夕暮れと花

朝なんて来なければいいのに…

夜になると死にたさが増す。

金曜の夜…終わりの見えない仕事に追われ、それでも「これが終われば休みなんだ」と呪文のように自分に言い聞かせて踏ん張る。

何度泣きそうになっただろう。。フラフラな足取り、視界も眩む中駅のホームを歩く。いつもの定位置に足を向けるも上手く歩けない。

おぼつかない足取りと分かっていながら、ただひたすらに黄色の線の上を今日も歩く。

かすかに電車の音が後部から聴こえて「もし、もし此処で足がもつれて転ぶことがあれば…」。回らない頭が少しの期待と、少しの恐怖のせめぎ合いを見せていた。

そして今日も私は生きている。


電車はこんな時間なのに混んでいて、お酒の匂いをさせたサラリーマンがワイワイ話し込んでいた。

気持ち悪い。お酒の匂いも他人の声も、立っているのが辛くて座り込んでしまいたかった。でもそれができないのはほんの少しのプライドがまだ私に残っていたから。

私だって本当はお酒を飲みたかった。金曜ロードショーは私の見たかった映画だったし、それを糧に生きていた部分もあった。でも会社の時計が20時半を回ったころには「あぁもう間に合わない」ってわかっていたし、それでも「22時までに間に合えばまだ楽しめる」って一縷の望みは捨ててなかった。

自分の部屋についた頃には、時計の針は既にてっぺんを越えていて、何もする気が起きなかった。

私の感情はとうに擦り切れてしまっていたのだ。

笑えない。泣きたいのに泣けない。突然叫びたくなる。胸が苦しい。呼吸ができない。私の中の卵が真っ黒に染まっていく。誰か助けて…


気が付くと朝になっていた。

疲れ果てて床で眠ってしまっていたのだ。化粧を落とし忘れたせいで左目に軽いものもらいができていた。

起き上がれない。身体が言う事を訊かない。全てが嫌になる。寝たら目が覚めなければいいのに…


「死にたい」

「シニタイ」

「しにたい」

でも「死ねない…」


痛いのはイヤ。苦しいのもイヤ。

「消えたい」「生きるのが辛い」

死ぬのが怖いわけじゃないの。苦しむのが怖いの。「痛くない」死に方があるのなら「苦しくない」死に方があるのなら、私はいつだってこの命を絶つことができる。


「生きるために働く」のか「働くために生きている」のか…

私は何の為に生きているのだろう…

未来に不安が無ければ仕事を辞めたい。でも生きていくのにお金が必要で、今辞めて生きていけるお金があるのかと…そればかりが頭をかすめる…


土曜の朝。天気はすこぶる良くて、この滅入った気持ちには少なからずありがたかった。雨じゃなくて良かったと心の中で思った。

平日に手つかずだった洗濯を干したい。

気分転換に買い物にだって行きたい。

頑張ったから美味しいものだって食べたい。

「やらなきゃ、やらなきゃ」と思っていたことがずるずると後ろ倒しになっていき、「平日にはもう無理だから」と諦めて。「休みの日に頑張ろう」なんて思いは確かに有ったし、今もある。

でも体が動かない。起き上がることができない。

もう少しだけと目をつむれば何時間だって寝れる気がする。

でも今起きないとまた夕方には後悔で押しつぶされそうになる。

私の心と体なのに、まるで他人のものと錯覚する。


HPもMPも0。からっけつ。なんとか死ぬ気で起き上がれば、目を覚ました時から裕に1時間は過ぎていた。

入り損ねたお風呂に湯を張る間、何とか洗濯機を回すまで熟せた。

湯が張り終わるまで残り10分。座れば立ち上がれない事は分かっていた。

立つのにも起き上がるのにも、気力も体力も使うという事は痛いほど身に染みているから。

それで何度となくお風呂に入り損ねているから。


お風呂じゃなくてシャワーにすればいいと本当に想うし、実際そうしてきた過去もある。

でも今の私に先生は「湯銭にゆっくりつかった方がいい」と言ったのだ。

実際私もシャワーより湯銭派ではあったのだが、「やりたいこと」と「やれること」の差があまりにも大きくて心が砕けそうになる。


昨晩何も食べていない…「とりあえず」とお菓子に手を伸ばした。

お腹は正直空いていない。でもお菓子なら食べれる気がする。そして食べているうちは「大丈夫」だってわかっていた。

丁度食べ終わったころ、お風呂のアラームが鳴った。「良かった」と思った。


昔からお風呂は好きだし、時間さえあれば一日中お風呂で過ごしたいと思えるほど私にとってお風呂は癒しの場所だ。

だけど今は違う。一度入ったら、湯銭につかったら立ち上がれないのだ。

時間だけが過ぎていく。等の昔に洗濯は終わって、この天気の良い空の元に干さなくてはと脳はわかっているのだが体が付いて行かない。

ボーっと時間だけが過ぎていく…


やっとお風呂からはい出たころには時計は15時を回っていた。

買い物も行く予定だった。でも大丈夫。明日はまだ休み。もうすぐ夕暮れ時、日が暮れる前に何とか外へ出れた。

夜は好きだった。一番好きな時間帯だった。でも今は違う。夜になると怖くなる。心がざわざわして叫びたい衝動が増すのだ。

だから青空がまだ残っている時間帯に外に出れたのは本当に大きかった。


買い物をするのは楽しいけれど

スーパーに到着する頃には気分が少し上がっていて、「晩御飯は何を作ろうか」とウキウキしている自分がいた。料理を作るのは好きだから、余計に。さっきの自分が嘘のようだと思える。

勿論甘いものもデザートとしてカゴにいれるのを忘れない。

買い物を終えて外に出るころには日がどっぷり暮れていて、それでも美味しいものが食べれる喜びと、今日と言う日が土曜だという喜びとで、体はなんとかいうことを聞く。


ご飯を食べるのはいつも遅い時間。だからまだ夕食の準備を始めるのには早いだろう…

その時はそう思っていた。

でもそれが間違いだった。


時計は21時。買い出しから3時間経っていた。

20時の時点で一度気持ちを入れた。でもできなかった。20時半の時点でも「よし作ろう」そう思ってはいた。そしてもう21時だ。

無理だ…

頭が回らない。台所に行けない。台所のあの空間が怖い。


「今日はもう止めて明日作ろう」そう決めた。

晩御飯は買ってきたサラダと、お酒のおつまみ。

お腹は空いてないからそれだけで十分だった。


日曜日が来る…

土曜の夜は少し心が晴れる唯一の日。でも夜寝るのが怖い。

寝て目が覚めればもう日曜日なのだ。

日曜日には何もやる気が起きない。

疲れたくない。この後訪れる月曜からの一週間の事を考えてしまって、、何も手につかない。見たかったドラマもアニメも見始めたところで集中なんてできないし、せっかくの休みが融けるように消えていくのだ。

一日何をしていたのかなんて覚えていない。

癒しを求めてたまっていたアニメやドラマを見た気はする。でも内容が想いだせない。

ご飯を作る予定だった。

でもまた作れなかった。初めて同じ状況になったとき、無理して台所に立ったことがある。あの時は自分の身体の変化を理解していなく包丁なんて握るべきではなかったと後から気づいた。

そのこともあってか、余計に台所には立てなかった。

人は食べなくても数日は生きれるという…それってどれくらい大丈夫なんだろう…食べるのがめんどくさい。

もとから1食しか食べていないから夜食べない選択…


ご飯はいつの間にかカップラーメンが主食となっていた…


寝れば月曜日と言う恐怖

唯一、夜にやるスマホゲームが私の生きる糧になっていたのに、今ではそれすらできなくなった。

ゲームを立ち上げてスタートボタンを押してみても、どうも集中できなくて、操作も上手くはいかない。リスタートのボタンを押したくても指が動かない。

スタート画面でとどまっていればフレンドさんが申請して来てくれるのに、それに応えることができない。楽しくおしゃべりする気力がない。体調が良くて調子にのって喋れば、解散した後は放心状態になって、何故か泣きそうになる。精神を削ってまで喋ることができなくなった。


寝なきゃいけない時間が訪れた。ご飯食べた後に流れでお風呂にも入るように休みの日はしていた。

だからもう寝るだけ。それだけなのに、寝たら明日が来てしまう恐怖に苛まれる。月曜が来るのが怖い…。寝なきゃ自分が辛くなるのは分かっている。

でも布団には入らずに床で横になる。1時間…2時間…時間が過ぎていく。こんなことなら布団に入ってちゃんと寝ればよかったと深夜3時過ぎてようやく重い体を動かす。いつもこの繰り返し…

布団に入ると尚恐怖が私を襲う。微かな物音ですら過敏に反応してしまう。

スマホにイヤホンを差し、音楽をかける。胸が痛い。泣きそうになる。


朝は必ずやってくる…生きている限り

目覚ましを止める。起きれない。また目覚ましが鳴る。起きれない。それを何十回と繰り返してやっと重たい身体を起こす。

いきたくない…

死にたい…

どうせ私が仕事に行かなくても世界はかわらない…

責任感や自分のプライドとの葛藤が何度となく頭を押し寄せる。

「ここで行かなかったら負け癖がつく」

ただそれだけの理由で自分をふるい立たせる。


また死にたい1日が始まる…



星神侑兎

HSP気質な私に少しだけ救いの手を…。サーポートにより私に生きてる意味を頂けましたら幸いです。