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【つまらないとはもう言わせない!】話の組み立て&導入部を面白くするには(2017年6月号特集)
ここでは、なんということもない話を面白く変えてしまうテクニックを紹介します。ごく普通の日常を笑い話にする、面白くなかった話をリメイクするときに使えます。
持ち上げておいて一気に落とす
まったく同じ体験をしても、どう書くか、どのような組み立てにするかによって、話の面白さは全然違ってきます。その実例として、ひとつ皆さんに練習問題をやってもらうとしましょう。
当博物館の訪問者数はあまりにも少ない。世界的にも稀有な歴史的遺構や遺物を数多く展示しているというのに、もったいないことです。
これでは面白くない。この話を面白くしてください。
当博物館は世界的にも大変貴重な、稀有とも言える歴史的遺構や遺物の宝庫である。なかでももっとも珍しいのは、訪問者である。
一種の自虐ネタですが、ニヤリとなりますね。では、もう一問。
劇評論家が演出家に嫌味を言う。「昨晩は君が演出した舞台を見たけれど、退屈で居眠りしちまったよ。おかげで夜は一睡もできなかったよ」
これでは単なる愚痴ですね。こちらも面白くしてください。
劇評論家が演出家に言った。
「昨晩は君の演出した舞台を見たせいで、夜は一睡もできなかったよ」
「そんなに興奮したかい」
「いやあ、単に劇場でぐっすり眠れたおかげなんだけどね」
落とすためには、その前にいったん持ち上げる。それがコツ。
次のなんでもない話を面白く作りかえて!
昨日、シャックリを直してやったんだ、一発で。八十を過ぎた女性なんだけどね、「オメデタですね」って言ってやったら、泡を食って。たちまちシャックリが止まっちゃったよ。ハハハハ。
主人公は、産婦人科医の亀田先生。彼のもとにシャックリが止まらないという人が来て、治してあげたわけです。この自慢話を読んで、面白く書きかえてください。字数は600字程度とします。解答例は下記をご覧ください。
【模範解答】
今年八十一歳になる院長夫人が、せっぱ詰まった顔で夫の病院に飛び込んできた。夫である院長は病院内の庭にいたのだが、夫人の様子が気になったので診察室のほうに向かった。と、診察室のドアが開き、夫人が飛び出してきた。
「あなた、あの亀田って先生、どうしようもない藪医者よ。とっととクビにしてちょうだい」
「いったい藪から棒になんだっていうんだ。亀田くんは確かに性格的には問題があるが、産婦人科医としての腕は確かだよ」
「冗談じゃない、あの人、ろくに診察もしないで、私が妊娠しているって言ったのよ」
「なんだって? 君はもう八十一だし、そもそもオレのアレは……いや、それはいい。ともかく、ちょっと注意してきてやろう」
院長は早速、亀田医師のいる診察室のドアを開けた。
「亀田くん、いったいどうしたことだね。ろくに検査もせず、ひ孫もいる家内に妊娠しているって。そんな診断をしたと世間に知れたら病院の信用問題だよ」
ふだんは穏やかな院長が口角泡を飛ばしているというのに、亀田医師は涼しい顔、いや得意げな顔をしている。
「治療の結果は上々です。なぜって、奥様は「誰でもいいから、早く私のシャックリを止めて」と言って駆け込んできたんです。止まりましたよね、シャックリ」
隣で夫人が目をむいた。
導入部は物語の命。10パターンは考えよう
小説の導入部はとても大事です。文学作品の中には、ジェットコースターの最初のようにだらだらと上っていき、頂点から一気に加速して下降ものもあります。
しかし、普通の小説でそれをしたらいけません。読者は冒頭の数ページを読んだだけで立ち読みをやめてしまいますし、あとで面白くする筆力があるのなら、最初から面白くしてくれと思うでしょう。
では、面白くするコツは? ひとつはやはり謎です。これはどういう話なのか、どうなるのか、知的好奇心をそそれれば最高です。
ただ、ここで注意しなくてはいけないのは、隠しすぎること。読者は謎が好きですが、謎を謎のまま引っ張られるのは嫌いなのです。「答えはまた明日」なんて言われたら、今教えてほしいと思ってしまいます。ことに、話がどこに進むのかがわからないのは最悪です。
となると、読み手の興味を惹き、ゴールを見せつつ、しかし、謎は配するわけですから、これは一筋縄ではいきません。とりあえず、10パターンぐらい考えて、その中から最良のものを選べれば一番いいです。
倒叙にして謎を創出するという手も
導入部のパターンはいろいろありますが、今では定番になりつつあるのが、結末(またはその一つ前)を冒頭に持ってくる方法です。
結末を最初に書くということは、物語が進む方法を示すということです。その一方で、どうしてそんなことになったのかという疑問を残すこともできます。いわゆる倒叙型ですが、一度試してみるのもいいでしょう。
Q:以下の話に、効果的な導入部を付けてください。
私たちは、以前、船乗りをしていました。あるとき、私たちは遭難し、小さな島にたどり着きました。そこには動物もいなければ植物もなく、船にあった食料はたちまち底をつきました。私は比較的元気でしたが、乗組員の鷹田は衰弱が激しく、意識がもうろうとしていました。
私は島中を歩き、食料を探しましたが、どこにも見つけられませんでした。
しかし、運がいいことに、遭難して七日目に、ようやく食材を手にすることができました。私はそれで温かいスープを作り、鷹田に食べさせました。
鷹田はこれはなんだと聞きました。
「ウミガメのスープだ」
鷹田は、自分の命を救ったこのウミガメのスープの味を決して忘れないと言いました。運命は皮肉です。この翌日、私たちは救助隊によって発見されました。救助隊員は無線にこう言いました。
「遭難者三名のうち、二名の生存者を発見」
私たちは最初、三名いたのです。
【模範解答】
上記の話は、直木賞作家・景山民夫のエッセイに書かれ、後にテレビ番組「世にも奇妙な物語」でドラマ化されたものをアレンジしたもの。
では、解答の例を。
鷹田はあるレストランに入ると、ウミガメのスープを注文した。一口飲むとシェフに聞いた。
「これは本当にウミガメのスープですか」
シェフがうなずくと、鷹田は席を立ち、会計を済ませて店を出た。翌日、厩田は海に身投げし、自殺した。私は鷹田の葬儀に行った。そこである新聞記者に問い詰められ、私はこう語った。
特集:笑いを知れば、もっと小説は上手くなる
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※本記事は「公募ガイド2017年6月号」の記事を再掲載したものです。