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化学工場肝臓

 最近、眠剤の効きが早くなって遅くまで効く。肝機能弱ってきたか?
 何事も落ちる時は、幾何級数的にガクッと来るらしい。自然の法則。数学で近似できるらしい。
 しかしながら、臓器の中でも再生力がもっとも高いのが肝臓だ。プロメテウスの神話にあるとおり、健康ならば半分になってもまだ再生する。
 歳をとり、或いは肝炎ウイルス感染するとその限りではないらしい。私の父もそれで落命した。HCCで10年間だった。私もNASHがあり半年に一度の肝機能検査だ。静脈血とられている。
 肝臓は沈黙の臓器とも呼ばれる。気づいたら手遅れのこともあると言う。父の目に見える症状は高アンモニア血症で意識がもうろうとなるものだった。私の物心ついた時には、職場のストレス発散や付き合いで泥酔して帰ってくることが少なくなかった。性格というより、日常的に意識がクリアな時が少なかった。山に登り山荘に着くなり飲み水を捨てる奇行もあった。
 肝臓はアンモニアも分解して、栄養素も蓄える「化学工場」だ。3ヶ月毎に入退院を繰り返してきた父から聞いたがある時、担当の看護師から「このおにぎり二個は必ず食べ切ってください」とお昼を出された。おにぎり二個が精一杯のエネルギー源だった。
 そういえば私は父とまともなコミュニケーションを取れなかった。文字通りの酔生夢死につきあわざるを得なかった。亡き父を荼毘に付す日、私が献杯の音頭をとることになった。そのあと遺影にお酒を供えたあとの妹がこう言っていた。
「お父さん、10年ぶりのお酒だよ。」
 私は父に対して困惑しかなかった。妹は束縛されていない方だったんだな、そのとき私が意外に思った理由があるとすればそれしかなかった。
 それまでのあいだに妹の結婚、私の統合失調症罹患と、私自身の適齢期を逃したのもあった。家族の一人が致死的な病気をするとこういう結末になる。
 今日の書き納めにまとめてみると、擬人化すると病魔によって周りの人生は狂っていく。同業者だった父を後ろだてにしていた自分もまた仕事を変えざるを得ないところまで追い詰められた。その辺りのことはいずれ、ここでいきさつを追々明らかにしたい。

2024/02/27 ここまで

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