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武器を持とう、という話

お金がないと散々宣っておきながら、高いレンズを買った。
Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2 Aspherical
名前は長いが、物は小さい。近所(60km先)のキタムラに入荷してると友達から聞き、3日ほど悩んだ挙げ句買った。
一本で良いから”勝負”出来るレンズが欲しかった。ここぞ、という時に持ち出すレンズ。ウルトロンかノクトンかずっと考えていたけれど、これも巡り合せだ。
イメージとしては研ぎ澄まされたナイフだ。「最新・高価」という相手に基本スペックでは敵わないが条件さえ揃えば”刺せる”、そんなレンズ。
AF機能を捨て画質に全振りしながらも、小型。小さくて軽くて画質も良い。最高じゃないか。
時計とかCDとか、カメラもそうだ。小さいものに機能がギチギチに詰め込まれているのが好きなのだ。

高価な機材を取っ替え引っ替えしている人を羨ましく思う。
よく写るレンズ達と最新のカメラであらゆる画角をどんなシーンでも瞬間で切り取っていく。
プロならそこから先のプラスアルファが求められるのでそこがスタートラインだが、最近では大三元やら超望遠やら結構揃えているアマチュアも多い。新しいカメラが発売されればその度に買い替えるような、まぁ金はあるところにはあるんだなぁとこの業界を見てるとしみじみ思う。
だが、機材が足りていないからこそ撮れる写真というのも確実にある。
撮れないから、足りてないからこそ構図を考えたり、現像の技術を学んでいく。
そういう表面上の小手先の話だけでなく、もっと深い精神的な話だ。
つまるところ勝とうとか、負けないとか、見返してやるとか、そういう劣等感とも呼ぶべき精神性が結構大事なんじゃないかなぁと、最近思うのだ。

最近はSNSに代表される、いいねとかリツイートとかそういう“競争”は良くないという風潮で、何というかそれはそれで不健全だなぁと思うのだ。
彩度ギラギラのいいねを一杯貰えそうなアザトイ写真は駄目だよ、とか知ったような事を言うくせに何百何千のフォロワーから自分はいいねを貰っている。挙げ句Youtubeもやってて最後にはチャンネル登録よろしくお願いしますだ。全く“うるせぇ”って感じである。
世間に認めさせてやるというそういう反骨精神というかハングリー精神というか、そういう熱量は自己表現というフィールドにおいて必要なことではないだろうか。SNSに限らず賞を取ってやるとか、写真でお金貰いたいとか、そういう欲望だ。
そういうのは格好悪いと言われるような世の中だけど、簡単に自己発信できる今だからこそ、例え売れなくても自分を信じて暗室で黙々と現像していた昔の写真家のような泥臭さは必要なんだと思う。
“足りない”から生まれるハングリーさは時として物凄い作品を生み出す。
今プロと呼ぶべき写真家達は大なり小なりそういう体験をしているんじゃないか。いや、最初からそういう熱量もなくただセンスのみでのし上がってくるような本物の天才もいたりするけれども。

まぁつまり武器を持とう、という話だ。
最新の機材に対抗出来る、悩みに悩んで選び抜いた自分だけの武器。
僕にとって35mmウルトロンがそれだ。合わないからと言って変えることは出来ない。お金がないから。
だからこれを磨き上げていくしかない。
そうすることできっと自分にしか撮れない表現に繋がっていくと思う。

自分だけの武器で、「これは」という写真が撮れた時は最高に楽しい。
まぁ相変わらずイイねは貰えないんだけど。こんちきしょう、今に見てろよと踏ん張りながら撮る写真もまた楽しい。
そういう楽しみ方も、まぁ有りなんじゃないかな。ちょっと必死すぎと笑われそうだけど。

とか何とか思ってたらグリスが盛大に漏れ出して修理送りになった。キタムラの保証があって助かった。
お金ないからと言って適当なところで買わないで、中古の高い機材買う時はちゃんとした所で買おうね、というオチ。


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