見出し画像

【あなたは読者を意識できている?】伝えたい気持ちと読みやすさの重要性(2015年10月号特集)


※本記事は2015年10月号に掲載された辻村深月先生のインタビュー記事を再掲載したものです。

4.辻村深月先生インタビュー

小学生のときに小説を書き始め、24歳で作家デビュー、32歳で直木賞を受賞した辻村深月さん。透明度の高い文章で定評があり、今回本格怪談に挑戦した辻村さんに、怪談の面白さと小説を書く楽しさについて語ってもらった

深いところまで書けるのが怪談の良さで、人の思いや会いたいという願いを届けられるのも怪談が愛され、読まれてきた理由。

――今回は初の本格怪談ですが、一人称なので実話に思えますね。

実話系と呼ばれる怪談のアンソロジーにも書かせていただきましたが、実話系って絶妙なジャンルだと思うんですよ。完全に実話とは言いきらないし、だけど実話だと思って読みたい読者もいるだろうというなかで、実話の雰囲気を混ぜ込みながら怪異を届けられるジャンルですね。

――収録された「七つのカップ」は、交通事故で亡くなった女の子の霊と母親を描いていますが、これなどはいわゆる″怖い話〞とは違いますね。

深いところまで書けるのが怪談のいいところで、人の思いや会いたいという願いを届けられるのも、こんなにも長く怪談が愛され、読まれてきた理由だろうと思っています。

――「ナマハゲと私」は、現代のナマハゲの話が面白いですね。

昨今はナマハゲが来ても、「今ドラマ見てんの。やめてよ」って感じもある、と秋田出身の友人に聞いて、そこから私たち世代の民間伝承の話にしたかったんです

――「手紙の主」の手紙の主は誰だかわからず、それがだんだん近づいてくるのが怖いです。

この話の前半は、本当にあった出来事。どこまでが実際にあったのか、想像しつつ読んでもらいたいです。

昼間書けない分、家に帰ってからようやく小説が書けるという気持ちになり、書きたい衝動が色あせずに済みました。

――デビュー作は高校生のときに書き始めたそうですね。

高校生のときはただただ楽しく書いていました。友だちが読んでくれていたのですが、続きが楽しみと言われるたび励みになりました。

――メフィスト賞に応募したのは、普通の文学賞では規定枚数に収まらなかったからだとか。

あの作品にはあの枚数が必要だったと思っていますが、一大サーガ(長編)になっちゃう人っていますね。自分の表現したいことは、たとえば黎明編とか復活編とかに分けて全部書かないと完結しないという人の話を聞くと、「あなたもサーガ系ですね(笑)」って

――書きあぐねるのではなく、長すぎて完結しないのですね。

小学生のときに初めて書いたホラー小説は完結したんですが、それから先はなかなか完結せず、その時期に読んだ小説のあとがきに、「小説を書き上げたことがない人は、小説を書いているとは言えない」と書いてあって、ショックを受けました。あの言葉があったからこそ、書いてこられたのかなと思います

――デビューして4〜5年は働きながら執筆されていますね。

今考えるとすごくよかったなと思えるのは、昼間働いて夜と土日に小説を書く生活だったので、昼間書けない分、家に帰ってからようやく小説が書けるという気持ちになり、おかげで初期衝動とか書きたいって気持ちが色あせずに済んだことです。

――書けなかったことがない?

兼業時代は連載の話をいただいてもなかなかお受けできなかったので、専業作家になったタイミングでいただいた話をほとんど受けたんです。多いときは連載を8本かかえることになって、そうなるともうテニスでラリーをしているよう。締切が来るから打ち返すという感じでした

何かを伝えたいということが伝わってきて、字数を埋めただけじゃないと感じさせてくれる。そういう作品が魅力的。

――選考をされていて、どんな作品を読みたいと思いますか。

やっぱり最後まで一気に読ませる力を持った小説を読みたい。選考だということを忘れさせてくれるような小説に出会えると、絶対にこれを推そうという気持ちになります。

――気に読ませるのは不可欠?

一気にでなくとも、伝えたい気持ちが伝わってきて、字数を埋めただけじゃないと感じさせてくれる。そういう作品が魅力的だと思います。

――最後に、作家志望者に一言。

私もデビューしたときのものを読むと、すごく肩に力が入っているのがわかるんですね。20代のときに書いたものということもあって、難しい言いまわしをしていたり、使い慣れない語彙を使っていたり。

だけど、小説って読みやすいのが一番だと思うんです。読んだ相手がどう受け止めるか、どう思うか。目を通す人がいるんだということを意識しながら、その人に向けて書く気持ちを忘れずにいたら、きっと自分だけにできる表現が生まれるのだと思います

辻村深月
1980年、山梨県生まれ。04年『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞。11年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で直木賞受賞。ほか、『凍りのくじら』『ぼくのメジャースプーン』『ふちなしのかがみ』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『ハケンアニメ』『朝が来る』など著書多数。

特集:プロ中のプロがあなたの才能を引き出す! 
選考委員が教える小説講座

公開全文はこちらから!

※本記事は2015年10月号に掲載した記事を再掲載したものです。

いいなと思ったら応援しよう!