
感じたんだ
ここへ来れば
君とまた
会えるかもしれない と
根拠は何もない
ただそう感じただけさ
でもその願いは叶った
思いが通じたのだろうか
君も望んでいたのだろうか
僕との再会を
僕の最後の願いが
叶うことを
四十年ぶりだったが
一目でわかったよ
君だ と
変わっていない
あの頃と同じ眼をしている
安心したよ
君が「死んではいない」ことが
わかったから
君はまだ生きられる
僕よりも強く
せっかくの再会に
言葉を交わせず去った僕を
どうか許してほしい
僕が既に限界だったのもあるけれど
声が出なかったんだ
嬉しくて
悲しくて
悔しくて
虚しくて
君と話せなかった
あらゆる感情が押し寄せ
僕の言葉を運び去ってしまった
そして君を見て悟った
もう嵐を乗り切る力が
僕に残されていないことを
頼ればいいと君は言うだろう
違うんだ
「頼る力」さえ
僕には残っていなかったんだ
これが正真正銘
最後の時だとわかった
もし君がいなければ
僕はここまで来れなかった
だからこの命は君のものだ
僕ではもう上手く使えないんだ
君あってこその命だったから
君なくば輝けない
もったいないから君にあげよう
この命を
君ならまだ使いこなせる
実はこの前 僕も感じたんだ
君が死のうとしていることを
けれど君は僕と違った
希望が残されていたんだ
何とかなるかもしれない と
僕がその希望になろう
君は僕をずっと支え
ずっと守ってくれた
今度は僕の番だ
君の影を追っていた僕が
君の支えとなろう
君の導きの星となろう
友よ 今までありがとう
君と過ごした時間は
僕の人生の半分にも満たないが
そのわずかな時間こそ
僕の唯一の煌めきだった
僕の生涯の宝だった
この宝さえあれば
僕は向こうでも
上手くやっていけるだろう
では
さらばだ
また会おう
手紙はここで終わっていた
なぜだろう
彼の訃報を聞いたとき
涙は決して流れなかった
でもいま手紙を読んでいると
止めどない涙が溢れてくる
今こそ悟ったのだ
最愛の友を失ってしまったことを
僕はもう生きられない
彼の後を追いかけよう
でもなぜか死ぬ気になれない
もう終わったはずだ
希望は打ち砕かれたはずだ
もう僕には何も残っていないはずだ
生きる気なんて微塵もないはずなのに
僕は死へと向かえない
なぜだろう
そうか わかった
宿ったのだ
彼の命が
この身に
言っていたものな
僕を支える と
僕の導きの星になる と
だから僕を死から遠ざけるのか
なるほどね
君らしいや
いいだろう
もう少し
生きてみよう
何を期待するのでも
何を享楽するのでも
ないけれど
拾ったこの命を
誰かのために使えるように
誰かに与えることができるように
もう少しこの世界に留まろう
また会えるさ
願いは通じる
今度は苦しみのない
本当の世界で
また会おう
無常なるこの世界は
仮象にすぎない
目指すべきは
永遠なる安らかな世界
そこに至るまで
僕らは何度も
巡り合うだろう
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