自分の発言に責任と慎みを持つということ(馮道「舌句」)
今回取り上げるのは馮道(ふうどう)の漢詩からの言葉。
口は災難を招き入れる門のようなものであり、舌は自分の身を傷つける刀のようなものだ、という意味。
つまり、不用意な発言は自身を苦しめることになる、ということですね。
日本でよく知られている「口は災いの元」の原形だと考えられています。
馮道(882年~954年)は五代十国時代の政治家。
とても優秀な人ですが、彼の人生は波瀾万丈。
無謀なことをする主君に諫言して幽閉されたり、奇跡的に助け出されて転職したものの、転職先の君主が近衛兵に殺害されてしまい、なんだかんだあって左遷されたり。
かと思えば、左遷されていたことが幸いして、自国が滅亡した際の混乱を生き延びることに成功。
もう一度転職して宰相まで上り詰めたものの、主君が病死すると再び左遷の憂き目にあったりします。
すると、左遷中にまたまた自国が滅亡。
今度は、攻め滅ぼした側の皇帝に気に入られて宰相に抜擢されるのですが、その皇帝も早々に病死。
しかし、これらの衝撃的な出来事にもめげずに転職活動を行った馮道は、別の国に取り立てられて宰相に返り咲くことに成功します。
まるでジェットコースターのような人生ですね。
五代十国時代は、その名の通りたくさんの国々が建国と滅亡を繰り返した激動の時代です。
その只中にあって、馮道は「後唐・後晋・遼・後漢・後周」の5つの王朝で計11人の君主に仕えました。
馮道は自身が仕えた主君たちを「五朝八姓十一君」と称しています。
なかなかの転職回数ですね。
また、馮道は各王朝から高く評価されており、宰相としての累計在任期間は20年にも及びます。
宰相に就任している際には、農民を軽視する武闘派な皇帝たちをうまく説得して虐殺をたびたび回避していたため、当時の農民たちから深く慕われていたそうです。
特に、遼は北方遊牧民族が興した王朝ですから、漢民族である馮道の発言に耳を傾けてもらえたというのは、それだけ信頼されていたことの証でしょう。
このように、馮道は国家や民族の垣根を超えて、常に高く評価・信頼され続けました。
その理由は、彼の誠実さと能力の高さにあるのは間違いありません。
しかし、何度も左遷されたり、自国が滅亡したりしたとしても、激動の時代を生き抜いてこられたのは、常に自身の発言に気を付けていたことも大きかったのだと思います。
彼の波瀾万丈の人生を知った上で、この言葉を見てみると、何だかとても感慨深いものがあるような気がしてなりません。
馮道は口は災いの元だとよく理解していましたが、それは決して「災いを恐れて何も喋らない」ということではありません。
大事なのは、時と場合を見極めて、自分の発言に責任を持つことです。
先ほどもご紹介したように、彼は諫めるべきときには身を挺して諫言を行っています。
たびたび左遷されたのも、時の皇帝が、彼の実直で誠実な人柄を嫌ったが故でしょう。
誰かが間違ったことをしようとしているときは注意するけれども、それ以外では余計なことは言わない、というのは意外と難しいものです。
私なんかは相手の反応が怖くて何も言えないことが多いですし、たまに調子が良いと、口がすべって余計なことまで喋ってしまいます。
あとになって、「あんなこと言うくらいなら、ずっと黙っていればよかった……」と一人で反省会をすることもしばしば。
言うべきときには諫言し、それ以外では慎ましく、戦乱で苦しむ民の安寧のために尽力し続けた馮道は、とても素晴らしい政治家だと思います。
私も彼を見習って、発言には十分気を付けつつ、言うべきときにはきっぱりと発言するような人になりたいです。
今回は、不用意な発言は自身を苦しめることになるので、よくよく慎みなさい、という言葉をご紹介しました。
実をいうと、何度も主君を変えた馮道の生き方は、歴史的にはあまり評価されていません。
むしろ、過去の歴史家たちからは「無節操なやつ」とすら言われました。
しかし、私個人の意見としては、五代十国という激動の時代を考えると、馮道のような生き方も仕方がないように感じます。
それよりも、どの国に仕えていても民のために努力しようとし続けた彼の姿勢を評価してあげたいな、という気持ちです。
そう考えると、馮道の生き方やあり方は、むしろ現代の大転職時代に近いものがあるのかもしれません。
どのような場所に行っても、相手が誰であっても、自身の発言には慎みと責任を持って対応できるようになりたいなと思いました。
それでは今回はここまで。
また次の記事でお会いしましょう👋
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