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死者の言葉を聴く最後の手段/知念実希人「傷痕のメッセージ」

可能な限りの情報をご遺体から読み取り、そしてその方が遺した想いを感じ取る。その方の最期の声を、全身全霊をもって掬い上げる。それが私にとっての病理解剖です。

「傷痕のメッセージ」は、知念実希人さんの病理学がテーマの小説です。

知念実希人さんといえば、医療小説を数多く出版する作家さんであり、現役のお医者さんでもあります。「ムゲンのi」や「ひとつむぎの手」は、本屋大賞にもノミネートされました。

本作の主人公は、外科から病理診断科に出向している千早という女医です。彼女の指導医は、同級生だった病理医の紫織。外科と比べると遥かにのんびりした雰囲気の病理診断科に、千早はやや退屈な日々を送っていました。そんなある日、千早の父親が癌で亡くなります。ショックを受ける千早のもとにやって来たのは、父が生前、遺言を預けていた弁護士でした。父の遺言、それは、「死んだらすぐに遺体を解剖してほしい」というもので……。
28年前の大事件と今が交錯する、病理学ミステリーです。

この本はこんな人におすすめ

①重厚な医療小説が読みたい
②思いもよらない展開にドキドキしたい
③女同志の熱い友情を描く小説を読みたい

それでは、この作品の魅力を紹介していきたいと思います、ぴょん!

*知念実希人さんにしか書けない医療小説

本作は病理学テーマにしている作品です。「病理学」とは、病気の原因や病気のメカニズムを解明したり、病気の診断を下すための学問です。知念実希人さんは現役の医師でもあるので、病理解剖のシーンなどは非常にリアルに描かれています。

また、専門用語などは、噛み砕いて説明されているので読みやすく、理解もしやすいです。作品全体には重厚な雰囲気が漂っていますが、ただ重く終わらないところは流石、知念実希人さんだと思いました。

*凝縮されたミステリー

私は本作を、何の予備知識もなく読んだのですが、「まっさらな状態で読んで正解だった」と思いました。なので、あらすじも紹介するのは触りだけにしました。

二転三転する真相と、徐々に不穏さを増していくストーリー、そして最後には、驚くべき展開が待っています。ちなみにこうさぎは、「ぴょーん!」と叫んで1メートルほど跳び上がりました。恐らく、今年読了した約70冊の本の中でも、トップを争う驚きでした。あの天地がひっくり返るような衝撃を、是非味わっていただきたいです。

もちろん、ミステリーだけでなく、千早と紫織の関係性、友情にも注目です。この二人を主人公に、また新たな物語を書いていただきたい! と思ってしまいました。

個人的に、本作は一気読みを推奨します。精巧に練られた医療ミステリーの世界に、是非浸ってみて下さい、ぴょん!


(2021年5月22日にはてなブログで公開した記事を、一部加筆修正しました。)

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