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【感性を磨こう】面白いエッセイを書くコツとは?(2015年7月号特集)


※本記事は2015年7月号に掲載された林真理子さんのインタビュー記事を再掲載したものです。

林真理子さんインタビュー

どんなに失敗談を書いてもこんなにもドジな私という自慢話になる。いかに鼻につかないように書くかが大切。

——デビュー前に公募に挑戦されたことがあるとか。
作文やニックネーム募集など、いろいろ応募しました。パリ旅行を頂いたりしたこともありましたね。

――その後、エッセイがベストセラーとなってデビューされました。
これで世の中に出られなかったら一生売れないコピーライターのままだと思って背水の陣で挑みました。「ねたみ・そねみ・嫉妬」といった、今まで誰も書いてないことを書けば、読んでもらえると思ったんです。

――週刊文春ではエッセイを30年以上も書き続けられていますね。
『an・an』でもエッセイを連載していますから、これはan・anネタ、これは文春ネタと振り分け、素材の新鮮さや情報がかぶらないように気をつけています。週刊誌でエッセイを31年書かれた山口瞳さんを超えるまで、なんとか頑張りたいですね。

――アマチュアが初めてエッセイを書く際、特に気をつけたほうがいいことは何でしょうか。
自慢はだめですね。以前井上ひさし先生が「エッセイはすべからく自慢話である」とおっしゃった。これは本当に名言で、プロでも、どんなに失敗談を書いても「こんなにもドジな私」という自慢話になる。シロウトはいかに鼻につかないように書くかが大切。それから、新聞の投書欄にあるような上から物申す発言。これは絶対によくないですね。

物事を面白がり、同じことを見ても人とは違うことを感じられる感性が大切。それには意地悪な目線も必要。

――エッセイを書くために必要なコツについて教えてください。
あなたのことは誰も知らない、あなたの書いたものは誰も読みたがらない、こういう前提を忘れないでほしい。そういう人たちに読んでもらうためにはどうすればよいかを考え、面白いネタを一つ確保することが重要です。一見普通に思えることでも、夫婦げんかだけに特化する、子どもの反抗期を延々と書く、という手もあると思いますよ。

――ほとんどの方は、まず自分の体験を書きますが、面白く書くことがとても難しい。
職業柄、私たちはある程度の知名度があるので、誰と会って何を食べて、何を買ったか、それだけで喜んでもらえる部分がある。でも一般の方が同じことを書いても読者はつまらない。すごく面白い体験でないと。
闘病記やDVの夫、不登校の子どもの話なんて興味を持ってもらえるし、戦争中の話も貴重です。だけど、孫に囲まれて暮らす幸せな日々とかをただ書かれても響かない。そこにはやはり芸がいる。お金になる文章を書くのにはコツがあります。

――ほかにも何かありますか?
物事を面白がり、同じことを見ても人とは違うことを感じられる感性が大切です。それには意地悪な目線も必要ですね。そして、違う角度から書くけれど、なるほどと共感させないといけません

私はいつも聞き耳を立てているんです。するとネタになるような人が横に来てくれる。幸運だと思います。

――新刊エッセイ『マリコ、カンレキ!』の中には『中島ハルコの恋愛相談室』のモデルとなった女性社長のエピソードが出てきます。
震災の日にタクシーが拾えず、宅配便のトラックに乗ろうとしたり、お金持ちなのに駅のキオスクで立ち読みして売店のおばさんに怒られたり。自由奔放で強烈な個性の持ち主です。面白い人が現れてくれるのでありがたいですね。最近はそういう人を見つけるのがうまくなって、一週間に二人くらいは遭遇します。

――常に人間観察のアンテナを張り巡らされているからですね。
主人とお好み焼きを食べていたら、どう見ても夫婦ではない中年の男女がいた。男性は女性に「昨日いびきうるさくなかった?」と聞いている。
そして店を出るとき、男性が「飲み物代は持つから750円でいいよ」と言ったんです。一夜を共にした男女がお好み焼きを割り勘にしている。
すごい話だよねって夫に言ったら、夫は聞いていなかった。私はいつも聞き耳を立てているんですね。するとネタになるような人が横に来てくれる。幸運だと思います。

――最後に、公募ガイドの読者にメッセージをお願いします。
書きたいと言いながらなかなか書かない。実際に勝負に出るのが嫌で、想像の中で自分のことをすごいと思っているうちに一生を終える。そういう人が大勢いるんです。私は今は作家ですが、もしも作家でなかったら、こういった賞にいっぱい応募していたと思います。公平性があり、大きなチャンスを与えてくれるものを利用すべき。自分の才能を信じているなら、公募ガイドを見て、早く書きなさいと伝えたいですね。

林真理子(はやし・まりこ)
1954年山梨県生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、コピーライターとして活躍。82年エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』がベストセラーに。86年『最終便に間に合えば』『京都まで』で直木賞を受賞。95年『白蓮れんれん』で柴田錬三郎賞、98年『みんなの秘密』で吉川英治文学賞を受賞。最新刊『中島ハルコの恋愛相談室』など著書多数。

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※本記事は2015年7月号に掲載した記事を再掲載したものです。


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