【図書館の勉強会】 ピクサー流 創造するちから(小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法)
……人々の願望が創り出した町、加美原町。
この町の住人は発想を広げることが好きだ。
今日も「これから」を考える一日が始まる。
◆ この町の「図書館」では、勉強会が開催される
本は読むものではなく、使うもの。
それがこの町の共通認識だ。
初めて訪れた人は少し戸惑う。
図書館は、本を静かに読む場所じゃない。
活発な対話や勉強会をするための場所だ。
アウトプット、言語化、表現。
この町では「わかりやすく話す人」ほど評価される。
今日は一冊の本について、住人たちが読書会を開催していた……
(最短まとめ)
・「創造」は優れた天才やアイデアから生まれるものではない
・チーム作り、不確実性への理解、アイデアの育て方を学ぼう
・プロセスもクオリティも大事、一流はバランスも大切にする
◆ 創造性はどこから生まれる? −創造を阻むものたち
「アイデアって、時間をかければいいわけでもないしなあ」
「天才的な才能を持った奴がたまに現れると勝てませんね」
「たまたまヒットしたアイデアが勝つ、みたいなイメージですね」
この日のテーマは「創造性」、みんなで机を囲んで意見を交わしていた。
「そうですね。創造って、一般的には偶然に左右されると思われがちです」
みんなの意見を引き出しながら司会と解説をしているのは、コンサルタントの遠野さんだ。
「遠野さんが『一般的にっていう時は、だいたいそうじゃないでしょ?」
「さすが今井さん。こういうラフな雰囲気こそ大切なんです」
読書会常連の人ほど、軽快なやりとりが楽しい。
「思い込みに惑わされないためにも、まずは内容を読んでみましょう」
さらっとアイスブレイクを終えると、遠野さんは資料を配って解説を始めた。
◆ まずは「不確実性」を理解することから始めよう
「確かに、創造は不確実です。この事実をまず理解して受け入れましょう」
・創造は、予測できない
・創造は、失敗を伴う
・創造は、常に変化する
「そうそう、失敗が怖いんですよ」
「つい過去の経験で考えてしまって」
「この前、事業でまさに急展開がありました」
遠野さんが解説して、受講生がシェアする。
読書会はこの繰り返しでいつも盛り上がる。
経験談と結びつけて考えることで、知識はスーッと頭に染み込んでいく。
遠野さんはみんなの意見が出た様子を確認して、次の話題に移った。
「では、それでも創造性を運任せにしないためには、どうすればいいと思いますか?」
予測できないとわかっているのに、あえて予測する?
矛盾をはらんだ問いに、今度はざわついた雰囲気が落ち着いた。
みんなの注意を引いて、次に意識を向けるための、遠野さんの策略だ。
遠野さんはホワイトボードにゆっくり文字を書くと、解説を加えた。
「小さく始めて、拡大する……創造には、『相似性』があるんです」
みんなの頭の中には「?」が浮かんでいる。
遠野さんはニヤッとした。
「『相似』とは、同じ形で違う大きさのものを表します。さあ、これを創造に当てはめると?」
少しの沈黙の後、ひらめいた森さんがおそるおそる発言した。
「……小さく始めてうまくいけば、大きく広げてもうまくいきやすい?」
「おおー!」という感嘆の声とともに、会場から拍手が湧いた。
これだから、何かがわかった瞬間の高揚感はやめられない。
◆ 最初から優れたアイデアは存在しない
みんなの興奮がおさまるのを待って、遠野さんは話題を次へ進めた。
「アイデアは、最初から良いものではなくていいんです。」
ホワイトボードには、ヘタクソな赤ちゃんの絵が描かれていった。
・アイデアを良くするのは、醜い赤ん坊を育てるようなもの
・アイデアは、野獣を飼いならすように、意見をぶつけあって磨くもの
「アイデアの赤ちゃんは醜いし、意見の野獣は厳しい。最初が一番大変なんです」
遠野さんはいくつか事例を紹介すると、みんなに意見交換を促した。
「アイデアと実行について困った経験を、隣の人と共有してみてください」
みんな似たような経験があるからか、この時間は至るところで共感の笑いが起きた。
「うわー、俺もあったあった!」
「こんな恥ずかしい失敗、私だけなんじゃないかと」
「あの時は名案だと思ったのに」
実体験を安心して共有できる環境は、誰にとっても居心地が良い。
シェアの時間が終わると、遠野さんは最後のまとめに入った。
「創造のメカニズムは、みんなで共有しておくことが大切です」
◆ チームの「文化」をつくろう
「不確実なことに挑戦する時ほど、まわりの人との理解や協力が必要です」
一人では行き詰まりやすいことも、力を合わせれば乗り越えやすくなる。
遠野さんはこれからへの重点として、「チームづくり」を強調した。
・チームとは、一つの目標に向かって進む「共同体」なんです
・人と一緒に何かを生み出すには、「ルール」をつくりましょう
・チームには、必ず「矛盾」が出てきます
・「力学」を理解して、バランスを取ることを覚えてください
「みんなで共通認識を持っておけば、余計な衝突や誤解を防ぐことができます。みんなでこの町を、創造性あふれる場所にしていきましょう」
熱く訴えかけて遠野さんは読書会を締めくくった。
会場は拍手に包まれ、興奮はしばらく落ち着きそうになかった。
「最後に隣の人にお礼を述べてください。アンケートへのご協力をお願いします。それと、この本は時期や人で響くポイントが違ってくるので、ぜひ何度も読み返してみてください」
遠野さんのあいさつとともに、今日の読書会は終わりを迎えた。
「もっと失敗に寛容になれたらと思いました」
「アイデアを赤ちゃんと思えば、可愛く育てられそうな気がします」
「今日の読書会そのものが、チーム作りの手本に見えました」
アンケートからも、参加者の熱気が伝わってくるようだった。
こうして今日も、加美原町には新しい知恵と絆が刻まれていく。
「俺の赤ちゃんは、次はどう育っていくかなあ」
遠野さんはアンケートと進行メモを見返しながらつぶやくと、本を元の棚に戻した。
(To be continued…)
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