見出し画像

【たった一つを意識するだけで文章がまとまる!】エッセイの極意を伝授(2015年7月号特集)


先行する分の不足を補う

文脈という言葉がありますが、文を連ねるとはどういうことでしょうか。そこにはある規則があるのです。

不足を埋めながら文を連ねていく

〈吾輩は猫である。〉という書き出しのあとには、どんな文を書けばいいでしょうか。

〈吾輩は猫である。苦沙弥先生の家の飼い猫である。〉
〈吾輩は猫である。猫なのになぜしゃべれるのか……。〉

ほかにも無数にありますが、
〈吾輩は猫である。現総理大臣は安倍晋三である。〉
これだと意味がつながりません。〈吾輩は猫である。〉と〈現総理大臣は安倍晋三である。〉の関係がわからず、「はあ?」と思われてしまいます。この後続文では、なぜいけないのでしょうか。
端的に言えば、〈現総理大臣は安倍晋三である。〉は先行文の不足を補っていない、これが原因です

〈吾輩は猫である。〉と言われたとき、この文を読む人の頭にはいろいろな疑問がわきます
たとえば、「どんな猫?」「どこの猫?」「オスなの? メスなの?」「色は?」等々。
そうした疑問に答えた文なら、どんな文でも連ねられます

そして、〈苦沙弥先生の家の飼い猫である。〉と続けたとすると、今度は「苦沙弥先生って誰? どんな人? どこに住んでいるの? 先生って教師?」
というように新たに疑問が生まれますから、またそれに答えていく。これが文脈です。

文にはある一定の方向性、ベクトルがある

とはいえ、不足を補う文章であればなんでも書けるというわけではありません

上図では、〈吾輩は猫である。〉から浮かぶ疑問に答えた後続文としてA〜Hまで挙げ、さらにこの後続文に連なるA´ 〜H´を挙げました。
ある文章のゴールが、A-A´の先にあるとしましょう。このとき、E-E´の方向に書き出してしまったら、あとでAの方向に方向転換しなければならなくなります

もちろん、必要な迂回はありますが、ある文脈に書かれる文は、基本的にはすべて主題に向かっている必要があります

参考文献:鈴木信一著『文才がなくても書ける小説講座』

問いを作ってそれにこたえる

エッセイを書くときは、起承転結でなくてかまいません。ただ、うまくまとめるには、一つだけ条件があります。

問いと答えがあれば一文は完結する

エッセイを書く場合、起承転結などの定型にあてはめる必要はありません。
あてはめてはいけないとは言いませんが、あまり型どおりに書くと、文章のダイナミズムが失われます。エッセイは、思ったこと、見聞きしたことを気ままに書いてかまいません。どう書き始めてどう終わってもいいです。

ただし、一つだけ条件があります。それは問いを作ってそれに答えるということです。
問いといっても論文のような問いではなく、「東京に行った」ということでもかまいません。
でも、そこにも暗に「行ったからどうなの?」という問いがあり、それに答えないと話は完結しません

ここでは、問いと答えの代表的な4つの例文を示します。
文体は論文調ですが、これは問いと答えの関係を端的に示すためであって、エッセイを書くときは、もっとやわらかい文体でかまいません

シンプルに問いがある

例文:文学賞に応募するとき、過去の受賞作に共通する方向性を調べ、その線で書いていくほうがいい、というのは本当だろうか
確かに、それぞれの賞にはそれぞれのカラーがあるように思うが、だからといって、「あの賞はこの手の作品が多いな」と誰もが思うような直球どまんなかでは、ライバルと内容がかぶる可能性があり、そうなったらまず入選しない。類似作品への評価は辛いのだ。
だから、文学賞の傾向を知ったら、それとは真逆の作品を書く方向で考えてみてほしい

解説:最初に「だろうか」という問いがあり、次に反証し、最後に答えを書いている

言外に問いがある

例文:文学賞に応募するとき、賞の趣旨や過去の受賞作の傾向を調べ、その線で書いていくのは、マーケティングの手法としては正しい
確かに、それぞれの賞にはそれぞれのカラーがあるから、見当違いの作品では話にならない。
問題は、文学賞が求めているのは新しい作品ということ。求められるのは賞のカラーに合った作品ではなく、賞のカラーを壊すような傑作なのではないだろうか。
だから、文学賞の傾向を知ったら、それとは真逆の作品を書く方向で考えてみてほしい

解説:表面的には問いはないが、前半部分では言外に「本当にそうだろうか」という問いを発している

全体が答えになっている

例文:文学賞に応募するとき、過去の受賞作に共通する方向性を調べ、その線で書いていく。受賞を目指すなら、これはお勧めできない
理由は三つある。
第一に、過去の受賞作に有名な作品があったりして、傾向はそれに由来することが多いのだが、誰も二番煎じを求めていない
第二に、求められるのは賞の傾向に沿った作品ではなく、その賞のこれからの代表作になるような傑作だろう
第三に、そもそも似た作品はまとめて落とされるから入選しない

解説:冒頭で「お勧めできない(それはなぜか)」と暗に問い、そのあとでそれに答えている

答えが言外にある

例文:文学賞に応募するとき、過去の受賞作に共通する方向性を調べ、その線で書いていくほうがいい、というのは本当だろうか
確かに、それぞれの賞にはそれぞれのカラーがあるように思うが、だからといって、「あの賞はこの手の作品が多いな」と誰もが思うような直球どまんなかでは、ライバルと内容がかぶる可能性があり、そうなったらまず入選しない
類似は最大の欠陥だ。あの作品に似ているとか、あの名作の影響がもろに出ているなどという作品では、まず受賞することはない

解説:はっきりと答えを書いていませんが、反証の部分が厚いので結論は言わずもがなです。

特集:エッセイでトホホな日をお金にかえる!
公開全文はこちらから!

※本記事は2015年7月号に掲載した記事を再掲載したものです。

いいなと思ったら応援しよう!