「流れる星をつかまえに」 吉川トリコ著 ポプラ社
日常の暮らしの中で抱える劣等感や違和感、怖れやいら立ちなどを描いた短編連作集である。
大きな事件が起きるわけではないが、自分自身がかかえる「あるもの」が影を落として、悩んだり、行動に出たりする人たちを描いている。
軸となるのは「プロム」という欧米でハイスクール卒業時に行われるダンスパーティーをめぐって、それを自校で開催しようとする高校生の周囲の人物模様。
プロムのことを知らなくても読める(私もこれを読むまでまったく知らなかった)
短編6つからなり
平凡な日常から脱却しようとドラゴンズの「ママチア!」に申し込むことを決めた主婦は、パート仲間などを募ってチアダンスチームを作る話
16歳になる直前まで自分が在日コリアンだったことを知らず、母親に突然その事実を告げられると同時に、そのことを隠せと強要された姉妹の話(姉のストーリーと妹のストーリの2編)
映画好きな高校生が偶然親しくなった同級生が気になってゆき、自分がゲイであることを自覚せざるを得ない戸惑いの話
流産を繰り返した末に出産できない身体であることを知った主婦(養子を迎えたが周囲はその子が養子であることを知らない)が子宮筋腫により子宮摘出手術のために入院した病院であれこれ思う話
卒業式にプロムをやることを計画する女子高生の奮闘記
プロムをやることを計画する女子高生は、「ふつう」を雑に扱うことが許せず、「ひとりひとりちがっていて、まったく同じでぴったり重なるふつうなんてどこにもない」と考え、プロムを開催することにまい進する。
その周囲の、忖度しながら生きてきた人々の内心の葛藤が軽いタッチで描かれていて、本作全体が「ふつう」という仮面の下で、ひとりひとりの内面は多様なのだと感じさせる本だった。
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