低所得者のための読書術&衰退する紙書籍の復権を考える
0.はじめに
近年、書店が閉店するニュースをよく目にするようになった。小さな古本屋はもちろんだが、大型書店も例外ではない。札幌市の地下街にあった大型書店「紀伊国屋オーロラタウン店」も閉店してしまった。
書店の衰退原因は、インターネットや電子書籍の発達により、実店舗で紙の書籍を購入する必要性が薄れてきたためだと言われている。
もちろん、他にも原因はあるだろうが、やはりネット・電子書籍の影響は間違いなく存在するだろう。
本屋が減ることは、我々が本を買う場所もまた減っているということだ。しかも、最近は物価上昇もあるし、かつての消費税増税も重なって、本を買うことを躊躇せざるを得ない状況が続いている。筆者は書籍も生活必需品のひとつだと考えているので、せめて書籍にも軽減税率を適用してほしいと思っているが、実現はなかなか難しいだろう。もし、実現させるのであれば、
「書籍は国民にとって非常に重要な財産である」
という共通認識を作っていくことが必要だと思われる。
今回の記事では、こうした共通認識の形成や本屋の復権について考えていこうと思う。
1.図書館とブックオフ
(1)利点と欠点
筆者は資金節約のため、図書館やブックオフを利用することが多い。この2つは本を読みたい低所得者にとって救世主のような存在だが、ある程度規模のある市町村にしかない。図書館も全国の市町村に存在するわけではないのだ。また、ブックオフは郊外に店舗があることが多く、車を利用しない人にとってアクセスしづらいという側面もある。
それぞれの利点・欠点を挙げると、
・図書館
利点→無料で読める、百科事典や全集などの高価な本も読める 等
欠点→貸出期限がある、人気の本は貸出できないこともある 等
・ブックオフ
利点→新刊書店より安く買える(特に100円コーナーが優秀)、期限がないので返す必要がない 等
欠点→検索機がないので探しづらい、店によって品揃えにバラつきがある等
といった所だろうか。
また、ブックオフに関して言うと、買取基準が本の希少価値ではなく、状態によって判断されるため、「状態の悪いレア本」が買取の現場で廃棄されてしまうおそれがある。筆者はブックオフが好きだが、やはりこうした貴重な本が捨てられてしまう買取システムには問題があるとは思う。
そして、図書館に関しても、新刊書を貸し出すことで、「新刊の売行きが悪くなる」といった批判の声もあるという。
このように、図書館、ブックオフ共にいくつかの問題点を抱えてはいるが、低所得者が本を読もうとする場合、現実的にこの2つを避けることは難しいと思う。そのため、この2つをうまく活用できないか、考えてみたい。
ちなみに、筆者も最近は図書館の貸出期限がすぐやってくるのが鬱陶しくて、利用をやめようかと考えたが、結局やめられずにいる。やはり筆者の中では無料で大量に本が読めるというのは重要らしい。
(2)効果的な活用方法
図書館は一度に大量の本を借りることができるという特性を持つ。これはつまり、「興味がある分野の本を何冊も読める」ということである。特に、未知の分野に関する本が読みたいときに有効だ。というのも、未知の分野を読もうとするとき、最初はどの本を読めばいいかがわかりにくいからである。
図書館の場合、無料なので迷う必要はない。関連する本を上限まで借りて読めばいい。
しかし、図書館の本はあくまで借り物であって、自分のものではない。
実はこれが重要で、借り物の本から得た知識は定着しにくいのだ。これは本好きな方ならわかってくれると思うが、買った本と借りた本では内容の理解・記憶に差がないだろうか。これは、買った本が本棚に置かれることで、本棚が記憶の外付け装置としての機能を果たし、記憶を定着させてくれるためだと言われている。
つまり、まず図書館で読みたいジャンルの本とそれに関連する本を借りて読み、その中で重要だと感じた本を買って読む、というのが効果的な使い方だと考えられる。買うべき本とそうでない本が振り分けられ、結果として資金の節約になるはずだ。
これはブックオフと新刊書店との関係においても同様だ。
ブックオフは新刊書店に比べて安いため、大量の本を購入できる。その代わり、自分が探している本を見つけられる可能性は低い。だから、ブックオフは興味を広げるために様々な本を読むのに適している。
これに対し、新刊書店は目当ての本を探しやすいので、自分が既に興味を持っている分野の理解を深めるのに役立つ。
よって、
1.図書館で興味のある分野を探して読む
2.さほど興味はないが、安いなら買って読んでみたい本をブックオフで買う
3.現在の自分にとって最も必要な本を厳選して買う
というプロセスを作ることができる。
筆者はジュンク堂書店や紀伊國屋書店、コーチャンフォーなどの大型書店に行くと、興味のある本が多すぎて、結局何も買わずに店を出る、ということがしばしばある。これは、事前に興味のある分野を絞っていないため、買うべき本を定めることができなかったためだと考えられる。筆者は大型書店よりもブックオフ歴の方が長いせいか、まだ大型書店を使いこなせていないようだ。これについては、やはり練習と慣れが必要なのだろう。「汝自身を知れ」という格言はどうやらここでも生きてくるらしい。
大型書店に行っても何を買えば良いかわからず迷っていた方は、ひとつの参考にしてほしい。
筆者のような低所得者にとって、書籍の購入は痛い出費になりつつある。
だが、書籍を全く購入しないことは、別の意味で痛手になるかもしれないのだ。
2.新刊書店の復権について
(1)イベントによる差別化
さて、図書館とブックオフの特徴とその活用法については上述した通りだが、やはり新刊書店の復権についても一考を加えなければならない。電子書籍の発達によって実店舗が衰退したとはいえ、それでもまだ書籍の花形というか王道は大型書店だと思う。圧倒的な品揃えや落ち着いた雰囲気はやはり魅力的だ。特に、中小商店では取り扱いが少ない岩波文庫や光文社古典新訳文庫、中公クラシックスなどを扱っているのがありがたい。
また、筆者のようなアナログ人間にとっては電子書籍はどうも肌に合わないので、紙の書籍の地位向上・復権はぜひ実現したいところだ。
とはいえ、書籍を単なる情報ツールとして捉えるなら、紙媒体か電子媒体かの違いは殆どない。記載されている内容は同じだからだ。そのため、紙媒体の書籍、そしてそれを多く揃える実店舗を支えるためには、「紙の本や実店舗でしかできないこと」を打ち出し、電子書籍やネット通販と差別化を図っていくことが必要なのは、おそらく論をまたないであろう。
具体案としては、
・読書会、著者交流会、ビブリオバトルの開催
・読書感想文コンクールの実施
・小説読解講座、文章作成講座の開催
などが考えられる。
中には実店舗で行う、というより市民のサークル活動で行われそうなものもあるが、こうした実店舗ならではのイベントで読書人口の増加などを図りたいところだ。
あるいは、ネットにはネットを、ということでブログ、SNSなどで書籍の解説、考察、感想を紹介するのも良いだろう。こちらは個人でもすぐに行うことができる。このまま黙っていれば紙の書籍の未来は危ういかもしれない。
個人でもできそうなことを考えて実行していくことは大切だと思う。
(2)Youtube(動画)時代に対するアンチテーゼとしての「活字」
Youtuberという言葉もだいぶ世に浸透してきた気がする。言うまでもなく、Youtubeに動画を投稿する者のことだ。中には興味深い検証や役立つ知識、過去の貴重な映像資料など、実用的な動画も数多く存在する。面白い企画動画もあり、新たな娯楽としても機能している。
一方で、再生数稼ぎのための不適切な動画が投稿されることもある。あるいは不適切とまで言わないまでも、投稿者があまりに自分勝手で狭量な意見をまくし立てることもあり、問題となっている。
私が恐ろしいと感じるのは、こうした動画に対して批判・疑問の声がコメントとして寄せられても。投稿者が人気だとそうした声を封殺する視聴者がいることだ。コメントの削除はもちろん、批判・疑問コメントを袋叩きにする、という光景がしばしば発生する。
インターネット上では各人が匿名かつ顔が見えない状態で発言するので、相手の気持ちを推し量ることが難しく、発言が攻撃的になりがちである。もちろん、発言者のモラルに拠るところが大きいのは言うまでもないが、インターネットはそもそも攻撃的・排他的になりやすい仮想空間なのだ。
こうした事態を防ぐためには、物事をしっかりと熟考する姿勢が欠かせないわけだが、その方法のひとつとして「活字」を読むことが挙げられる。文章を読み、その意味や筆者の意図を考察することで、冷静な分析力が育つ。特に小説は、読者の想像に拠るところがかなり大きく、想像力を育てるのに適している。もちろんこれは電子書籍でも可能だが、字が大きく、自由にページをめくって戻ったり先に進んだりできる紙の書籍の方がより深く考察できるのではないか。いずれにせよ、活字を読んで考えた結果として、攻撃的な発言をすることは減っていくだろうし、攻撃的な発言が気になることも少なくなってくるだろう。
Youtubeのニュース動画のコメント欄を見ればわかるが、何の論理性もなくただ感情的な意見を書き込み、それに噛み付いて罵り合うというのが日常茶飯事のように繰り返されている。そうならないために、冷静な思考力が必要だし、そのために活字を読むことは大切だと思われる。
ちなみに付言しておくと、誹謗中傷がよくないのは当然だが、情報発信者もそうした攻撃的発言が来ないように配慮する道義的責任がある。ブログのような文章でも、動画のような口頭説明でもそうなのだが、謙虚な姿勢や多角的な視点を交えることは非常に重要で、自らの発言に傲慢さがないかどうかは入念に吟味しなければならない。ポイントは、自分の好きなもの、専門分野を持ち上げすぎない、ということだ。
たとえば、私は現在北海道に住んでいる。だから、無意識のうちに北海道を必要以上に持ち上げてしまう可能性がある。そのため、北海道に関する記事を書く場合、北海道の良いところだけでなく、問題点もしっかりと挙げなければならない(そうしないと記事の信用性が低くなる)。もちろん、他県民に対してマウントを取るなど言語道断だ。そうならないためには多角的な考えを提示し、自分はこのように考えた、ということを相手にしっかりと明示しなければならない。だから、謙譲の徳を発揮して、「自分の好きなもの」をゴリ押しするのは避け、相手を立てるぐらいの姿勢が望ましいだろう。
愚者は自分の好きなものこそ第一と考え、それ以外の者から怒りを買う。
賢者は自分の好きなものを、数ある選択肢のひとつにすぎないと考えて様々な比較検討の中で相対化する。そのため、必要以上に他者から怒りを買うことはない。
どちらが賢明かは一目瞭然だろう。
「火のないところに煙は立たない」のだ。
3.おわりに
さて、色々書いてきましたが、紙の書籍が復権するには結構な根気と努力が必要になりそうです。大きな時代の流れに個人で抗うのは無意味に思えるかもしれません。しかし、私は本を愛する一読者として、これからもたくさんの本を読みたいと考えていますし、色々な本屋を訪れてみたいです。そのためには、紙の書籍の価値を再評価し、それを発信して広めていくことが大切なのではないか、と思います。
それでは、
ご精読ありがとうございました。