ツールが発達した今だからこそ試される私たちの良識(『荘子』天地篇)
今回取り上げるのは『荘子』天地篇からの言葉。
便利な道具があると、必ずそれを使って作業しようとする。
しかし、便利な道具ばかりを使って作業していると、余計な考えを抱くようになる、という意味。
つまり、便利な道具に頼ってばかりいると、それらに振り回されて、本来の人としての純粋さを失ってしまう、ということですね。
「機心」は「小賢しい企み」といった意味ですが、ここではもう少しマイルドに訳してみました。
荘子は、今回の言葉を以下のようなエピソードを用いて語っています。
簡単にご紹介しますね。
昔、孔子の弟子の子貢が地方に行ったときのこと。
水瓶を抱えた老人が、一生懸命に井戸から水を汲みながら、畑の作物に水をやっていました。
その様子を見た子貢は語りかけます。
「いちいち自力で水を汲んでいては大変でしょう。今はつるべという便利なものがあるのですから、それを使うのをおすすめします」
すると老人は、
「私もつるべのことを知らないわけではありませんが、あえて使っていないのです」
と答え、
「便利な道具に頼ってばかりいると、それらに振り回されて、本来の人としての純粋さを失ってしまいます。純粋さを失うと、天から与えられたこの生命も揺らぎかねません。それは宇宙の真理に背くことなので、私は便利な道具を使わないのです」
と語ったのでした。
ざっくり訳していますが、要するに、
便利な道具の発達は喜ばしいこと
しかし、道具に振り回されてしまうと、心が堕落する危険がある
ということですね。
ちなみに、鶴瓶とは以下のようなものです。
井戸から水を汲み上げる道具のことですね。
先ほどの老人は、道具に振り回されることを恐れたために、あえて道具を使わない選択をしました。
それも一つの方法かもしれません。
しかし、現代において便利なツールを一つも使わずに日常生活を過ごすのは、おそらく不可能でしょう。
そこで大切になるのは、便利なツールに振り回されないように、正しい知識と心構えを持つことだと思います。
例えば、SNSは情報収集や意見・想いの発信に役立つ便利なツールですが、使い方を間違えると自分や他人を傷つける武器にもなります。
特に最近では、スポーツ界隈での誹謗中傷がひどくなっているようです。
熱心に応援しているからこそ、チームが負けてしまった際に熱くなってしまうのかもしれませんが、その結果としてチームの選手や家族を傷つけてしまっては良くありません。
選手の士気が下がると、チームの成績も悪化してしまいます。
簡単に発信ができる便利なツールだからこそ、感情をそのまま爆発させたりせず、一度落ち着いて発信内容を確認することが大事です。
正しい使い方とマナーを覚えて、便利なツールに振り回されないようにしましょう。
今回は、便利な道具に頼ってばかりいると、それらに振り回されて本来の人としての純粋さを失ってしまう、という言葉をご紹介しました。
便利な世の中になった今だからこそ、それを使う私たちの良識が試されています。
せっかくのツールですから、どうせ使うならポジティブな方向で使っていきましょう。
もしくは、荘子のお話に出てきた老人のように、あえてアナログなものを使うのもありだと思います。
特に、自分の負の感情を発散させるときは、SNSよりもノートや日記に手書きするのがおすすめです。
手書きで感情を発散させる方法は「ジャーナリング」と言います。
ストレスレベルを低下させて集中力を向上させる力があり、Googleの研修でも取り入れられるほど高く評価されているものです。
こういったアナログな方法も選択肢にいれながら、便利なツールと上手に付き合っていけたら良いですね。
それでは今回はここまで。
また次の記事でお会いしましょう👋
私のnoteでは「中国古典の知恵を身近に分かりやすく」をテーマに、様々な中国古典の言葉を取り上げてご紹介しています。
中国古典にあまり触れたことがない方向けに、身近なテーマを織り交ぜながらご紹介していますので、古典に触れるきっかけになれれば嬉しいです。
過去の記事は古典ごとにマガジンにまとめていますので、以下からご確認ください。
取り上げている言葉につきましては、原文と複数の日本語訳を確認し、古典に触れたことが無い方にとってのわかりやすさを重視しながら、私なりの解釈を加えてご紹介しております。
これは他の解釈を否定するものではありませんし、そのつもりもありません。
中国古典は古来より数多くの解釈・翻訳がされてきた分野ですので、一人一人にとっての解釈の仕方があって良いと考えております。
そのため、古典に造詣が深い方にとっては解釈が一致しない場合があるかもしれませんが、多様性の一つとして捉えていただければ幸いです。
また、「もっと色々な古典に触れてみたい!」という方向けにメンバーシップも開設しています。
メルマガ形式で運営しており、面倒な交流などは一切ありません。
月に数本、『史記』や『資治通鑑』などの歴史書を中心に、学びにつながる記事をお届けしています。
初月無料ですので、お気軽にご参加いただけたら嬉しいです🍀