“普通”を問い直す、童話のような転生譚/今村夏子「木になった亜沙」
誰も私の手から食べてくれない。
そんな悩みを抱える少女が、木に転生した。
本作は、表題作「木になった亜沙」の他、「的になった七未」「ある夜の思い出」の三編からなる、不思議で奇妙でダークな短編集です。
表題作は、自分の手から誰も物を食べてくれない、という少女・亜沙が杉の木に転生する物語です。亜沙はやがて割り箸になって若者と出会います。
私は独特の世界観が癖になり、一気に読み進んでしまいました。ダークな雰囲気と奇妙で不思議な展開から目が離せません。
この本の著者の今村夏子さんは、「むらさきのスカートの女」で芥川賞を受賞した作家さんです。「星の子」は映画化もされました。
この本はこんな人におすすめ
①童話のようなダークな世界観が好きな人
②さらさら読めて考えさせられる小説を読みたい人
③癖になるシュールな小説が好きな人
それでは、この小説の魅力を紹介していきたいと思います、ぴょん!
*常識ではあり得ない設定
収録されている三編は、どれも常識ではあり得ないような設定です。
しかし、そんな奇妙な設定には、「なさそうだけれど、もしあってもおかしくないかもしれない」と思わせるようなリアリティーがあるように感じました。
「木になった亜沙」を読んでからは、街路樹や公園の桜を見ると、「もしかして、人間から転生したのかも?」なんて考えてしまう自分がいます。また、割り箸でコンビニのお弁当を食べるとき、亜沙のことが脳裏をよぎることもしばしばです。
ふとした時に思い出してしまうほど、このストーリーは強く印象に残ります。
*童話のような世界観
童話と聞くと、どんな印象をもつでしょうか?子供が読むもの、本当は怖いものが多い、そんな印象があるのではないでしょうか。この小説は、まさに童話のような世界観です。
淡々と語られていく物語は読みやすく、小学校高学年から中学生くらいでも、さらりと読めると思います。また、そのストーリーは奇妙で、不気味ですらありますが、どこか幻想的です。転生というやや宗教的なテーマも相まって、神秘的な雰囲気でもあります。
ページをめくるたびにその独特な世界に引き込まれ、こうさぎ、読後しばらくは物語と現実の狭間をさまよっているかのような放心状態になりました。
芥川賞受賞作の「むらさきのスカートの女」や、映画化された「星の子」とは全く違う形で、「普通」からずれた人々を描いた本作。
個人的に、これら3作に共通するのは、「ハッピーエンドかバッドエンドかの判断は、読者に委ねられること」だと思います。
是非、自分はどう解釈するか、どう考察するかを考えてみて下さい。きっと、あなたにとって忘れられない一冊になるはずです、ぴょん!
(2021年4月4日にはてなブログで公開した記事を、一部加筆修正しました。)
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