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【書籍紹介】『ビギナーズ・クラシックス日本の古典 竹取物語(全)』(角川ソフィア文庫)
今回紹介する本は角川ソフィア文庫の「ビギナーズ・クラシックス日本の古典」シリーズより『竹取物語』です。
『竹取物語』というと「かぐや姫の物語」として子どもの頃から親しまれ、また中学や高校の古典でも扱われるので、馴染み深い方も多いでしょう。そのため、このように考える方も多いのではないかと推察します。
「あー、あのかぐや姫ね?竹から生まれて、求婚者に難題ふっかけて結婚断って、最後は月からお迎えが来て昇天。もう中身知ってるし、改めて読むほどでも…」
と。
何を隠そう、私もそう考えていた一人でした。しかし、ご安心ください。物語の中身を知っていても、本作は楽しく読めます。
なんといっても、まずは全文が掲載されていること。これが大きいです。教科書や絵本に掲載されている『竹取物語』はあくまで抄訳。物語の全てを伝えているわけではない。ですが、教科書では省略されていたあの無理難題も、全文が載っている本作ではその詳細を知ることができます。
さらに、本作には現代語訳と原文が両方掲載されており、原文のリズムを感じながら、今の言葉で読むことができます。現代語訳しかない古典作品の文庫本もありますが、やはり古典は原文で読まないと味が出ませんからね、完全には。これはありがたい。
しかも、当時の時代背景や豆知識の解説もあり、物語をより深く楽しむことができます。特に、本作が「論理的な構成を持つ」ことや、「体制批判の書として読める」などの解説は、なるほどと思える内容でした。最古の物語と言われるだけあって、後の作品に及ぼした影響も大きかったようで、その影響についても解説で知ることができます。いやはや、恐れ入ります。
で、今回読み直してみると、中学時代に読んだ物語とは全く印象が違いました。いや、省略されていた内容を含めて読むと、こんなにも味わい深いものだったのかと、わたくし、感服いたしました。ってか最後は感極まって涙が出てきましたわ…。
天上界で罪を犯し、その償いとして地上に落とされたかぐや姫。じいさんばあさんに育てられ、美しく成長し、多くの求婚を受けますが、できもしない難題を突きつけ、その申し出をすべて断ってしまいます。最初はそんな求婚者の申し出を、あざ笑うかのような物腰だったかぐや姫も、最後帝が求婚する頃には心情の変化があったのか、和歌のやり取りをするようにをするようになりました。人間界の営みを観ること、それを通じて人の世の儚さ、切なさを感じ取り、地上の人間に情が移ったから…なのかもしれませんね。
そして最後、月からお迎えが来る場面。別れを惜しむじいさんに形見を残し、天の羽衣を着る前に、帝へ手紙を書きました。その手紙には歌が添えられており、そこには
いまはとて天の羽衣着る折ぞ君をあはれと思ひ出でける
(今はもうこれまでと思って、天の羽衣を着るのですが、この時になって、帝を心からお慕いする気持ちがしみじみとわいてきます。)
とありました。
いや、こんな和歌贈られたら泣くわww(T_T)
そして羽衣を着ると地上が惜しい気持ちがすっと無くなり、そのまま天界に帰ってしまう潔い展開(天界だけに)も、作者の力量を感じます。グダグダ引き伸ばさずに、綺麗に締める構成力の高さを見ました。
そして姫から手紙と、それから不死の薬を受け取った帝の行動も興味深いですね。「姫がいないこの世なら、不死になったところで仕方ない」との思いから、天に一番高い山に薬を持って行かせ、そこで薬を焼いてしまう。
こちらも潔いですね。解説では、蓬莱山に不死の薬を求めた秦の始皇帝との対比がされており、これも面白かったです。
帝は権威・権力の限界を知り、明日からはまた最高権力者としての道を歩み出す。権力では手に入らないものがあると知った今、帝が行う政治はどのように変わるのか…その先は書かれていませんが、想像力が膨らみますね。この物語は、様々な読み方ができるのが魅力。かぐや姫の成長、帝の成長、SF小説的展開、体制批判…お好きなように読めます。長く読まれてきた理由のひとつも、そこにあるのかもしれませんね。
ただ、最後にひとつだけいいですか?
「男さん、結局人は【顔】かよwww」
はい、そんなわけでざっくりですが『竹取物語』の紹介でございました。めちゃめちゃ面白い(語彙力どうした)…ゴホンゴホン…「いとおもしろき」作品なのは間違いないので、内容を知っている方も、この機会に読み直してみてはいかがでしょうか。ビギナーズ・クラシックスシリーズは解説が丁寧で読みやすく、他の本もどんどん読む予定です。今年は日本と中国の古典を強化していく予定なので、機会を見つけ次第、紹介しようと思います。
それでは、かかる記事を読み給ふ皆様に感謝奉ります。
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